第七話 離れのお嬢様
門兵は、私の顔を見たまま動かなかった。
前に来たときとは違う。
栗色だった髪は、記憶の中の私と同じ淡い金色。
瞳も灰青色。
ドレスを着て、後ろには侍女が二人いる。
顔立ちはまだ違う。
背丈も、声も、身体つきも違う。
それでも門兵の口から、かすれた声が漏れた。
「……お嬢様」
私は微笑んだ。
「はい。ただいま戻りました」
門兵は、すぐに自分の言葉を後悔したようだった。
顔を強張らせ、槍を構え直す。
「そこを動かないでください」
その声は門兵のものではなかった。
屋敷から出てきた執事長、ローレンスだった。
前回よりも多くの使用人を従えている。
その後ろには護衛もいた。
私たち三人を警戒している。
「動いてはなりません」
ローレンスはもう一度言った。
「分かりました」
私は両手を身体の前で重ねた。
侯爵令嬢らしく。
リナとメイも私の後ろで頭を下げる。
二人には、屋敷の門前では余計な動きをしないよう言ってある。
首を伸ばさない。
傷口から身体を出さない。
死体を見ても食べようとしない。
人間らしく立つ。
それだけでいい。
屋敷の玄関前に、父と母の姿が見えた。
母は私を見るなり、膝から崩れた。
「奥様!」
侍女たちが慌てて支える。
母は口元を押さえ、声を上げて泣いていた。
父はその隣で立っている。
私を見た。
金髪。
灰青色の目。
そして、すぐに視線をそらした。
なぜ。
今回は前より似ている。
お母様も、きっと私だと分かったから泣いている。
お父様も、感情を隠すために目をそらしたのだろう。
そうに違いない。
私は一歩進もうとした。
「動かないでください」
ローレンスの声が鋭くなる。
私は足を戻した。
「失礼いたしました」
「何が目的です」
「目的?」
「再びこの屋敷へ来た理由です」
そんなことを訊かれるとは思わなかった。
私は帰ってきた。
家族へ会いに来た。
それ以外に何があるのだろう。
「お父様とお母様と、お話がしたいのです」
「話をして、何を求めます」
「何も」
私は首を振った。
「もう一度、お話がしたかったのです」
母の泣き声が大きくなった。
父は目を閉じた。
ローレンスも、しばらく何も言わなかった。
風が私の金髪を揺らす。
リナが後ろから、髪のつなぎ目がずれていないか確かめている気配がした。
門前で触らないようにと言ってある。
私は小さく後ろへ手を振り、止めさせた。
ローレンスはその動きも見ていた。
「表門からお入れすることはできません」
「では、どこから入ればよいでしょう」
「屋敷の裏へ回ってください」
「裏口ですか」
「塀沿いに案内させます」
侯爵令嬢が裏から屋敷へ入る。
少しおかしい。
けれど、前回は入ることすらできなかった。
今回は話を聞いてもらえる。
一歩前進。
私はそう考えることにした。
*
私たちは屋敷の塀沿いを歩いた。
前をローレンス。
左右には護衛。
後ろにも二人。
リナとメイは私のすぐ後ろ。
逃げないよう囲まれているようにも見える。
でも、きっと案内のためだ。
屋敷の裏手には、使用人や荷物を出入りさせる小さな門がある。
私は知っていた。
「この門は、台所へ食材を運ぶためのものです」
リナへ説明した。
「朝はパンと乳。週に二度、肉が入ります」
「詳しいですね」
「私の家ですから」
「さすがです、エリシア様」
ローレンスの肩がわずかに動いた。
振り返らない。
私は続けた。
「昔、兄と二人でこの門から外へ出たことがあります」
「お忍びですか?」
メイが訊く。
「そのつもりでした。けれど、外へ出たところでローレンスに見つかりました」
前を歩く執事長の背中へ声を掛ける。
「覚えていますか?」
「……覚えております」
「兄は私が言い出したことにしました」
「お坊ちゃまは、ご自身が言い出したと最後までお認めになりませんでした」
「私も覚えています」
少し嬉しくなった。
同じ記憶。
