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どうしてこうなったー尾張三代記ー  作者: あいまいもこ


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128/189

娘、叱る、佐久間、逃げる。

佐久間が戻ると、在所にある小屋の前で、例の“姉の方”が腕を組んで待っていた。


「佐久間様。」


声が冷たい。

いや、冷たいというより、覚悟を決めた者の声音だ。


(……ああ、これは叱られる。)


佐久間は悟った。


「お、おう。戻ったぞ。」


娘は一歩、佐久間へ踏み出す。


「――嫁ぎ先。どうなりました?」


「ま、待て。いきなり核心を刺すな。」


「核心以外に聞くことがありますか?」


佐久間は少し肩をすくめ、逃げ場を探すように視線を泳がせた。


「その……今日、弾正忠様には話してきた。」


娘の眉がぴくりと動く。


「ほんとうに?」


「うむ。饅頭を持ってな。……まあ、饅頭が主ではなかったが。」


「饅頭が主だったら怒りますよ。」


「怒る必要はない。弾正忠様も笑っておられた。」


娘はじっと佐久間を見つめる。

その目は、嘘を見抜くのに慣れた母親のように鋭い。


「……で? どう言われました?」


「心当たりを探してくださるとよ。」


「“とよ”じゃなくて、もっと詳しく!」


「こらこら、叱るでない。わしは良かれと思って――」


「あのですね佐久間様。」


娘は一歩詰め寄り、人差し指で佐久間の胸をつついた。


「このままでは、ほんとうにいかず後家になります。

 志段味の者がどう思うか、分かってますか?」


「わかっておる。だからこそ弾正忠様にも――」


「遅いんです。」


「……遅いか?」


「遅いです。」


佐久間は頭を掻いた。


「だがな……嫌ではないのか?」


「何がです?」


「嫁ぐということが。」


娘は少し目をそらし、口を結んだ。


「……嫌ではありません。」


「ならば良いが……何をそんなに焦っておる?」


娘はほんの一瞬、頬を赤らめて目を伏せた。


「……弟がもう、立派に働ける歳になりました。

 私ばかりここに残っていても仕方ありません。

 志段味も落ち着きましたし……」


そしてふっと表情を変え、いつもの強さが戻る。


「それに、佐久間様。」


「ん?」


「あなたは人のことになると、急にのんびりしすぎなんです。」


「わしは慎重なのだ。」


「違います。のんびりなんです。」


「……そうか。」


「そうです。」


佐久間は肩を落とし、苦笑した。


「だがの、わしがのんびりしておるのは――

 お主が“どこの家に行っても困らぬように”と思っておるからだ。」


娘の目がわずかに揺れた。


「……そこまで考えてくれていたんですか。」


「当たり前だ。志段味がここまで立ち直れたのは……

 お主の働きが大きかった。」


娘は黙ったまま、視線を落とす。


佐久間は続けた。


「だから、粗末に扱われるようなところには絶対にやらぬ。

 安心して嫁げる家でなければ……わしが許さん。」


娘はしばらく沈黙し、やがてぽつりとつぶやいた。


「……それ、先に言ってください。」


「言ったつもりだったが。」


「言ってません。だから叱ったんです。」


「……うむ、すまん。」


娘は深く息を吐き、力の抜けた笑みを浮かべた。


「分かりました。

 では――良いところを見つけてくださいね?

 佐久間様の“のんびり”は、信用してますから。」


佐久間はようやく肩の重荷が下りたように笑った。


「任せておけ。

 わしは饅頭も作れば縁も繋ぐ。

 志段味の者は、皆わしの家族みたいなもんだ。」


娘は小さく頷き、照れくさそうに言った。


「……ありがとうございます。」


そして、いつものようにすぐ強気な表情に戻る。


「ただし。遅いとまた叱りますから。」


「叱るのはほどほどにな。」


「ほどほどにはしません。」


「せぬのか。」


「しません。」


二人の軽口が、夜の志段味に柔らかく響いた。

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