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対戦開始。『世界最強の邪神(自称)』を相手にバトルします。

 『Shift and Warfare』。通称『SAW(ソー)』と呼ばれるカードゲームは、この世界において長い歴史を持つ。

 一説には類人猿であるアウストラロピテクスの時代、火を獲得したホモ・エレクトスの時代には存在していたと言われている……が、正直前世の記憶持ちからすれば眉唾物だ。いやまあ『そういう世界観』と言われたら、俺としては黙り込むしかないのだが。高々人間一人が宇宙法則に口出し出来るはずもない。

 カードが持つ力が結実し、亜空間にバトルフィールドが構築される。カードとそれを使用するマナ……プレイヤーの活力、生命力を増幅することで生成された専用の決戦場だ。こういうの見ると、TCG系の異世界転生をしたんだなって再確認しちまうな。


「選択権は……そっちか」


 現代では、『SAW』の様々な処理は全自動で行われる。先攻後攻の選択権とかもその『様々な処理』の範疇に入るな。

 デッキシャッフルの後、60枚のデッキを上から20枚裏向きでライフエリアへ積み上げる。そしてデッキエリアに残った40枚のうち、4枚を初期手札としてドロー。


挿絵(By みてみん)


『ふむ……ならば、我が先攻を貰おう!』


 このゲームは選択権を得た後、手札を確認してから先攻後攻を選べる。引き次第では初手で回すのを諦めて調整に回すこともあるからな、ここはユーザーとしても有難いところだ。


『我の手番(ターン)、ドローじゃ。……ふむ、千年ほど経っておるが、規則に変わりはないか。魔力(マナ)が3つ……ならば、メインプロセスに入る。まずはマナを2つ支払い、我が神域を此処に呼ぶとしよう……時空魔法(ワールドスペル)【邪神虚空域】!』


 邪神はそう言って、一枚のカードをプレイヤーがカードを置く『プレイシート』にある『ワールドエリア』へと置いた。その瞬間、広大なバトルフィールド……その半分が書(・)き(・)換(・)わ(・)る(・)。荒涼とした平野は光を呑む暗黒物質へ。そして邪神の背後に、奇怪なオブジェじみた城が形成された。

 それはまるで、『超一流の建築家がこの世に存在しない建材を使いこの世界では有り得ない物理法則下の空間で資金に糸目をつけずに城を建築した』かのような異形の建築物。現行人類ではこれ以上の形容方法がないであろう、混沌の魔城が戦場に現出したのだった。


「……引きが良いな」


 お互いのターンは、ターン開始の宣言である《スタートプロセス》、山札(デッキ)からカードを1枚引く《ドロープロセス》、ターンごとのマナ回復の《レディープロセス》、そしてカードを使用する《メインプロセス》と続いていく。このうち先攻1ターン目には原則的に行う意味がない《レディープロセス》は省略してもルール上問題ないが……早速の初手で引き込んでいたか。


「……デッキテーマの世界観を示し、そのカテゴリのカードをサポートすることに特化。そしてワールドエリアに存在する間、恒久的に盤面に影響を及ぼすことが可能な魔法カード『時空魔法(ワールドスペル)』か」


 ゲームの規則上、お互いが使用したカードはテキストの確認が可能だ。あの【邪神虚空域】の効果は何だ?


カード名:邪神虚空域

カードカテゴリ:時空魔法(ワールドスペル)

コスト:2

(1):██████████████████████████████████████████████████████。

(2):██████████████████████████████████████████。


 待ってなんかテキストが黒塗りされてるんだけど。戦後の教科書かよ。効果テキストを検閲処理すんな。


「おいどうなってんだ、テキスト確認させろ」


『おお、どうやら我が呪にて文面が汚染されておるようじゃな。じゃが我は別に効果を隠しておるわけではない、読もうと思えば読める。ただ貴様にその力がないだけよ』


 ………………公式ルールでは、相手プレイヤーに『テキストの開示』を請求することは出来る。そしてそれについて相手プレイヤーは拒否することが出来ない。まあ場だとか、使用したり破壊されたカードが送られる『廃棄場(ダンプ)』といった『公開領域』に存在するカードに限られるが。

 しかし、その公式ルールでは『テキストを理解できない場合相手に解説を要求して良い』だとか『対戦相手に解説を求められた場合拒否してはならない』といったルールは残念ながら存在しない。例え外国語でテキストが記載されていたとしても、ルール上テキスト自体は開示されているので読(・)め(・)な(・)い(・)奴(・)が(・)悪(・)い(・)ということだ。……まあ、ルールとして明文化されていないだけでマナーではあるから基本的にはちゃんと説明して貰えるのだが。というかこのカードゲームが世界情勢にすら絡んでいる以上、基本的にこういうのを拒否したら『礼儀(マナー)のなってない奴』として総スカンだ。……そっかコイツ邪神かぁ。じゃあ人間のマナーとかどうでもいいよなぁ。


