もう1つの用向き
信定が二つ目の饅頭に手を伸ばしたころ、
佐久間は少し姿勢を正し、咳ばらいを一つした。
「それはそうと――本日は、もう一つお願いがあり参上いたしました。」
信定は饅頭をつまんだ指を止め、怪訝そうに佐久間を見た。
「また饅頭絡みの話か?」
「いえ、これは饅頭より厄介でございます。」
「それは相当に厄介だな。」
佐久間は苦笑し、籠の横で両手を合わせた。
「昔、志段味で保護いたしました姉弟がおりましてな。覚えておられますか?」
「ああ、あの時の。確か、弟はまだ幼かったはずだ。」
「はい。その姉の方でして……まあ、年頃でして……」
信定が片眉を持ち上げる。
「……婿探しか?」
「はい、見事なまでにその通りでございます。」
佐久間は肩をすくめ、微妙に視線を泳がせた。
「先日、『そろそろ嫁ぎ先の一つも見つけてくれ。いかず後家にする気か』と叱られまして。」
信定は思わず吹き出した。
「お前、女に叱られる歳でもなかろう。」
「いや、あの娘は強い。私より強い。鍛えれば槍も持てましょう。」
「それは嫁ぎ先を間違えると家中一軒潰れかねん。」
「でしょう? ですので……弾正忠様の御目で、どこか良い家があればと。」
信定は笑いながら饅頭を机に置いた。
「なんだ、饅頭の次は縁組か。お前は尾張の胃袋だけでなく、家々の縁まで治める気か。」
「いえ、弾正忠様の政務の邪魔にならぬよう、甘味のついでに……。」
「ついでで縁組を頼むな。」
信定は苦笑しつつも、顎に手を当てて考え込む。
「……年は?」
「今年十八になります。」
「働き者か?」
「はい。志段味をまとめるのは、実質あの娘です。」
「性格は?」
「強い。」
「もっと他にあるだろう。」
「……顔は悪くないほうかと。」
「だいぶ曖昧だな。」
それでも信定はしばらく考え、ふっと優しい声を落とした。
「……志段味の者か。なら、どこかに押し込むのではなく、相性も見てやらねばな。」
佐久間は頭を下げた。
「弾正忠様のお言葉、まさにその通りでございます。あの姉弟は、志段味の復興に尽くしてくれました。適当な扱いはしたくありません。」
信定は静かに頷く。
「分かった。心当たりを探してみよう。ただし――」
「ただし?」
「その娘に、まずは『人に物を頼むときは叱るのではなく、頼むものだ』と伝えておけ。」
佐久間は苦笑し、深く頭を下げた。
「……はい、肝に銘じて伝えておきます。叱られぬ程度に。」
「叱られるのはお前だけで十分だ。」
二人の笑いがまた重なり、
戦や和議の緊張とは別の、人の暮らしの温度が書院に満ちていった。