私とローレンスの間にある、確かな思い出。
「その後、あなたは私たちを父の書斎へ連れていきました」
「はい」
「でも、お父様へ報告する前に、台所で温かい乳を飲ませてくださいました」
ローレンスは答えなかった。
ただ、歩く速度が少し遅くなった。
「私が寒がっていたからでしょう?」
「……そうでございました」
「やはり覚えているのですね」
リナが私へ顔を寄せる。
「本当に、お嬢様だったのですね」
「最初からそう言っています」
ローレンスの口元が苦く歪んだ。
なぜ、そのような顔をするのだろう。
私の記憶が正しいと分かったのだから、安心してもよいはずなのに。
*
裏門を通り、屋敷の中庭へ入った。
懐かしい。
石畳の並び。
井戸。
使用人棟。
洗濯物を干す場所。
壁際に置かれた薪。
どれも覚えている。
「冬になると、あの井戸の縁が凍ります」
私は二人へ説明した。
「一度、兄が滑って落ちかけました」
「お兄様は、よく問題を起こされる方なのですか?」
メイが訊く。
「私よりは」
「お嬢様も起こされたのですね」
「子どもの頃だけです」
前を行くローレンスが、かすかに息を吐いた。
笑った?
そう思ったが、顔は見えない。
屋敷へ入る。
裏口から廊下へ。
磨かれた床。
壁に掛かった風景画。
花瓶。
窓から差す光。
私は足を止めた。
「この絵は、昔は反対側にありました」
ローレンスが振り返る。
「五年前に移しました」
「そうでしたか」
「お嬢様が、夜中に絵の中の人物が自分を見ていると仰ったので」
思い出した。
幼い頃の私。
暗い廊下。
絵の中の猟師。
目がこちらを追ってくるように見えた。
「……あれは怖かったのです」
「旦那様は、絵を外す必要はないと仰いました」
「ローレンスが移してくれたのですね」
「翌朝までに」
「ありがとうございます」
「昔のことでございます」
ローレンスはまた前へ向いた。
苦い顔。
でも、完全に冷たいわけではない。
私をお嬢様と呼びそうになり、そのたびに止めている。
きっと、まだ迷っているのだ。
ならば、もっと話せばいい。
思い出を。
私が私である証明を。
*
通されたのは、小さな応接室だった。
家族が普段使う部屋ではない。
外部の商人や、身元の確かでない訪問者を待たせるための部屋。
父と母は、すでに中にいた。
父は窓側。
母は長椅子。
その隣に侍女が一人立っている。
私たちのための椅子は、部屋の反対側へ置かれていた。
ずいぶん離れている。
「そちらへ」
ローレンスが指した。
私は指定された椅子へ座る。
リナとメイは私の後ろに立った。
父と母との距離は、部屋一つ分ほどある。
声は届く。
でも、手は届かない。
お母様へ触れることもできない。
今は仕方がない。
まず話す。
分かってもらう。
それから近づけばいい。
「話せ」
父が言った。
以前より声が疲れている。
「何があった」
私は膝の上で手を組んだ。
どこから話すべきだろう。
旅へ出た朝。
馬車。
盗賊。
死体捨て場。
スライム。
人間の身体。
あまりに多い。
前世の会社なら、結論から話す。
まず現状。
次に経緯。
最後に今後。
「私は、一度死んだのだと思います」
母の肩が震えた。
父は目を閉じる。
「盗賊に襲われました。護衛は倒され、私は馬車から連れ出されました」
記憶が戻る。
男たちの笑い声。
押さえつける手。
腹へ入った刃。
冷たい地面。
私は言葉を選んだ。
すべてを話す必要はない。
お父様とお母様を、さらに苦しめるだけだ。
「傷を負い、街道脇へ捨てられました。その後、死体を集める荷車に載せられたのだと思います」
「生きていたのか」
父が訊いた。
「はい。ほんの少しだけ」
母が泣き出した。
侍女が背を支える。
「私は死体捨て場で、スライムに食べられました」
部屋の空気が変わった。
父が私を見る。
ローレンスも。
護衛たちが身構える。
