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優秀な豚の自滅【消えた総工費800億の橋。古新聞から国家の嘘を暴くミステリー】(毎日21時更新)  作者: 碑肉


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第五話 狂わないための精神安定剤

ここから本当の謎や秘密に迫ってきます。黒田は結局何を残したかったのか?古新聞好きだという点を除いてごくごく普通の高校生の主人公はこの謎や秘密に惹き込まれていきます。

次に見つける新聞には、僕自身の名前が載っているということを。

 ――そんな気の利いた、あるいは最悪なナレーションが脳内で再生されるような衝撃が、僕の指先を硬直させていた。


 目の前にあるのは、二十四年前の『東邦中央新聞』の縮刷版だ。

 黄ばんだ紙面の隅にある、ごく小さな三面記事。そこに、その文字は確かに印刷されていた。


『東邦中央大橋の建設現場付近で、男児が一時行方不明に。無事保護』

 その男児の氏名の欄に、僕の、あのひどくありふれた名前が記載されていた。

 

 笑えない冗談だ。

 誰か僕の知らない同姓同名の少年が、二十四年前に存在していたのだろうか。


 いや、人類の偶然というやつには一定の信頼を置いている僕だが、流石に「総工費八百億円の消えた橋」のニュースを追っている最中に、その橋の麓で僕と同じ名前のガキが迷子になっていたという確率を計算するほど、

僕の脳は楽観的にできていない。


 だが、待ってくれ。

 仮にこれが「僕自身」の記録だとしたら、数式がおかしくなる。

 僕は今、十七歳の高校生だ。


 二十四年前の新聞に名前が載っているということは、僕は生まれる七年も前に、その橋の近くで迷子になっていたことになる。

 

 タイムトラベル?

 それとも僕は、前世の記憶を持ったまま現世に転生してきたとでもいうのか?

 ライトノベルの読みすぎたクラスメイトなら喜びそうな設定だが、あいにく僕は、自分の体重と明日の小テストの範囲くらいしか信じない現実主義者だ。


「おーーい、何フリーズしてんだよ」

 佐々木が僕の目の前で手を振った。


 いつの間にか放課後になっていたらしい。教室の窓の外は、夕焼けが妙に赤黒く染まっていた。


「いや……なんでもない。ちょっと考え事をしてただけだ」


「ふーん。相変わらず変な奴。じゃあな、俺は部活行くから」


 佐々木が去っていく足音を聞きながら、僕は机の上のノートを閉じた。

 その瞬間、こめかみの奥が、まるで錆びた鉄パイプで殴られたように激しく脈打った。


「っ……」


 強烈な頭痛だ。

 視界がチカチカと明滅する。脳の奥底、普段は絶対にアクセスしないはずの暗い領域が、無理やりこじ開けられるような強烈な不快感。

 脳が過負荷を起こしている。


 そのとき、僕の脳は、僕自身の生命を維持するための『システム防衛』を発動させていた。

 人間、普通はトラウマなんてものは嫌でも覚えているものだ。

 だが、もしも。


 その記憶の「維持」それ自体に、脳のハードディスクがクラッシュしてしまうほどの膨大な過負荷がかかるストレスの記憶だとしたら、どうだろう。

 

脳は必然的に、そのデータを『消去』する。

生きるために。システムを正常に保つために。

「……黒田、誠一」

 口の中で、その名前を呟いた瞬間、頭痛がぴたりと止まった。


 同時に、僕の脳内で消去されていたはずの、いくつかのファイルが強制復旧されていく。


 黒田誠一。

 その名前に、僕は見覚えがあった。

 いや、見覚えなんて生易しいものじゃない。


 数年前に忽然と姿を消した、僕の母の弟であり、僕に『古新聞の読み方』を教え込んだ張本人――僕の叔父だ。

 なぜ、今まで気づかなかった?

 叔父の名前なんて、忘れるはずがないのに。

 

 理由は簡単だ。僕の脳が、あまりの過負荷から身を守るために、彼に関する記憶の大部分を『消去』していたからだ。

 合点がいった。

 なんで僕が、物心ついた頃から古新聞好きだったのか。


 それは、脳の奥底に残り続けた「消しきれないバグ」をかき消すために、すでに終わった過去の事実という、安全かつ膨大なテキストデータで脳のメモリを無理やり埋め尽くし、上書き保存し続けるためだったのだ。


 僕は自分の意志で古新聞を愛していたのではない。

 狂わないための精神安定剤として、それらを貪り食っていただけだった。

 

鞄の中のノートにそっと触れる。

叔父が残した手紙の文字が、脳裏に浮かぶ。


『どうか、私の文章を読んでほしい。そして、私の文章も疑ってほしい』


「わかったよ、叔父さん」

 僕は小さく呟いた。


 僕が追っているこの「消えた橋」の嘘は、国家の犯罪であると同時に、僕自身の消された過去そのものだ。


 そして僕は、まだ机の上に開きっぱなしになっていた縮刷版のページに、もう一つの『矛盾』を見つけていた。

 

 二十四年前の記事。僕が迷子になったというその日。

 当時の東邦の中央大橋は、書類上では『すでに完成し、開通式が行われた翌日』だったはずだ。


 なのに、僕の名前が載っている三面記事のリード文には、こう書かれていた。

『――大橋の【建設現場】付近で、男児が一時行方不明に』

 完成しているはずの橋が、まだ作られていた。


 国家の嘘の綻びが、僕の過去と完全に交差した瞬間だった。

お読みいただきありがとうございます。

これからの物語の展開を予想しながらお楽しみください。


「この橋の謎、一体どうなるの?」「先が気になる!」と少しでも思っていただけたら、 ぜひページ下部の【ブックマーク】と、【⭐評価】をお願いします!


皆様の応援ポイントが、この謎を最後まで書き切る大きな原動力になります

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