京からの書状
清洲の一角、薄明の光が書院を満たす頃。
義達の手に、一通の書状が届けられた。
差出人は――**細川京兆家、細川左京大夫高国**。
「……京兆家からか。」
義達は眉をひそめつつ封を切り、静かに文を追った。
そこには、端正ではあるが焦りを隠しきれぬ文面が連なっていた。
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**「大内殿、先日ついに周防へ還られた。
長き在京にて国元が荒れ、留守居衆がこれ以上耐え難しとの由にて。
さて、かの大内義興が京を去りて後、
御所の守り、急に脆くなり申した。
山城の国衆は互いに牽制し合い腰が重く、
公卿方も日々不安を洩らされる。
斯波殿は東国の乱を鎮め、尾張を安堵せしめたと聞く。
ついては――
**一時、上洛して御所の護衛・威光の補佐に当たってほしい。**
将軍家(足利義植公)の御意にも外れず、
これは斯波家が再び公家の信を得る好機ともなろう。
急ぎ返答を乞う。」**
細川左京大夫高国
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義達は文を読み終えると、ゆっくりと息を吐いた。
「……なるほど。大内殿が帰国して、京が揺らぎ始めたか。」
机上に文を置き、しばし天井を見つめる。
斯波家にとって京は縁の深い都であり、
義達自身もかつて前の将軍 足利義澄に近しかったため、
今の将軍・足利義植からは長く冷遇されてきた。
だが、今――。
義達の目に、静かな光が宿った。
「懸案の今川との和議も整った。
尾張の内乱もようやく鎮まりつつある。
斯波の名を、再び京に通す機会が来たか。」
唇の端が、ごく微かに上がる。
「義植公に嫌われて久しいゆえ、
ここで働きかければ“斯波はまだ使える”と印象づけられる。
尾張を守るためにも、朝廷との縁は細らせぬ方がよい。」
義達は筆を取り、返書の草案を静かに書き始めた。
「……これは、悪くない。むしろ好機か......。」
京の情勢が揺らぐ時、
その揺らぎの隙に、自らの立場を立て直す。




