告白と、揺るぎなき絆
王都での戦いが終わり、街はレオンハルト新国王の下、少しずつ秩序を取り戻し始めていた。ストームウィングの改修と補給も完了し、砂漠連合への出発の日は目前に迫っていた。仲間たちは、来るべき決戦に向けて、それぞれの準備を進めている。
セレスティアは工房に籠り、エレノアは砂漠連合に関する情報を集め、セリナは剣の稽古に打ち込み、リシアは回復薬の調合に余念がない。誰もが前を向いていた。
だが、俺の心だけが、重く沈んだままだった。
黒幕が俺と同じ世界の人間だと知ってから、ずっと胸に突き刺さっている棘。この世界の危機は、俺たち「異物」が持ち込んだのではないかという罪悪感。そして何より、このかけがえのない仲間たちに、自分の正体を偽り続けているという、耐え難い苦しみ。
(このまま、黙って旅立つことなんてできない…)
彼らは、俺を「レナード・アルバート」として信じ、命を懸けてくれている。その信頼を、これ以上裏切り続けることは、俺にはできなかった。黒幕との決戦を前に、俺は、俺自身の全てを彼らに差し出し、その上で、共に戦う覚悟を問わなければならない。
俺は、意を決して、仲間たちを王城の一室に集めた。レオンハルト、セリナ、リシア、エレノア、そしてセレスティア。俺が最も信頼し、共に死線を越えてきた、かけがえのない仲間たちだ。
集まった仲間たちは、俺の深刻な表情に、ただならぬものを感じ取っていた。部屋には、緊張した沈黙が流れる。
「みんな、集まってくれてありがとう。今日は…どうしても、話しておかなければならないことがある」
俺は、ゆっくりと、言葉を選ぶように話し始めた。
「俺は…お前たちが知っている、レナード・アルバートではないんだ」
その一言に、部屋の空気が凍りついた。リシアが息を呑み、セリナが眉をひそめる。レオンハルトとエレノアは、表情を変えずに、ただ静かに俺の次の言葉を待っていた。
俺は、全てを話した。
自分が「高槻レン」という、この世界とは異なる「日本」という世界の人間であったこと。不慮の事故で命を落とし、気づけばこの世界の「レナード・アルバート」という少年に生まれ変わった『転生者』であること。
俺が使う奇妙な戦術が、全て「FPS」という、前の世界の「遊戯」で培った知識であること。
そして、王都で対峙した黒幕もまた、俺と同じ世界の人間であり、俺の過去を知る人物である可能性が高いこと。
「この世界の危機は…帝国との戦争も、神聖王国の異端審問も、そして今回の王都の混乱も、元を辿れば、奴や…俺のような『異物』がこの世界に存在していることが、原因なのかもしれない」
俺は、俯き、絞り出すように言った。
「俺は、お前たちを騙していた。俺は、お前たちとは違う、この世界の理を歪めるだけの、招かれざる存在なんだ。それでも…」
俺は顔を上げ、一人一人の顔を見つめた。
「それでも、俺は、この世界が好きだ。お前たちと出会って、初めて仲間というものを知った。守りたいものができた。だから…こんな俺でも、お前たちと共に戦うことを、許してくれるだろうか…?」
震える声での告身を終え、俺はただ、仲間たちの審判を待った。拒絶されても、軽蔑されても、仕方がない。それが、俺が背負うべき罰なのだから。
重い沈黙を破ったのは、意外にもセレスティアだった。彼女は、腕を組んだまま、呆れたようにため息をついた。
「…んだ、そんなことかい。あたしはてっきり、借金でもあるのかと思ったぜ」
「え…?」
「あんたがどこの世界の誰だろうが、知ったこっちゃないね。あたしがあんたを認めたのは、あたしの技術を、誰よりも信じてくれたからだ。あんたが『ストームウィング』を夢物語じゃないって言ってくれたから、あたしは今ここにいる。それ以上でも、それ以下でもないよ」
ぶっきらぼうな、しかし最高に温かい彼女の言葉に、俺は言葉を失った。
次に口を開いたのは、エレノアだった。彼女は、冷静な、しかしどこか安堵したような表情で言った。
「…正直に申し上げますと、レナード様の知識と思考体系が、この世界の常識から逸脱していることには、以前から気づいておりました。その源泉が、異世界にあると仮定すれば、全ての辻褄が合います」
彼女は、俺の告白を驚きもせず、一つのデータとして受け入れていた。
「ですが、それと同時に、あなたがその力を、常に誰かを守るために使ってきたことも、私は知っています。あなたの存在が『異物』なのではなく、その特異性こそが、黒幕という最大の『歪み』を正すための、この世界の『希望』なのだと、私は確信しています」
「エレノア…」
「そうよ!」
セリナが、力強く言った。彼女の瞳は、まっすぐに俺を射抜いていた。
「お前がどこの誰だろうが、私が認めた好敵手であることに変わりはない!お前のその奇妙な戦術も、仲間を信じる甘さも、全部含めてレナード・アルバートだ!それに…」
彼女は、ふいと顔をそむけ、頬を染めながら小さな声で呟いた。
「私は…そんなお前だからこそ、ずっと…」
その先の言葉は、聞こえなかった。だが、その想いは、痛いほどに伝わってきた。
そして、レオンハルトが静かに口を開いた。
「レナード。私は、かつてお前の非合理な『絆』の力に敗れた。そして、その敗北から、真の王道を学んだ。お前が異世界から来たというのなら、むしろ納得がいく。お前の存在そのものが、この世界の停滞した常識を打ち破る、天の啓示だったのかもしれないな」
彼は、穏やかに微笑んだ。
「お前の秘密が何であれ、私がお前を友と認め、この国の未来を託した事実に、何一つ変わりはない」
最後に、ずっと俺の手を握りしめていたリシアが、涙ぐみながらも、満面の笑みで言った。
「私、嬉しいです、お兄様」
「え…?」
「だって、お兄様が、ずっと一人で抱えていた一番大切な秘密を、私に、私たちに、話してくれたのですから。お兄様がどこの誰であろうと、私にとっては、世界で一番優しくて、強くて、大好きな、たった一人のお兄様です。それだけは、この世界がどうなっても、絶対に変わりません!」
仲間たちの言葉が、温かい光となって、俺の心の奥深くまで染み渡っていく。罪悪感と孤独という、重く冷たい枷が、音を立てて砕け散っていくのが分かった。
俺は、一人じゃなかった。
俺の居場所は、確かにここにあったんだ。
「…ありがとう」
溢れ出す涙を、もう堪えることはできなかった。俺は、仲間たちに深く、深く頭を下げた。その顔には、もう迷いはなかった。
(俺は、高槻レンであり、レナード・アルバートだ。そして、このかけがえのない仲間たちと共に、この世界を守る)
黒幕を倒し、この世界を救う。それはもはや、異世界から来た者の責任などではない。この世界に生きる一人の人間として、愛する仲間たちと共に未来を掴むための、俺自身の戦いとなっていた。




