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異世界リロード 〜没落貴族ですが、現代FPS知識で戦場を無双します〜  作者: 雪消無
第9章 : 『王国の闇と真実の探求』

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王の言葉、民の選択

 わずかな街灯だけが灯る深夜の薄闇の中、しかし、王都の中央広場だけは、まるで祭りの前夜のような、異様な熱気に包まれていた。人々は息を潜め、ささやき合い、これから起こるであろう歴史の転換点を待っていた。


 エレノアの情報網によって「第三王子レオンハルト、民に真実を語る」という噂が、まるで風に乗る種子のように、瞬く間に王都の隅々まで広まったのだ。不安と好奇心に駆られた市民、それぞれの思惑を胸に秘めた貴族、そして非番の兵士たちまでが、広場を埋め尽くしていた。


 彼らの視線が注がれる先、広場へと続く大通りから、一人の男がゆっくりと歩いてくる。高価な装飾もない、簡素な旅装束。その姿に、民衆のほとんどは最初、誰だか気づかなかった。


 だが、やがてポツリ、ポツリと声が上がり始める。その中には、エレノアが事前に仕込んでいた協力者たちの声も混じっていたが、すぐにそれも必要なくなった。


「おい、見ろよ…あの歩き方、あの佇まい…まさか…」

「ああ、間違いない。前に王家のパレードで見たことがある。レオンハルト王子だ…!」

「それに、たった一人で護衛もついていないぞ!」


 囁きは波のように広がり、やがて確信へと変わる。群衆が、左右に割れ広場の中央にある噴水まで、一本の道が自然にできあがった。レオンハルトは、その道を臆することなく、悠然と、しかし一歩一歩、民の顔を見つめるように踏みしめて進んでいく。


その瞳には、かつての冷徹な光はなく、深い覚悟と、民への慈しみのような色が宿っていた。


「静粛に! ルシアン陛下の名において、反逆者レオンハルトを捕らえよ!」


 広場を囲む兵士たちの指揮官が、上ずった声で叫ぶ。しかし、兵士たちは動けない。目の前に立つのは、紛れもない王家の血を引く王子。そして、彼を取り囲む、数えきれないほどの民衆の壁。下手に手を出せば、この広場が火薬庫のように爆発することは、誰の目にも明らかだった。その膠着状態こそ、俺たちが作り出した最初の好機だった。


 群衆が見守る中、レオンハルトは噴水の縁に静かに立った。隣にはエレノアが影のように控えている。彼には武器も、兵士の壁もない。あるのは、覚悟を決めたその身一つだけだった。


レオンハルトは拡声の魔道具を手に、静かに語り始めた。その声は、驚くほど穏やかで、しかし芯があり、広場の隅々にまで染み渡るように響いた。


「アークライト王国の民よ!そして、父王に仕えた貴族たちよ!私は、王都を追われた敗残者、レオンハルト・フォン・アークライトだ!」


自らの罪を認める衝撃的な第一声に、群衆が大きくどよめく。王族が、自らを「敗残者」と呼んだのだ。誰もが耳を疑った。


「私はかつて、完璧な論理こそが国を救うと信じ、人の心を軽んじた。非効率な営みを切り捨て、数字の上での繁栄だけを追い求めた。その過ちによって、多くの者を傷つけ、国を混乱させた。その罪は、万死に値する!」


 次の瞬間、広場は完全な沈黙に包まれた。

あろうことか、レオンハルトが、石畳の上に膝をつき、深々と頭を下げたのだ。王族が、民衆の前で、土下座にも等しい姿を見せる。ありえない光景に、誰もが息を呑んだ。それは、彼が辺境の村で学んだ、最も誠実な謝罪の形だった。プライドも、権威も、全てを捨て去った一人の人間としての姿が、そこにあった。