「そのとき、私の記憶がスライムへ流れ込みました」
「では、お前は」
「エリシアです」
私は答えた。
「以前は人間でした。前世では別の世界の会社員でした。今世ではエリシアとして生まれ、死んだ後、スライムの身体になりました」
父の顔が歪んだ。
信じていない。
でも、完全には否定できない。
私が知っていることが多過ぎるから。
「今は人間の身体を使っています」
母が私の金髪を見る。
目。
顔。
身体。
そのすべてが、誰か別の人間から来たことに気づいているのだろうか。
私は説明を続けた。
「この姿は、まだ完全ではありません。髪と目は、記憶の中の私に近いものをそろえました。顔立ちはこれから直します」
「直す?」
父の声が低くなる。
「はい。お母様に分かっていただけるように」
母が顔を覆った。
なぜ泣くのだろう。
嬉しいから?
苦しいから?
私には判断できなかった。
「ただ、今は外見よりも先にしなければならないことがあります」
私は胸へ手を置いた。
「お母様からいただいた指輪を、盗賊に奪われました」
母の手が止まった。
「十歳の誕生日にいただいた、青い石の指輪です」
「……あれを」
「はい」
「持っていたの」
「旅へ出る日も」
母がまた泣いた。
私は続ける。
「奪われたままにはできません。あれは私のものです。お母様からいただいたものです」
指輪を奪った小柄な男。
首へ紐で吊るし、笑っていた。
顔を覚えている。
「必ず悪漢を探し出します」
「やめろ」
父が言った。
「ですが」
「これ以上、娘の名で危険なことをするな」
「私が娘です」
「……」
父は歯を食いしばった。
拳を握る。
怒っている。
誰に?
私に?
盗賊に?
自分に?
分からない。
ローレンスが静かに口を開いた。
「お嬢様を傷つけた悪漢は、どのような者たちでしたか」
初めて。
はっきりと私を、お嬢様と呼んだ。
私はローレンスを見る。
彼は無表情を保っている。
でも、目は真剣だった。
「分かる範囲でお話しします」
私は記憶をたどった。
「少なくとも五人。おそらく、もっといました」
「特徴は」
「赤い布を腕に巻いた男。片耳のない男。前歯の欠けた男。小柄な男。首領らしい男は、顔の左側に火傷があります」
「武器は」
「短剣。片手剣。弓を持つ者もいました」
「馬は」
「三頭以上。私の馬車の馬も奪われたと思います」
「言葉遣い、名前、互いの呼び方は」
私は思い出せる限り答えた。
首領を「ガレス」と呼んだ声。
小柄な男が「チビ」と呼ばれていたこと。
片耳の男が西の街道を気にしていたこと。
荷を運ぶ先として、古い採石場という言葉が出たこと。
断片。
でも、追うためには役立つ。
ローレンスは後ろの書記へ合図した。
すべて記録されている。
「捜索隊へ伝えます」
「私も行きます」
「なりません」
「私なら顔が分かります」
「なりません」
「ですが」
「今度こそ、こちらへお任せください」
今度こそ。
その言葉に、私は黙った。
前は守れなかった。
だから今度は。
そう言っているように聞こえた。
*
「私たちも、同じものに殺されたと思います」
後ろからリナが言った。
全員の視線が彼女へ向く。
「お前は誰だ」
父が訊いた。
「リナと申します。エリシア様の侍女です」
「侍女ではなかっただろう」
「以前は洗濯場で働いていたと思います」
「思います?」
「記憶が少し曖昧なのです」
メイも口を開く。
「私はメイです。宿屋の下働きでした」
「お前たちも、スライムなのか」
「はい」
二人は同時に答えた。
護衛たちの手が武器へ伸びる。
「ですが、人間でもあります」
リナは自分の胸へ手を置く。
「私たちは、この身体の記憶を持っています」
メイも続ける。
「何か分からないものに殺されました」
「何か分からないもの?」
「暗くて、冷たいものです」
「身体の中へ入ってきました」
二人は私を見る。
