えぴろーぐ
「おとうさまー!おかあさまがいましぇんー」
「何!?またかっ!・・・くそっ!あのじゃじゃ馬めっ!!」
「おかあさまー」と言って泣く息子を掬い上げ、アイザックは海が1番良く見えるテラスへと急いだ。
「陛下!まだこちらの書類が・・・」
「うるさい!戻ったらする!置いておけ!」
呼び止める声を無視し、妻が居るであろうテラスへと急いだ。
テラスに近づけば愛しい妻の姿。
下を見下ろし、海に向かって話しかけている。
腕の中の息子が「じいじだぁー」と言ってにこにこしだした。
「リリエル」
「あ、アイザック、ちょうど言い所に。これから街に・・・」
「却下だ。・・・早く部屋に戻れ。身体が冷えるだろう。お腹の子に良くない」
「大丈夫だよ~私人魚だよ?」
何でも無いことの様に言うリリエルのお腹は丸く膨らんでいる。
2人目の子供を身ごもっていた。
あれから5年。
アイザックは王となり、リリエルは王妃になっていた。
陸に置き去り(と言っても過言ではない)にされたリリエルはアイザック以外に頼れる人間もおらず、必然アイザックと暮らすことになった。
1年目で孕まされ、今では3歳の息子と2人目の子供を身ごもる。
子供と言う枷が出来て、少しは安心できるようになった。
なにせリリエルは今だ、「愛ってなに?」と言った風なのだ。
最中に「俺を好きだろう?」と聞いたことがある。
・・・・と言うか頻繁に。
そのつどリリエルはこう答える。
「好きだけど・・・アクアも姉さま達もお父様も好き。あと海でしょー飴ちゃんでしょー・・・・」
聞くたびに頬が引きつるアイザック。
今だ’好き’の種類と言うか、区別がついていないのだ。
「じいじぃー!」
「おお、大きくなったなぁ・・・」
「・・・あなたはいつまでたってもお変わりないですね、お父様」
アイザックの呟きに孫を抱き取ろうとしていたトリトンはむっとした。
「仕方無いだろう!?魔女に不老不死なんぞにされてしまったんだからなっ!!くそっ、なんと忌々しい・・・」
孫が出来てからトリトンは頻繁に遊びに来る。
姉達もたまに来る。
皆、「リリエルが心配だ」だの「リリエルが居なくて寂しい」だのうるさいことこの上ない。
アクアに至っては、アイザックと親しい仲になっている。
何故か。
利害が一致するからだ。
トリトンを手に入れるためにリリエルを引き離したいアクアと。
リリエルを完全に自分の物にするために出来る限り城から出したくないアイザック。
今更トリトンに「実は愛し合ってませーん。愛って何?」なんてリリエルが間違っても言ってしまわないように警戒警戒しておかなければ。
「なぁにが忌々しいんだい?トリトン?」
「ぎゃぁ!で、でたっ!えぇい、近寄るな!魔女めっ!!・・・リリエル、また来るからな!きちんと3食食べるんだぞ!好き嫌いもいけないぞ!お腹を出して寝るんじゃないぞ!あと、それから・・・」
「ト・リ・ト・ン~?」
「ぎやぁぁあ!」
「ばいばーい!仲良くねー!!」
「じいじぃー!バイバーぃ!!」
アクアから逃げ帰るトリトンを、暢気にリリエルとその息子が見送った。
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「リリエル・・・」
「ん~・・・なに。やだよ、しない。だって疲れるんだもん」
眠たそうに横たわるリリエルの隣、アイザックは背を向け眠ろうとするリリエルにむっとした。
「少しくらいいいだろう」
「やーだーよー!何?昼間は安静にしろとか言ってるくせに!・・・やだってぇ・・・ん」
うるさい口を己の口で塞ぎつつ、抵抗するリリエルを拘束する。
子供が出来てさらに膨らんだ胸を鷲掴みにするとリリエルの背中がしなった。
激しいのは駄目だ。
腹の子に負担をかけるかもしれない。
「リリエル」
「ん~!ん~!!・・・ぷっは!!もー!!やだって言ってるでしょー!?」
「がっ!!!」
「ふんっ」
頭突き・・・と思わせ、股間を蹴り上げられれたアイザックはその場に沈んだ。
隣で股間を押さえて悶絶するアイザックに背を向け、やっと静かになったとリリエルは目を閉じる。
「お、前~!!仮にも愛する夫に向かって・・・」
「うるさい、眠れない。愛する夫ってダレ」
「・・・ほほぅ」
「!!」
今日も夫婦の攻防戦が始まる。
惚れた弱みか、リリエルの身重の身を思ってかアイザックに勝利はない。
しかし気分屋のリリエルのこと。
いつ気が変わるかわからない。
今回は折れるが明日は・・・と密かに決意するアイザックは自分の腕の中ですやすやと眠り出したリリエルの額に口付けを落とした。
とりあえず完結。
最後まで読んでくださってありがとうございました。。