ゆっくりと顔を上げた彼の瞳は、涙で潤んでいた。


「だが、だからこそ私は語らねばならない!今、この国を覆っている闇の正体を!この国を、父上が愛した民を、これ以上傷つけさせないために!」


群衆の視線が、祈るように彼に集中する。一息溜め込んだあと、レオンハルトは、王国を揺るがす真実を打ち明けた。


「我が父、偉大なるエドワード国王は、病で亡くなったのではない!我が兄、ルシアンの手によって、暗殺されたのだ!」


 広場が、数万の悲鳴と怒号、そして絶望の混じった巨大な音の塊となって爆発した。信じられない、と首を振る者。怒りに顔を歪ませる者。その場で泣き崩れる者。民が敬愛した国王の死の真相は、あまりにも衝撃的すぎた。


「だが、断じて兄を責めないでほしい!」


レオンハルトは叫んだ。その声は、憎しみではなく、深い悲しみに満ちていた。


「兄ルシアンは、国を思う純粋な心を、正体不明の『賢者』に利用されている!父を殺め、国を私物化する黒幕に操られている、哀れな被害者なのだ!私は、兄を救い、王家を、そしてこの国を蝕む真の敵を討つために帰ってきた!どうか、私に力を貸してほしい!」


 レオンハルトの魂の叫びは、民衆の心を激しく揺さぶった。偽りの神託にすがり、玉座に引きこもる兄と、民の前に膝をつき、真実を語る弟。どちらが真に国を思う王族の姿か、その答えは、もはや誰の目にも明らかだった。


その演説は、玉座の間で監視していたルシアンと黒幕にとっても、計算外の一撃だった。


「おのれ、レオンハルトめ…!何を血迷ったことを!兵士たちよ、何をしている!はやく逆賊を捕らえぬか!」


ルシアンは玉座から立ち上がり、怒りに震えながら叫んだ。その命令を受け、広場の兵士たちがついに動き出す。だが、その瞬間だった。


「我ら、アストリア伯爵家は、正当なる王位継承者、レオンハルト殿下を支持する!」


「バルフォア侯爵家も同じく!これ以上の暴政には従えん!」


 セリナが渡りをつけ、エレノアが事前に根回しをしていた貴族たちが、次々と声を上げたのだ。彼らが率いる私兵たちが、レオンハルトを守るように陣形を組む。


「な、なんだと!」


ルシアンがその場に立ち尽くす。


 広場は、瞬く間に混乱に包まれる。ルシアン派とレオンハルト派の兵士が睨み合い、一触即発の空気が流れる。だが、その緊張を打ち破ったのは、武器の音ではなかった。地鳴りのように湧きあがる、民衆の声だった。エレノアが仕込んだ扇動者など、もはや必要ない。レオンハルトの言葉が、民衆一人ひとりの心に火をつけたのだ。


「我らが王子を守れ!」

「レオンハルト様こそ、真の国王陛下だ!」

「偽りの神からルシアン様を救い出せ!」


 その声は、もはや単なる声援ではなかった。それは、民意という名の巨大な津波だった。ルシアン派の兵士たちは、その津波に飲み込まれ、秩序を維持することができない。さらに、広場を包囲していた王国兵士の多くが、自らの意志で剣を収め、レオンハルト側に付いた。彼らもまた、ルシアンの圧政に疑問を抱いていた者たちだったのだ。


 レオンハルトは、ゆっくりと立ち上がり、民衆に向かって手を差し伸べた。


「皆、ありがとう。だが、これは戦いではない。我々は、惑わされた兄を、そしてこの国を、あるべき姿に戻すのだ。私と共に、王城へ来てほしい!」


 その言葉を合図に、レオンハルトは王城に向かって歩き始めた。その後ろには、貴族も、兵士も、そして何万という民衆が、一つの巨大な流れとなって付き従っていた。その姿は、もはや反乱軍ではない。民意を体現した、真の王の行進だった。その威厳と熱量の前に、ルシアン派の兵は、ただ恐怖に立ち尽くし、道を開けることしかできなかった。


 玉座の間で、ルシアンは魔道具を通してその光景を見ていた。近づいてくる地鳴りのような歓声に、彼の顔から血の気が引いていく。


「なぜだ…なぜ民は、私ではなく、敗北者のレオンハルトを選ぶのだ…。私は、神に選ばれた王だぞ…」


彼の震える声は、誰に届くこともなく、冷たい玉座の間に虚しく響いた。


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