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異世界リロード 〜没落貴族ですが、現代FPS知識で戦場を無双します〜  作者: 雪消無
第9章 : 『王国の闇と真実の探求』

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星見の間 ―真実の欠片―

 星見の間に、重い沈黙が流れていた。

黒幕が残した言葉の残響が、まだ壁に染み付いているかのようだ。俺は、自分のゲーマーネームを知られていた衝撃と、奴が言い放った言葉の意味を、必死に反芻していた。


拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込み、鈍い痛みが走る。


「レナード、大丈夫か?」


レオンハルトが、心配そうに俺の顔を覗き込む。彼の瞳には、俺の秘密に対する詮索の色はなく、ただ純粋な気遣いだけがあった。


「……ええ、なんとか」


 俺は短く答え、思考を切り替える。感傷に浸っている暇はない。今は、奴が残した言葉の中から、一つでも多くの情報を引き出すべきだ。


深く息を吸い込む。冷たい空気が肺を満たす。


『俺はこの世界を壊し、門を使って元の世界に必ず帰る』


この言葉が、俺の頭の中で何度も繰り返される。


 オルフィナの警告、レオンハルトが語った王家の伝承、そして黒幕自身の言葉。それらが繋がり、一つの恐ろしい可能性を導き出す。


(古の門は、異世界からの干渉を受けやすい……。そして、黒幕は『門を使って元の世界に帰る』と言った。つまり、古の門は、単にこの世界の魔力バランスを司る装置じゃない。世界と世界を繋ぐ、文字通りの『ゲート』なんだ。そして、その接続先は……俺がいた、現代の日本である可能性が極めて高い)


だとしたら、奴の言う「歪み」の意味も変わってくる。


(奴は、門の力を『歪める』ことで、接続機能を掌握しようとしているんじゃないか?正規のルートではなく、システムにバグを起こして管理者権限を奪うハッキングのように。そして、その力を利用して、この世界を破壊し、元の世界への帰還を果たそうとしている……)


その推論は、背筋が凍るような感覚を俺にもたらした。

この世界そのものを、自分の目的のための生贄にしようとしているのだ。



 その時、エレノアが数枚の羊皮紙を手に、俺たちのもとへ駆け寄ってきた。その足音が、静寂を破る。


「レナード様、こちらを」


彼女の表情は、いつもの冷静さの中に、わずかな緊張が混じっていた。


それは、ルシアンの執務室から見つかった、黒幕からの「神託」を記したとされる文書だった。俺は羊皮紙を受け取り、目を通す。そこに書かれていたのは、効率的な統治術や軍事戦略だけではなかった。


「これは……星図か?」


 レオンハルトが、その中の一枚を手に取り、眉をひそめる。


 そこには、この世界の既知の星図とは全く異なる、奇妙な天体の配置が描かれていた。まるで、別の世界の星空のようだ。その昔、船乗りが星を測ることから自分の位置を特定していたが、どうやらその逆をすることで星座から地域を特定する地図らしい。そして、その星図が指し示す特定の座標には、こう記されていた。


『始まりの地。門の鍵が眠る場所』


「この座標は……」


エレノアが、持っていた地図と照らし合わせ、息を呑んだ。


「砂漠連合の、さらに奥地……古代遺跡が点在する、『沈黙の谷』と呼ばれる場所です」


 幕の狙いが、初めて具体的な「場所」として示された瞬間だった。

砂漠連合こそが、奴の計画の鍵を握っている。俺の推察と、新たに見つかった物証。それらは、砂漠連合という一点で交わった。


「奴は、『古の門』の力を完全に掌握しようとしている」


俺は羊皮紙を見つめながら言った。


「そして、その鍵が砂漠連合にある……」


レオンハルトが厳しい表情で頷いた。


「砂漠連合か……」


彼は腕を組み、考え込むような仕草をした。


「あの地は、古代文明の遺産が数多く眠る場所。父上も、その重要性を認識し、友好関係を保ちつつも、決して深くは干渉なさらなかった。黒幕がその地に目をつけたのだとすれば、門の力を歪めるための、何か決定的なものがそこにあると考えるべきだろう」


 砂漠連合が黒幕の計画の中心地であると推測し、その野望を阻止せねばならないと決意を固めているようだった。黒幕の存在は、彼が築こうとする「民が心で繋がる完璧な秩序」にとって、最大の脅威なのだ。