以前、私が「それは私かもしれませんよ」と言ったことを思い出したのだろう。
でも二人はすぐに首を振る。
「エリシア様ではありません」
「こんなに親切な方ですから」
部屋の誰も同意しなかった。
「私たちは死体ではありません」
リナが言った。
「胸の鼓動があります」
「心臓は動いています」
メイが自分の胸を軽く叩く。
「本当に?」
母が小さく訊いた。
「はい」
リナは一歩前へ出ようとした。
護衛が剣を抜く。
彼女は止まる。
「近づいていただければ、分かります」
母が立ち上がった。
「奥様」
父と侍女が止める。
母は首を振った。
「確かめたいのです」
「危険だ」
「でも」
母はまずリナへ近づいた。
護衛を挟み、慎重に。
リナは両手を下げ、動かない。
母がその胸へ手を当てた。
しばらく。
母の目が大きくなる。
「動いている」
「はい」
「温かい」
「生きていますから」
母はメイの胸にも触れた。
同じ。
心臓が動く。
体温がある。
二人は、生きた人体の中へ入ったままではない。
一度心臓は止まった。
けれどスライムが内部を補い、心臓もまた動かしている。
本人たちは、それを生きていると考えている。
私も同じ。
「私も確かめますか?」
私は母へ訊いた。
母の顔が強張る。
私へ近づく。
一歩。
もう一歩。
護衛たちも一緒に動く。
母の手が、私の胸へ触れた。
鼓動はない。
私は今の身体の心臓を、動かす必要がないと思っていた。
形だけ残し、中は私が満たしている。
母の手の下は静かだった。
「……動いていない」
「私には必要ありませんので」
母が手を引いた。
悲しそうな顔。
「でも、私はここにいます」
私は言った。
「話せます。考えられます。お母様のことを覚えています」
「ええ」
母は泣きながら頷いた。
認めてくれた?
そう思った。
けれど、父が立ち上がった。
「お前はエリシアではない」
部屋が静まる。
私は父を見る。
「お父様」
「その記憶が本物であっても、お前は娘ではない」
「どうして」
「娘は死んだ」
「私はここにいます」
「お前自身が、一度死んだと言った」
「でも戻りました」
「戻ってはいない」
父の声は震えていた。
「娘を食ったものが、娘の記憶を得ただけだ」
「違います」
「違わない」
「私はエリシアです」
「お前は違う」
「では、この記憶は何ですか」
「娘が残したものだ」
「この気持ちは」
「娘のものだった」
「お父様とお母様に会いたいと思ったことも?」
「娘が、そう思いながら死んだのだろう」
私は何も言えなかった。
父の言葉は、理解できる。
理屈としては。
でも、受け入れられない。
私はエリシア。
そうでなければ、私は誰?
名前のなかったスライム?
死体捨て場にいた一匹?
そんなものではない。
私は父を知っている。
母を愛している。
兄を覚えている。
屋敷を知っている。
私はエリシアだ。
「だが」
父が続けた。
声が少し低くなる。
「妻の慰めにはなる」
母が父を見る。
「あなた」
「この者を屋敷の離れに住まわせる」
私は顔を上げた。
「ここにいてよいのですか」
「本邸へは入れるな。使用人にも、娘として扱うことを強制はしない」
「ですが」
「離れなら住まわせる」
父は私を見ない。
窓の外へ視線を向けたまま。
「妻が望むなら、会うことも許す」
母は泣きながら、何度も頷いている。
「ありがとうございます」
私は立ち上がり、頭を下げた。
「お父様」
父の肩が動く。
でも、振り返らない。
「お父様?」
父は何も答えなかった。
母が私を見ている。
目の前にいるのが娘ではないと分かっている。
それでも、娘の記憶を持つ何かを手放せない。
その顔だった。
*
話は終わった。
母は侍女に支えられ、先に部屋を出た。
父も後へ続く。
扉の前で一度だけ足を止めた。
こちらへ背を向けたまま。
「エリシア、すまない」
小さな声だった。
誰に向けた言葉か分からない。
私?
