再び背中を預けて
王都に広がる混乱の頂点で、俺はシャドウ・ストライカーを駆り、王城の正面ゲートを突破した。単騎での突入。敵の意表を完璧に突いた一撃だった。
「な、何だ、あれは!?」
「一人だ!たった一人で乗り込んできたぞ!」
兵士たちが動揺する隙に、俺は『軌跡の刃』を振るう。
「トレース・ビジョン!」
敵の動き、銃弾の軌道、そして弱点。全てが光の線として視覚化される。俺はシャドウストライカーを巧みに操り人馬一体となって敵陣を駆け抜けた。まるで、高難易度のFPSステージを攻略するように、敵の攻撃を紙一重でかわし、的確に急所だけを切り裂いていく。
「囲め!囲んでしまえ!」
指揮官の号令で、兵士たちが密集隊形を組む。鎧のぶつかり合う音が、まるで金属の波のように押し寄せてくる。だが、それこそが俺の狙いだ。
「セレスティア、頼む!」
俺の合図と共に、王城の城壁や塔の各所に仕掛けられていた小型の魔導兵器『天の火』が一斉に火を噴いた。セレスティアがこの日のために量産し、改良を重ねた自動迎撃システムだ。
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ――
空気を切り裂く鋭い音。次の瞬間、無数の光の矢が、密集した敵兵の鎧の隙間を正確に撃ち抜き、次々と無力化していく。
「うわあああ!」
「魔法か!?どこからだ!」
「裏門や地下水路を守っている兵士たちを早くこちらへ向かわせろ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。俺は、その混乱の中心を一直線に突き進む。やはり正面の守りは薄い。どうやら黒幕の裏を突くことができたようだ。
となると…やはり俺と同じ世界から来たのか…?
その疑念が、胸の奥でくすぶり続ける。
精鋭部隊を振り切り、俺はついに玉座の間にたどり着いた。重厚な扉を蹴破ると、広大なホールが目の前に広がった。天井は高く、壁には豪華な装飾が施されている。松明の炎が、不気味に揺らめいている。
そして、玉座に座る男。
そこには、怒りと憎悪に顔を歪ませたルシアンがいた。
「来たか、レナード・アルバート!この国を乱す不浄なる異分子め!」
ルシアンは剣を抜き、俺に切っ先を向ける。その瞳は狂信的な光に満ち、もはや正気の色はなかった。
「ルシアン殿下!目を覚ましてください!あなたは利用されているだけだ!」
俺は叫んだ。声が、広いホールに虚しく響く。
だが、その言葉は彼には届かない。
「黙れ!神の信託に背く愚か者めが!この私が、神の代理人として、お前に天罰を下す!」
玉座の広大なホールには、兵士たちが整然と隊列を組み潜んでいた。そして、その兵士たちの間を縫うように、黒い装束に身を包んだ数人の影が、まるで獲物を品定めするかのように佇んでいる。あれが、黒幕が送り込んだ直属の刺客か。
——くる!
敵兵は、まるで一つの生命体のように、完璧に連携して動いていた。一人が盾で攻撃を防ぐと、その死角から寸分の狂いもなく槍が突き出される。後方の弓兵は、味方の動きを寸分違わず予測し、その射線を塞ぐことなく正確に援護射撃を行う。それは、俺がかつて騎士団に教えた集団戦術――FPSのチームプレイを応用したものだった。
俺は『軌跡の刃』の能力を最大限に発揮させる。
トレース・ビジョンにより敵が次に移動するであろうルートが光の線として浮かび上がる。その線をもとに「ブリンク」でかわしながら一気に接近し、そして「ダッシュ」で敵の懐に潜り込み急所を突いていく。敵兵にとっては瞬間移動しているように映るはずだ。
「うっ、ぐっ!」
レンが消えるたびに次々と兵士が倒れていく。
しかし、黒い刺客たちの動きは、さらに異次元だった。壁を蹴って射線を変え、味方兵士を踏み台にして高所を取り、予測不能な角度から攻撃を仕掛けてくる。遮蔽物を利用したヒットアンドアウェイ、陽動と本命を組み合わせた波状攻撃。極限まで効率化したような冷酷な戦闘術だった。
数的有利を常に築くというのは基本的な戦術だ。
今までは個人の圧倒的な能力差で人数差を覆してきたが、相手との能力差が縮まれば対抗できる人数も変わってくる。
俺は徐々に、だが確実に追い込まれていった。
(これは、なかなか手強い…)
苦戦を強いられているその時、突如炎の剣を携えた一人の剣士が現れ背後の敵を倒した。
