57 目的遂行とこれから
トントンと扉をノックする音がした。
「海斗?」
「あーー、疲れててちょっと休んでた。着替えて今、そっちに向かう」
俺はナリに言って、スーツを脱いで部屋着の大きなスエットに頭を入れて被った。
『何、考えているんですか?』
恒星の洋服が俺に声をかけてきたような気がした。
俺は心の中で、何も…と呟く。
『報い、ですか?』
わかってる、そうだよ。
いつだって俺は周りに甘えて、自分の内面を表さないまま、だ。
だからこその結果なのだと自分自身に強く言い聞かせている。
…自分を許さなくていい、ずっとそう思っているよと心の中の恒星に語りかけた。
『忘れないでください、俺はそのせいで殺されたことを』
忘れないよ、忘れるわけがない。
自分が行ったこと、後悔もあの時感じた全てのことを、全て覚えてる。
『そうであれば、いいんですけど』
自分の中の自分を納得させて、俺は着替えを終わらせた。
部屋を出て、ナリの視線を感じつつ、俺は洗面台に行き、顔を洗い、気持ちを切り替えた。
****
俺はナリに父の議員室から得たハードディスクを見せる。
「はい、これがマスタデータ。後でデータだけ別のものに移し替えるけど、全部、回収した」
ナリは「これで全部か…目的の達成」と言い、「俺は光とルカの所に渡してくるわ」という。
「海斗はどうするの?」
その時、俺の携帯が鳴った。
電話を見ると森下からだった。俺は着信を取らずに、「そうだな…それがなくなったのがわかったみたい。後片づけしてくるよ」とナリに言う。
「大丈夫なのか」
ナリは心配そうに俺に聞いた。
「ーうん、大丈夫、二人によろしく伝えて」
「そういえばさ…電話遅れてごめん」
ナリは”父が議員会館に来る前に連絡してほしい”という俺の依頼が遅れたことを謝罪しているようだった。
「うん、びっくりしたけど…まぁ、別に大丈夫だったから、どうしたんだ?」
もう終わったことを蒸し返しても…と思ったが、いちおう理由を聞いた。
「スプリンクラー止める信号を出した後、それらの形跡を消去するのに、手間取って…それに予想以上に議員が早く来たから、パニックって…ほんと、ごめん。」
ナリは申し訳なさそうに説明した。
「まぁ、それを検証する時間もなかったし、しょうがないことだったんじゃない?」と言って、「そういうことが起きる可能性を考慮しなかった俺も悪いし…」とナリに言い、「じゃあさ、俺、一つ、お願いしてもいい?」と聞く。
ナリは一人で光とルカの所にいくと言った。
まだ俺はやることがあるから、一緒に行けない。
俺がいない中で3人でマスターの家にいる時の空気はどんなものだろうと思いを巡らした。
せめて目的が達成した、この瞬間だけでも3人で楽しんでほしいと思った。
だからこの話にかこつけて、俺はナリにお願いする。
「なんだよ?」
「思うに、絶対にこの話したら、ルカは怒ると思うんだ」
想像であるが現実的に起こりえる話をした。それにナリは相槌を打って、「あぁ」という。
「今回の件、隠しておいてやるから、ルカの好きな所に皆で行けばいいと思うんだよな」
この前は光の希望で海になったという話だったので、俺はルカの希望を聞くように提案した。
「え、どういうことだよ?」
俺の突飛な案に、ナリは驚いた表情をした。
「怒られて相手の思う通りのことになるか、それともこちらから提案して相手の思う通りのことになるかという選択の話だよ」
ナリは「う……うん」と唸って相槌を打った
「皆で好きなところって、海斗は来ないの?」
「まぁ、行けたら行くけど…さっきも言ったけど、俺にはまだやることがあるし…」
俺が行ったら確実に、俺とルカ、光とナリのコンビだろ?
それではルカの希望が通っても、ルカの気持ちは晴れない。
俺は3人に楽しんでほしいんだ。
さすがに3人になれば、二人にナリは気も遣うだろうし。
連絡が遅れた分、ナリは光とルカの間で困ればいい、と少し子供っぽいことを考えてしまった。
そんな俺の考えごとをよそにナリは勝手に納得した。
「わかったよ、連絡して聞いてみる」
「ナリ、俺、後片付けが全て終わったら、自分の家に帰るから」
俺は言う。
「俺たちもいつまでこっちにいるのか、わかんないけど、とりあえず、大晦日は空けておいて。マスター含めて、お祝いしようぜ」
「あぁ、わかった、その日は参加する」
俺は返事をした。
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