効果発動。『世界最強の邪神(自称)』を手札に加えます。
偉大なる架空TCG創作界隈の先達の方々に影響されて書き始めてみました。よろしくお願いします。
「……ッ、何で! 何でお前が、邪神のカードなんて持ってるんだよッ!!」
赤い髪の、如何にも情に厚そうな雰囲気の青年が叫ぶ。膝をつき、あちこちに掠り傷を作った姿で……それでも地に伏せることなく、気力でその身を支えて。半ばヤケになりながら、相対する者へと叫んでいた。
「……何で、ね」
その言葉を受けて、切れ長の目を細めるもう一人の青年がいた。その手にある一枚のカードは、視界の端に捉えただけでも背筋が凍てつき、生物としての本能が警鐘を激しく鳴らすほどの悍ましい気配を纏っている。そして、それを手にして平然としている人間が存在していることこそが、何よりも異端なことを示していた。
「経緯を説明して何になる。今、このカードは俺のもので──────俺にしか使いこなせない。それだけの話だろ」
が、しかし。
「(中学の時に偶然拾ったつっても信じてもらえるわけねーじゃん……! しかも俺コイツ使って散々金稼いできたんだぞ、今更取り上げられてたまるか……!)」
その青年がこんなことを考えていたとは、その場にいる青年本人以外知る由もなかった。
そもそものきっかけは、この相対が起きるよりおよそ二年ほど前のことであった。
出自やら何やらに色々問題こそあれど、一応普通の男子中学生をしていたはずの少年『識崎 想真』。『前世の記憶持ち』という厄ネタにより実の親から『忌み子』として扱われ捨てられ、その結果『孤児院育ち』というまた過酷な環境で育つこととなった彼。その来歴上、現実的な思考をしがち……というよりも。最早『夢見る余裕がない』と言える状態になっていた。
「特売が始まるまでにはスーパーに到着してたいが……」
そう呟きながら、彼が自転車を飛ばしていると。その脳裏に、何者かの声が響いてきた。
『──────こっちへ来い』
「……いや、タイムセールが」
『──────いいから来い──────』
そんな、微妙に威厳がない呼びかけを受けて。仕方なしに彼は自転車のハンドルを切る。
「タイムセール終わってからな」
『ちょっと?』
残念ながら節約は急務なので謎の声如きが優先度で上回れるはずがなかった。そして数十分後、今日の夕食の食材も買い終えてようやく声の主の元へと向かうことに。
『本当に後回しにされるとは思わんかったぞ……』
「一銭を笑う者は百円で笑い死ぬからな」
『それ本当に合ってる? 何か違くない?』
謎のレスポンスのノリの良さに『なんだコイツ』なんて思いながらも、ようやく声の主の元へと到着した想真。街のはずれ、すぐ近くにある標高400メートルほどの小山の中腹へと来ていたのだが。
「ぜぇ……ぜぇ……」
『……大丈夫か?』
「マウンテンやオフロードじゃねえ普通のチャリで山なんざ登るもんじゃねえな……」
普通に到達するまでの段階で疲労困憊であった。
『まあ良い、貴様の目の前に祠があるだろう』
「……ボロっちいのがあるな」
目の前には風雨に長い間晒され続けたことで、今にも崩れそうな祠が一つ。亀裂からは瘴気のようなものが漏れ出しており、如何にもな危うさを示していた。
『その中に封印されておる、我の真体。それを、"解き放て"』
言葉に毒が混ざる。届けた相手の意思を蝕み、自我を捕らえ、自らの傀儡とする邪法。それを不意に受けてしまえば、彼に為す術はなく。
「……………」
その言葉に従い、虚ろな目で想真は祠前面の扉に貼られた無数の札に手をかける。
『そうだ、それでいい。ようやく忌々しい封印から抜け出せる! 感謝するぞ人間、解き放たれた暁には褒美をやらねばなァ……』
そして、乱暴に札が破り捨てられ。その扉が開け放たれた。
「………………『SAW』」
祠の内側、僅かなスペースに安置されていたもの。それを見て、想真は僅かに声を漏らした。
──────『SAW』。正式名称、『Shift and Warfare』。この世界に存在するカードゲームであり……そして、この世界において大きな意味を持つカードゲームである。
世界大会が開催されれば各国の大手テレビ局が生中継を行い、最新パックが発売されたり禁止制限の改定が行われれば学校が半日で終わる。果ては賭け試合が行われるなど、そのゲームは全人類に与えられた『武器兼コミュニケーションツール』と言える代物であった。
『さあ、幾千の時を経て蘇った我の最初の下僕よ。我が力を世界に知らしめよ! この最強にして最悪、最凶の邪神の名を轟かせ──────』
「は? よっわ、いらね」
『……………………………………ん?』
カードを手に取った瞬間、正気を取り戻した想真がカードを見て元の場所に戻した。
「何期前のテキストだよこれ、現環境で出せるわけねーよ。詐欺られた気分だ、帰ろ」
『待て待て待て待て待て!!』
そして直ぐに踵を返す想真。その背中を見て、途端に慌てた様子で声の主──────自己申告曰く『邪神』が引き止めにかかった。
『弱い!? 弱いじゃと!? この我がか!?』
「え、うん。変則レギュで旧期カードプール限定マッチとかするならともかく、現環境のゲーム速度で使ったって仕方ねえよ」
『変則レギュ!? 旧期カードプール!? 限定マッチ!? 現環境ゲーム速度って何じゃ!?』
というか何で今自我を縛る呪が跳ね除けられたんじゃ、と更に混乱する自称邪神。
「お前のテキストがびっくりするほど弱くて一発で目が覚めた」
『祟り殺すぞ』
一瞬だけ瘴気の勢いが強まった。
『ええい、こうなれば……対戦じゃ! 我が勝てば、貴様は我が下僕として生涯我に付き従え!』
「えー……仕方ねえな」
その言葉と共にカードから放たれた瘴気が凝縮され人型を成し、その手と思しき場所にも瘴気が集まりカードデッキを形作る。
「現環境で轢き殺してやるよ。──────ターゲット、ロック!」
そう叫び、想真は懐から取り出したデッキを邪神へと向けた。
『我らが求むは勝利の栄光』
戦う限り、勝利からは逃れられない。
「我らが厭うは敗北の汚名」
戦うことを放棄すれば、先に光はないのだから。
「『栄光を手にするため、あらゆる敵を撃滅せよッ!』」
さあ、戦争を始めよう。
「『開戦ッ!!』」