 俺たちが調査を進める中、意識を取り戻したルシアンは、広間の祭壇、つい先程まで、彼が神と信じて疑わなかった人物が座していた、その椅子に一人、静かに座っていた。


 その背中は、かつての傲慢な王のものではなく、全てを失い、ただ己の罪の重さに打ちひしがれる、弱々しい初老の男のものだった。

松明の炎が揺らめき、彼の影が壁に大きく映っていた。


レオンハルトが、彼の前に立つ。


「兄上」


その声には、怒りも、嘲りもなかった。ただ、深い悲しみが響いていた。


「……」


ルシアンは顔を上げない。もはや、弟の顔を正面から見ることさえできないのだろう。彼の肩は小刻みに震え、両手は膝の上で固く握りしめられている。


 レオンハルトは、黒幕から送られてきた「神託」の文書と、それによって行われた政策が、いかに多くの民を苦しめ、国を疲弊させたかの報告書を、静かに彼の前に置いた。


羊皮紙が擦れる乾いた音が、やけに大きく響く。


「これが、あなたの信じた『神』がもたらした、結果です」


 ルシアンは、震える手でその書類を手に取った。

そこに記された事実の一つ一つが、鋭い刃となって彼の心を抉っていく。貴族たちの粛清、重税に喘ぐ民の悲鳴、無意味な戦に散った兵士たちの数……。それら全てが、自分が「王国の繁栄のため」と信じて下した決断の結果だった。


 ルシアンの手が、震えている。羊皮紙を持つ手が、まるで何かに耐えているかのように、白く変色していた。


 彼は神に選ばれた救国の王などではなかった。ただ、国の未来を憂う純粋な心を、悪意ある何者かに利用された、哀れな道化だったのだ。


 彼の脳裏に、黒幕の甘い言葉が蘇る。『これは必要な犠牲だ』『汝がその罪を背負ってこそ、王国は救われる』。その言葉を信じ、父を手にかけ、民を苦しめ、国を歪めてきた。全ては、偽りの神が描いた、破滅への筋書き通りに。


「ははっ……」


乾いた笑いが、彼の口から漏れた。それは、自嘲と絶望が混じり合った、虚ろな響きだった。


「神は神でも……死神だったという訳か……」


その言葉を言った瞬間、ルシアンは衝動的に、床に落ちていた剣を拾い上げた。


「兄上!」


レオンハルトが叫ぶ。


そして、その切っ先を、迷うことなく自らの喉元へと突き立てようとする。死ぬことでしか、この罪から逃れることはできない。

そう、思った。


ガラン……!


しかし、その刃が彼の肌に触れる寸前、黒い影が彼の視界を横切り、強烈な衝撃と共に剣が手から弾き飛ばされた。


俺が、『軌跡の刃』の力で彼の自害を防いだのだ。


 床に落ちた剣が、虚しい音を立てる。


 ルシアンは、その剣を、まるで己の犯した罪の象徴であるかのように、ただ呆然と見つめていた。やがて、第一王子だった、一時は時期国王だった男の肩が小刻みに震え始め、堰を切ったように嗚咽が漏れ出した。


「ああ……あああ……私は……私は、何ということを……!」


顔を覆い、子供のように泣きじゃくった。


 それは、王国の未来を憂うが故に、最も重い罪を犯してしまった男の、遅すぎた贖罪の涙だった。威厳も、誇りも、全てを失い、ただ己の愚かさと罪の重さに打ちひしがれる、一人の弱い人間の姿がそこにあった。


 レオンハルトは、そんな兄の姿を、ただ静かに見つめていた。

その瞳には、軽蔑ではなく、深い憐憫の色が浮かんでいた。


かつては自分も同じだった。完璧な論理を求め、人の心を顧みず、道を誤った。もし、レナードという存在に出会わなければ、自分もまた、別の形の破滅を迎えていたかもしれない。


「兄上」


レオンハルトは、静かに、しかし厳かに言った。


「あなたの罪は、法によって裁かれねばなりません」


彼は一歩前に出た。


「しかし、その前に、あなたにしていただくことがあります」


 彼は、兄の過ちが、かつての自分と同じ「完璧な論理」の欠陥から生じたものであると、冷静に分析していた。そして、その過ちを正し、兄自身に償いの道を歩ませることこそが、王国の秩序を回復させる第一歩だと考えていた。


 俺は、仲間たちを集め、決意を告げた。


「アークヴァルドと合流して砂漠連合へ向かう」


 仲間たち一人一人の顔を見つめた。セリナ、リシア、エレノア、セレスティア、そしてレオンハルト。


「この世界の混乱の根源、そして黒幕の野望を止めるために」


その言葉に、仲間たちは力強く頷いた

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