第8話 昇格試験
ボーンの冒険者ギルドのC級への昇格試験が開始されることになった。試験内容は、商隊の護衛であった。ボーンの街から王都へ向かう定期商隊。その護衛依頼が、今回の昇格試験となった。
監督パーティーがB級の晴天の導き、試験を受けるD級パーティーは男だけの戦士で構成された6人パーティーの鉄鼠の牙、戦士二人と僧侶と魔法使いの4人構成の若葉の戦陣と、僕ら白銀の翼が選ばれた。
アルドがワインを片手に夕食時に話し出した。
「今日、冒険者ギルドから呼び出しがあって、C級への昇格試験に我が白銀の翼が選ばれた。ギルド長が直々に、『期待しているぞ』と声をかけてくれた。それで、他の鉄鼠の牙、若葉の戦陣のリーダーが俺を睨みつけていた。『この若造、生意気だな』なのか、『優秀なんだな』なのか、『負けないぞ』なのか、分からないが、いやな感じになった」
そしてもったいぶって、ワインを一口飲むと、アルドは続けた。
「俺は、他のリーダーを睨み返すと、ギルド長に言ったんだ。『白銀の翼は、この試験は通過点です。ギルド長のように伝説を作るパーティーになるつもりです。本当に期待してください』とな。良いだろう。それ以降は、皆、静かに聞いていたよ」
アルドにクロエが話し出す。
「そりゃ、皆、静かに聞くだろうさ。こんなバカなリーダーがいるのが分かって、皆、内心、笑って安堵したんだろう」
「そうだよ、お兄ちゃん。そういう時は、少しだけ、謙遜した方が、一目おかれるんだよ。それじゃ、田舎から出て来て、初めて冒険者になった人のセリフだよ」
アルマの遠慮のない言葉に、アルドの顔が少しずつ曇っていった。そして、アルドは言った。
「何だよ、俺は、皆の為を思って、年若だと馬鹿にされないように言ってやった。喜ばれても、そんなに咎められるとは思ってもいなかったよ」
そんなアルドに僕は言った。
「でも、僕らは若いからそれで良いんじゃないかな。ギルド長も分かっていて、未熟なところも含めて伸びしろがあると期待しているんだと思う」
「そうだろう。そうだよな、アルス。俺たちは未熟だけど、その分だけ、期待という伸びしろがあるんだよ。クロエやアルマみたいに周りを気にしてちゃ、受かる試験も受からない。そうだよな、アルス」
「うん、ちょっと違うかもしれないけど。委縮しないで言う事は言うって言うのはリーダーとして正しく、頼もしいと思うけど」
「さすが、さすがだよ。やっぱり、アルスは分かってる。俺から魔法剣士の称号を与えるよ」
アルドが言うと、クロエが横合いから、冷静に言い出した。
「おい、アルド、酔っぱらっていい加減なことを言うな。お前がアルスに称号を与えたって誰も信用しないんだよ。リーダーなら、もっと偉い人にそう言ってもらう努力をしろ」
「良いんだよ。伝説のパーティー、白銀の翼のリーダーが言うんだ。アルスは魔法剣士だ」
アルマが言った。
「あんまり、アルスを褒めると、アルスが別のパーティーにスカウトされて、どっか行っちゃうよ。お兄ちゃん」
「えっ、そうか、それじゃ、困るな。アルスがいないとパーティーの力が半減してしまう」
アルドが言うと、クロエが言った。
「でも、私は、アルスが何処に行くにしても、私を連れて行く約束をしている」
「えっ、どういう事?アルス、本当にそうなの?」
アルマが聞いてきたので、僕は答えた。
「クロエ、いい加減なことを言わないで。僕はそんな約束もしてないし、このパーティーを抜けて、何処に行こうと思ってもない」
アルドが言った。
「そうだよな、アルスはアルマが大好きだからな、パーティーを抜けることはないさ」
「お兄ちゃん、変な事言わないで、アルスが困っているじゃない」
アルマが急に赤くなった。しかし、クロエが爆弾発言をした。
「そう言えば、アルマは裸のアルスと抱き合っていたな」
途端に、アルドの顔色が変わった。
「おい、アルス、責任とれよ」
監督パーティー、B級『晴天の導き』のリーダーであるトーリさんは優しく、試験を受けるパーティー全員を受け入れてくれた。彼は言った。
「皆、試験だからといって緊張しないでくれ。あくまでも今回は護衛という依頼を受け、それを全うすることが仕事だ。脱落せず、その仕事がきちんとできれば、できたパーティーには推薦状を書く。それは、約束する」
