56 さよならの意味
<この回の登場人物>
西園寺海斗
この物語の主人公(33歳男性)、父の持つクローン研究のマスタデータ取得しようとしている。
美桜さん
海斗の元妻(29歳)、西園寺家の弁護士が所属する弁護士事務所のパラリーガル
家同士の結婚でクローン研究のデータ回収のため、身の危険が及ばないように海斗から切り出して離婚した。
二年前に命を失ったはずの友人たちが生きていた。
クローンとして生まれた友人の一人である光は、そのクローン研究を実施していた海斗の父の元にある研究の全てを回収してほしいと海斗に頼む。
海斗はクローン研究の実担当だった兄の病院にある研究データそして父の持つ研究のマスタデータを回収した。
その帰りに父との接触を避けるために、偶然出会った美桜さんにキスし、美桜さんに議員会館にいた理由、そして離婚の理由を聞かれて答えた海斗。それらを聞いて、美桜さんはさよならのキスを求めた。
ナリが待つ家に着いた。
リビングにいたナリから声をかけられた。
「おかえり。あのさ…」
俺は息を大きく吸って、笑顔を作って言った。
「電話、遅いぞ。まぁ、なんとか大丈夫だったから…とりあえず着替えさせて」
そのまま部屋に入ってベットに腰を下ろした。
自分のふるまいを思い出して、落ち込む。
冷静になって考えれば、さすがの自分でも、気が付いた。
…美桜さんは…俺を好きなんだ。
そして俺は恐らく、美桜さんを勘違い…させたんだ。
だから、彼女は俺があの場所にいた理由を聞いて、…落胆したんだ。
いつから?
結婚していた時から??
昔の俺も知っていて…なぜ?
自分の理解が追い付かなかった。
1つだけ、わかったことは俺は彼女を傷つけたという事実。
理由があったとしても…キスするべきじゃなかった。
今はそう思っていても…もう一度、あの時間に戻ったとして、俺は自分を止められる気はしなかった。
それまでの父や秘書たちとのやりとりに、鎧で固めていた自分の心が美桜さんに会って解けて、抱きしめて彼女がそこにいると実感した感覚……これほど安心した気持ちになるのは、久々だった。目の前にいるともっと感じたかった。
美桜さんの優しさに自分は甘えたのだ。
その報いなのかな、この今の俺の感情は。
あの後、本当のことを言わなければよかった?
でも、美桜さんの前でもう自分を繕いたくなかった。
そしてそうじゃなければ、俺は君の気持ちもわからなかった。
さよならのキス。
その"さよなら"に美桜さんの気持ちが込められていて、何も言わなくていい、そして暗にもう会わない、と言われているように感じた。
最後の最後の最後まで気が付かなかった自分に嫌気が差す。
もう何を感じようとも、伝える相手はいない。
美桜さんは俺に強烈な思い出を残して、鮮やかに去ったのだ。
俺の気持ちを置き去りにしたまま。
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