「マナーのなってねえ神様だ。仕方ねぇ、続けろよ」


『ふん、此奴の真価は次の我が手番からよ。続けて、我が信奉者を呼ぶ。来い、【深淵の祭司(アビス・プリースト)】!』


 その言葉と共に邪神が手札のカードをプレイシートに叩きつけると、フィールドに暗黒物質の門(ゲート)が形成。その向こうから、ローブを纏いその手に杖を持ち、フードを目深に被った信徒が現れた。


『【深淵の祭司】が召喚に成功した時、効果発揮じゃ。我が山札(デッキ)を、上から1枚廃棄場(ダンプ)へ送る!』


 その言葉と共に杖の先が輝くと、邪神のデッキからカードが1枚『廃棄場(ダンプ)』へと落とされる。『廃棄場』に落とされたカードは比較的再利用しやすい……というか今では回収手段が豊富過ぎて、『サブ手札』とまで呼ばれているほどだからな。とりあえず落とせるなら落としておけば得だ。……こっちもテキストが塗り潰されたりしてねえよな?


カード名:深淵の祭司(アビス・プリースト)

コスト:1

カードカテゴリ:ユニット

ユニットカテゴリ:虚無・眷属

AP(アタックポイント):2000

BP(ブレイクポイント):1

(1)発揮条件:このユニットの召喚時

自分のデッキを、上から一枚廃棄場(ダンプ)へ送る。


「……先1(センイチ)で肥やしか。上々の滑り出しってとこだな?」


『ふん、見ておれ。最初の先攻は攻撃が行えん……我の手番はこれで終いじゃ、貴様の手番を進めろ』


 ……ま、くっちゃべって遅延する必要もない。大人しく進めるか。


「《スタートプロセス》、《ドロープロセス》」


 プロセスを口頭で宣言しながら、ターンを進める。プロセスでの誘発カードもあるからな、うっかり飛ばして巻き戻し処理する手間を考えればこっちの方が結果的には楽だ。


「《レディープロセス》……ま、後攻1ターン目も省略していいんだがこういうのは丁寧な方がいい。そして《メインプロセス》」


 手札は5枚、マナは3点。序盤は中盤の盤面形成への布石に使う。となれば……コイツからだな。


「お互い引きが強い。そう思わないか? 俺も時空魔法(ワールドスペル)を発動する。現出しろ、龍たちの住まう天空の理想郷。マナを2支払い、【希煌龍都(ドラグ・エリュシオン)】を発動」


 その言葉と共にカードをワールドエリアへ。すると、俺の背後に『空中都市』が出現する。邪神の持つ混沌と虚無の魔城と相反する、白雲を纏った龍たちの都。人の手の届かぬ理想郷、穢れを知らぬ龍の楽園が俺の元に現れた。


カード名:希煌龍都(ドラグ・エリュシオン)

カードカテゴリ:時空魔法(ワールドスペル)

コスト:2

(1)発揮条件:この魔法の発動時

手札にある「ユニットカテゴリ:希龍」を持つカード一枚を廃棄場(ダンプ)へ送る。そうした時、デッキから「ユニットカテゴリ:希龍」を持つカード二枚を選ぶ。その中の一枚を手札に加え、もう一枚を廃棄場(ダンプ)へ送る。

(2)発揮条件:自分の《アタックプロセス》開始時

自分の『ライフゾーン』にあるカードを、上から一枚表側で消失(ロスト)させる。そうした時、自分フィールドの「ユニットカテゴリ:希龍」を持つユニット全てのAP(アタックポイント)を+5000する。

(3)発揮条件:相手の《レディープロセス》開始時

このカードを手札に戻せる。そうした時、自分の手札にある「カードカテゴリ:時空魔法(ワールドスペル)」を持つカード一枚を1マナ支払って発動する。


「【希煌龍都】の効果発動。俺は手札の『希龍』、【仁愛龍ヴェネボレンス】を廃棄場へ送る。そうすることで、デッキから『希龍』を2枚選び1枚は手札に。もう1枚は廃棄場へ送る」