それから、護衛のパーティーを見回して、
「隊列の先頭は、我々が行く。隊列の右、左、最後尾をお前たちのパーティーで日毎に受け持ちを変わってもらう。俺たちのパーティーから一人ついて護衛の仕方を教えていくので心配しないでくれ。一週間の長旅だ、同じ場所を2度守ることになる。2度目はお前たちだけでやることになる。それぞれ、考えながらやってくれ、以上だ。なんか、質問あるか?」
アルドが手を上げた。
「おっ、白銀の翼か?発言して良いぞ」
アルドが話し出した。
「はい、俺は索敵の技能があります。良い機会なので、先頭もやらせてもらう事ができますか?」
トーリさんは一瞬考えた。そして、言った。
「先頭は村々での水や食料の交渉とか色々と多いし、それ以上に判断ミスがあれば、商隊を危険に陥れてしまう。そんな、役割だ。ただ、経験したいという心意気はよしとしよう。では、お前たちのパーティーから一人ずつ先頭に出してくれ。そこで学んでくれ。白銀の翼、それで良いか?」
「分かった」
アルドが残念そうに答えた。トーリさんは、それに頓着せず話し出した。
「そして、もう一つ、言っておく。護衛する人と荷に関しては質問してはいけない。疑っている訳ではないが、その聞いた荷主の話が、どこかの街、村の人から悪人に伝わるかもしれない。それが、この商隊に危険を招くことになる。一番怖いのは、魔物ではない、人間、盗賊だ。魔物にはない、悪知恵で俺たちを翻弄する。だから、護衛する人と荷に関しては質問してはいけないということは護衛の基本だ。それを肝に銘じてくれ。じゃ、もうすぐ、出発する。
今日は、右翼を白銀の翼、左翼を若葉の戦陣、後尾を鉄鼠の牙でお願いする。急いで配置についてくれ」
それから、僕らは商隊の右翼に配置され、トーリさんの掛け声で、商隊が動き始めた。
僕はパーティーの荷物係になっている。気付けばレベルは六になり、身長もアルドを追い越していた。筋肉も急について、パーティー内で一番の力持ちになった。魔法が使えるようになって、レベルアップするタイミングが早くなった気がする。今のステータスを確認すると、満遍なくパラメータが上昇し、魔法の項目には、いつの間にか、形状まで表示されるようになっていた。
NAME : アルス
AGE : 15
JOB : 剣士(白銀の翼・D級)
LV : 6
HP : 90/90
MP : 100/100
【能力値】
STR(筋力): 27(+2)
VIT(耐久): 23(+1)
DEX(器用): 27(+2)
AGI(敏捷): 27(+1)
INT(知力): 31(+1)
LUK(幸運): 36(+1)
魔法:
風魔法
ウインド(ボール、ランス、カッター、???)
「アルス、重たくない?」
横に並んだアルマが声をかけてきた。
僕は、パーティーの簡易テントと毛布、食糧と食器、飲料水を運んでいる。アルドは索敵、クロエは狩人として初動を制しないといけないため、比較的身軽に自分の食料と飲料水をリュックに入れ、魔法使いのアルマが自分の食料と飲料水に加え、野宿用の毛布をリュックに乗せていた。アルマは既に汗をかいていた。
「アルマこそ、大丈夫?毛布持ってやるよ」
と言って、アルマがリュックに乗せていた毛布を取り上げ、僕が横抱きにしながら歩いた。
「アルス、急に大きくなったね。びっくりだよ。出会った頃は私が大きかったのにね」
アルマが昔を思い出すような言い方をした。
「そうだね。いつも誰かに虐められていた。アルマが良くかばってくれた。でも、もう、あの頃の泣き虫ではいられない」
「どうして?」
「この剣が言うんだよ。『強くなれ』ってさ」
「その剣、言葉を話すの?」
アルマが自然な疑問で、質問をした。
「話さないよ。でも、剣の気持ちが分かる気がするんだ。なんか、僕の知らない家族のようだよ」
「そう、良かったわね。その剣もアルスを待ってたのかもしれないね」
アルマの言葉が僕の気持ちを表現してくれた気がした。
そうだ、この剣はずーっとギルド長の部屋で僕を待っていたのだ。
平和な護衛は昼近くまで続き、前方から、休憩をするとの通達があった。やっと休めると気を緩めた瞬間、不穏な報せが続いた。
「盗賊が待ち伏せしているかもしれない」
その一言に新人護衛のパーティーは皆、緊張した。




