表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/10

第二章 七つの試練

第二章 七つの試練


翌朝。


昨夜の騒ぎが嘘だったかのように、学園はいつも通りの朝を迎えていた。


窓から差し込む柔らかな陽射し。


食堂から漂う焼きたてのパンの香り。


中庭では、生徒たちが楽しそうに笑い合っている。


「おーい、レイン!」


ルークが手を振りながら駆け寄ってきた。


「朝飯行こうぜ!」


レインは少し戸惑いながら尋ねた。


「……昨日のことだけど。」


「昨日?」


「夜に生徒が一人いなくなっただろ?」


ルークは不思議そうな顔をした。


「何言ってんだ?」


「そんなことあったか?」


レインの背筋を冷たいものが走る。


「眼鏡をかけた一年生だよ。教室の一番後ろに座ってた……」


「レイン、お前夢でも見たんじゃないか?」


周囲の生徒も首をかしげている。


誰一人として、その生徒を覚えていなかった。


(本当に……俺だけなのか。)



午前の授業。


新入生たちは、学園の地下へと案内された。


長い石造りの階段を下りると、巨大な円形の広間へたどり着く。


天井には無数の青い結晶が埋め込まれ、まるで夜空のように輝いていた。


その中央には、七つの大きな石の扉が並んでいる。


扉にはそれぞれ異なる紋章が刻まれていた。


炎。


水。


風。


大地。


雷。


光。


そして最後の扉には、誰にも読めない古い文字。


生徒たちはざわめいた。


「何これ?」


「迷宮?」


「ダンジョンってやつか?」


その時、ノアが静かに前へ出る。


「ようこそ、《七つの試練》へ。」


彼女の声は広間によく響いた。


「この学園では、皆さんに七つの試練を乗り越えてもらいます。」


「試練を越えるたびに、魔法は大きく成長します。」


生徒たちは期待に胸を膨らませる。


だが、ノアの表情だけはどこか寂しげだった。


「ですが、一つだけ約束してください。」


「仲間を見捨てないこと。」


「そして――。」


ノアは一瞬だけ言葉を止めた。


「何を失っても、自分を見失わないこと。」


その言葉の意味を理解できる者はいなかった。



最初の試練は、《風の迷宮》。


レイン、ルーク、エリシアを含む十人が一組となり、石の扉をくぐる。


眩しい光に包まれた次の瞬間。


彼らは広大な草原に立っていた。


「すごい……。」


風が草を揺らし、遠くには空へ届くほど巨大な一本の樹がそびえている。


「これ全部、魔法で作られた世界なのか?」


ルークが驚く。


エリシアは静かに首を振った。


「違う。」


「え?」


「ここは本物。」


「本物の異空間。」


レインは地面に触れた。


草の感触も、土の匂いも、本物としか思えない。


その時。


ドォン!


地面が揺れた。


森の奥から、巨大な狼が姿を現す。


体長は三メートルほど。


全身を青白い風が包み、金色の瞳が鋭く光る。


「魔獣だ!」


誰かが叫ぶ。


狼は一瞬で距離を詰め、生徒の一人へ飛びかかった。


「危ない!」


レインは反射的に飛び出した。


「《シールド》!」


魔法陣が展開され、透明な壁が狼の牙を受け止める。


「レイン!」


ルークが剣を抜く。


「俺が行く!」


「待って!」


エリシアが杖を掲げる。


「風よ――《エア・バインド》!」


無数の風が狼の脚へ絡みつく。


動きが止まった一瞬。


ルークの剣が閃いた。


「はあぁぁっ!」


狼は光の粒となって消えていく。


静寂が戻った。


「やった……。」


誰もが安堵の息をついた。


しかし、レインだけは違和感を覚えていた。


狼が消える直前。


確かにこちらを見て――


悲しそうに微笑んだ気がした。



試練を終え、全員が広間へ戻る。


ノアは一人ひとりを迎えた。


「お疲れさまでした。」


その時だった。


レインの頭に、突然激しい痛みが走る。


「うっ……!」


視界が揺れる。


そして、一瞬だけ見えた。


まだ幼い自分。


その手を握る、銀色の髪の女性。


『大丈夫。あなたは、何度でもやり直せる。』


『でも、そのたびに大切なものを忘れてしまう。』


『それでも……世界を守りたい?』


「先生……?」


気づけば、目の前にはノアがいた。


「レイン?」


「顔色が悪いわ。」


レインは額の汗をぬぐう。


「今……何か思い出しかけたんです。」


ノアの瞳がわずかに揺れる。


「そう……。」


その表情は嬉しさとも、悲しさともつかないものだった。



その夜。


レインは一人、時計塔を見上げていた。


昼間は静かだった塔の最上階に、今は小さな明かりが灯っている。


「誰かいる……。」


その瞬間。


塔の窓から、一枚の白い羽根が風に乗って舞い落ちてきた。


レインが手を伸ばむと、羽根はふわりと彼の掌に降り立つ。


触れた途端、羽根は淡い光となり、たった一言だけを残した。


――『第八の塔へ行くな。』


次の瞬間、羽根は音もなく消えた。


レインはその言葉を見つめたまま動けなかった。


なぜなら学園には七つの塔しか存在しない。


少なくとも、誰もがそう教えられていたのだから。



第三章「消えた生徒」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