死んだ娘?
守れなかった記憶の中のエリシア?
父は振り返らず、部屋を出た。
私はその背中へ頭を下げた。
「私はここにおります」
届いたかは分からない。
ローレンスが私たちの前へ立つ。
「お嬢様」
今度は迷わなかった。
「こちらへ」
私は微笑んだ。
「はい、ローレンス」
リナとメイを伴い、彼の後を歩く。
*
離れは屋敷の東側にあった。
本邸から庭を挟んだ、小さな二階建て。
長く使われていない客人用の建物。
家具には布が掛かり、窓には埃が積もっている。
それでも、死体捨て場よりずっとよい。
屋根。
壁。
寝台。
鏡。
服を入れる戸棚。
リナが部屋を見回す。
「ここに住むのですか」
「そうです」
「立派です」
メイは寝台へ手を触れた。
「柔らかいです」
「勝手に中へ入ってはいけませんよ」
「身体をですか?」
「寝台の中へ潜らないように」
「分かりました」
ローレンスは二人の会話を聞き、深く息を吐いた。
「必要なものは、後ほど運ばせます」
「ありがとうございます」
「本邸へ入る際には、必ず私か指定の使用人へお知らせください」
「分かりました」
「勝手に屋敷内を歩き回らないこと」
「はい」
「使用人へ危害を加えないこと」
「もちろんです」
リナとメイも頷く。
「食べません」
「死んでいても我慢します」
ローレンスは目を閉じた。
「死体が屋敷内にあることを前提に話さないでください」
「申し訳ありません」
二人は素直に謝った。
ローレンスは私を見る。
「本当に、この二人を侍女としてお使いになるのですか」
「はい。よい子たちです」
「そうでございますか」
納得していない。
でも、止めもしない。
「何かございましたら、呼び鈴を」
ローレンスは扉へ向かう。
「ローレンス」
「はい」
「私をお嬢様と呼んでくださるのですね」
彼はしばらく答えなかった。
「私が知るお嬢様の記憶を、あなたは確かにお持ちです」
「では」
「それ以上は、まだ申し上げられません」
「分かりました」
「ですが」
ローレンスは私を見る。
「お帰りなさいませ」
私は笑った。
今度は、顔の動かし方を間違えなかったと思う。
「ただいま戻りました」
ローレンスは頭を下げ、部屋を出た。
*
窓から本邸が見える。
お父様とお母様がいる。
兄も、いずれ戻るだろう。
私はこの家へ帰ってきた。
本邸ではない。
離れ。
娘として完全に認められたわけでもない。
それでも、屋敷の敷地内。
家族の近く。
一歩ずつでいい。
顔を直す。
声も。
身体も。
エリシアへ近づけば、いつか本当に分かってもらえる。
リナとメイが私の左右へ立つ。
「これから、どうしますか?」
リナが訊いた。
「まず、この部屋を整えます」
「その次は?」
メイが訊いた。
私は窓の外を見る。
盗賊。
青い石の指輪。
顔に火傷のある首領。
「私を殺した悪漢を探します」
二人は頷いた。
「お手伝いします」
「侍女ですから」
「ありがとうございます」
私は二人の手を取った。
冷たくはない。
心臓も動いている。
人間の身体。
スライムの中身。
人間の記憶。
私たちは似ている。
三人なら大丈夫。
こうして。
人食いスライム三匹は、ラーデンベルク侯爵家の離れに住み着いた。