カード名:仁愛龍ヴェネボレンス

コスト:1

カードカテゴリ:ユニット

ユニットカテゴリ:希龍

AP(アタックポイント):3000

BP(ブレイクポイント):1

(1)発揮条件:このカードが廃棄場(ダンプ)に送られた時

   発揮制限:1ターンに一度

廃棄場(ダンプ)にある「ユニットカテゴリ:希龍」を持つコスト4以下のユニットカード一枚を、コストを支払わずに召喚する。


「俺が選ぶのは……【智慧龍ウィズダム】と【義侠龍シバリー】。このうち【シバリー】を手札に加え、【ウィズダム】は廃棄場へ」


カード名:智慧龍ウィズダム

コスト:4

カードカテゴリ:ユニット

ユニットカテゴリ:希龍

AP(アタックポイント):6000

BP(ブレイクポイント):2

(1)発揮条件:このユニットの召喚時

自分はデッキから1枚ドローする。このカードが廃棄場から召喚されていた時、更に自分はデッキから1枚ドローする。

(2)発揮条件①:自分の《アタックプロセス》中

   発揮条件②:相手が手札から魔法カードを使用した時

   発揮制限:この効果はターンに1度しか使えない。

このユニット以外の「ユニットカテゴリ:希龍」を持つ自分フィールドのユニット一体を破壊する。そうした時、相手が発動した魔法カードの効果を無効にする。


カード名:義侠龍シバリー

コスト:2

カードカテゴリ:ユニット

ユニットカテゴリ:希龍

AP(アタックポイント):4000

BP(ブレイクポイント):1

(1)発揮条件①:このカードが手札にある時

   発揮条件②:自分フィールドの「ユニットカテゴリ:希龍」を持つユニットが破壊された時

このカードを1コスト支払って召喚する。そうした時、自分の廃棄場(ダンプ)から「ユニットカテゴリ:希龍」を持つカード一枚を手札に加える。


「そして、【希煌龍都】の効果で廃棄場(ダンプ)へ送られた【ヴェネボレンス】の効果発動。廃棄場にいるコスト4以下の希龍を、コストを無視して召喚する。仁愛(ヴェネボレンス)を受けて蘇れ、叡智の龍。【智慧龍ウィズダム】を召喚」


 廃棄場から響く、龍の咆哮。それに応えるかのように息を吹き返した蒼銀の龍が舞い上がり、戦場へと帰還した。……ま、ここに来るまで戦場経由してないから『帰還』ではないんだけどな。


「【ウィズダム】の召喚時効果を発揮する。俺はデッキから1枚ドロー。そして【ウィズダム】自身が廃棄場から召喚されていた時、俺は更に1枚ドローする」


 これで俺の手札は6枚。後攻1ターン目としては充分に上振れた動きだな。


『なんじゃそのコンボは!?』


 と、そのタイミングで邪神が悲鳴じみた絶叫をあげた。


「何がだよ」


『時空魔法貼って4コスト立てて手札6枚じゃと!? 巫山戯ておるのか貴様ァ!!』


 ……ふざけてると言われましても。


「言っとくが、これは現環境の標(・)準(・)装(・)備(・)……ではさすがにないが。相当数のデッキは、1ターンでこれくらいリソース確保してくるぞ。言っただろ、『現環境で轢き殺す』って。っつーかこれくらいしないと公式大会で勝率五割取れねーよ」


 寧ろこれくらいなら序の口だ。もうちょい引きが良ければ廃棄場のカードが後3枚は増えてるし。


『ぐぬぅ……ええい、早く進めろ!』


「お前が叫んだから返事してやったんだろうが、これを遅延扱いしたらキレんぞ。……良し、今はこれくらいでいいな。《アタックプロセス》に入り……何もせずに《エンドプロセス》へ。俺はこれでターンエンドだ」


 アドバンテージは上々。後は相手のデッキタイプに合わせて展開ルートを変えていくとしようか。……さあ、旧き邪神とやら。その力を見せてくれ。

【希龍】

識崎 想真が現在使用しているデッキテーマ。南総里見八犬伝などで有名な仁義礼智忠信孝悌の『八徳』を冠する龍たちで構成されている。カード効果が別のカード効果を誘発するコンボ性の高いテーマで、様々な動きが可能なため初心者にも向いている。


第2ターン(後攻1ターン目)終了時点

先攻 邪神

デッキ:残り34枚

手札:3枚

マナ:1(使用可能マナ)/3(マナ上限)

ライフ:20

カウンターエリア:0

廃棄場(ダンプ):1

ワールドエリア:【邪神虚空域】

フィールド

【深淵の祭司(アビス・プリースト)】AP(アタックポイント):2000


後攻 識崎想真

デッキ:残り31枚

手札:6枚(【義侠龍シバリー】、他5枚)

マナ:1(使用可能マナ)/3(マナ上限)

ライフ:20

カウンターエリア:0

廃棄場ダンプ:1(【仁愛龍ヴェネボレンス】)

ワールドエリア:【希煌龍都(ドラグ・エリュシオン)】

フィールド

【智慧龍ウィズダム】AP(アタックポイント):6000

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