「レナード、もしかして腕が鈍ったのか?」
不敵な笑みを浮かべてそこに立つのは帝国の『炎の姫騎士』セリナ・ヴァルクスだった。彼女のプラチナブロンドの髪が、炎の光を受けて金色に輝いている。その姿は、まるで戦場の女神のようだ。
王宮の客間に来賓として泊まっていた彼女は騒ぎを聞きつけ俺の助けに駆けつけたのだった。
「お前…」
俺は息を切らしながら言った。
「いいのかよ?帝国の重鎮が直接、俺に味方したらまずいんじゃないのか?」
「今はただのセリナだ!」
彼女は剣を構え、俺の背に立った。
「お前の友人のな!」
そう言って、刺客の攻撃を受け流す。火花が散り、金属がぶつかり合う甲高い音が響いた。
「私についてきた帝国の従者や護衛は眠ってもらってる。帝国は関与してない。あくまで個人的なものだ」
「そんな無茶苦茶な理屈が…」
俺は思わず苦笑いしたあと妙に納得した。そうだった、セリナはこういう奴だった。真っ直ぐで、不器用で、でも誰よりも熱い。
「ありがとう…セリナ。だがこいつら結構強いぞ、お前『政治』ばっかりで鈍ってないよな?」
「なんだと?」
セリナの目が、危険な光を帯びた。
「馬鹿にするなら、コイツら全員倒したあとで、お前と勝負してもいいんだぞ!」
「だよな、悪かった。俺の背中は任せる!」
俺は笑った。不思議と、疲れが吹き飛んでいく。
「ああ!」
俺は「軌跡の刃」の「残像」の能力を使うことで、その予測を視覚情報としてセリナと共有する。光の線が、セリナの視界にも映し出される。
「セリナ! 『軌跡』を追え! 奴らはあの柱の背後から『クリアリング』してきてる」
「承知した!まかせろ!」
指示はもはや単なる命令ではなく、未来を予測した「予知」に近い。敵の動きを常に先読みしカウンターを仕掛ける俺たちに対抗できる兵士は誰もいなかった。
俺とセリナは完璧なフォーメーションで次々と敵を倒していく。アイコンタクトと最小限の言葉で全てが伝わり、お互いの動きを邪魔することもない。まるで長年のパートナーが踊っているようだった。セリナが右に動けば、俺は左をカバーする。俺が前に出れば、セリナが背後を守る。
「レナード!」
セリナが、敵を倒しながら言った。
「お前と一緒に戦うのは楽しいな!私はずっとお前の側で戦っていたい!」
セリナの告白ともとれる無意識な言葉に胸が熱くなる。彼女は命を賭して俺の助けに来てくれてる。いつまでも気づかないふりはできない…。
そんな思いがよぎった時、民衆という巨大な波を背に、レオンハルトが王城へと雪崩れ込み一直線に玉座までやってきた。エレノア、リシア、セレスティアも駆けつけてくる。
勝負を決定づける援軍の到着。だが油断はできない。
万が一にもレオンハルトが倒されることは許されない。
「レナード!」
レオンハルトが俺を見つけて叫ぶ。
「気をつけろ!こいつら普通じゃない!」
俺の声に距離を取り周りを見回し冷静に戦況を確認する。
よし、今だ!
「散開!!」
俺は即座に指示を飛ばす。敵が完璧な集団戦術で来るなら、こちらも個々の能力を最大限に活かした連携で対抗するまでだ。
「セレスティア、援護を!」
「あいよ!!目と耳を塞ぎな!」
セレスティアが、懐から取り出した球状の魔道具を床に叩きつける。
ガシャン!
閃光と共に、強烈な音波と煙がホールに満ちた。目が眩み、耳が痛む。敵の視覚と聴覚を一時的に奪う、特製のスタングレネードだ。
敵の陣形が一瞬乱れた。その隙を逃さない。
「エレノア、敵指揮官の位置を!」
「3時方向、柱の陰!兵士5名が護衛!」
エレノアの冷静な分析が飛ぶ。
「リシア、左翼の味方が押されてる!回復を!」
「はい、お兄様!」
リシアが杖を掲げると、温かい光が降り注ぎ、負傷した味方の兵士たちが再び立ち上がる。
そして、俺とセリナは、敵の中核へと切り込んだ。
「レナード、私が奴らの注意を引きつける!お前は指揮官を叩け!」
セリナは、火魔法と剣術を組み合わせた高速戦闘で兵士や刺客を次々と打ち破っていく。炎が舞い、剣が閃く。彼女が作り出したそのわずかな隙間に、俺は突進した。
「トレース・ビジョン!」
敵の動きがスローモーションに見える。指揮官が驚愕に目を見開くのが分かった。俺は『軌跡の刃』で彼の剣を弾き飛ばし、無力化する。
ガキィン!
剣が宙を舞い、石畳に落ちて甲高い音を立てた。
戦況は、俺たちの連携により決定的に有利に傾いていった。




