第7話 魔法剣士
白銀の翼はD級の依頼をこなしていた。オークとの対峙の仕方も問題なくなり、オークであれば2匹でも対応できるようになった。そして、グレイウルフの敏捷さに勝る僕が退路を塞ぐことにより、挟み撃ちにして対応することができるようになった。
それで僕らはC級へのランクアップ試験をギルドにお願いすることになった。
僕は休みの日は、ソロで活動し、ギルド長からもらった剣で密かに練習をしていた。この剣は僕が魔力を流すと美しく輝き、生き返る。そう見えるほどに僕の手の延長のように自在に振ることが出来た。しかし、ゴブリンを斬ろうとしても上手く斬れず、バシッと音がするだけで、ゴブリンはその衝撃で骨が折れて転がる。まるで、木刀で戦っている感じだった。そのため、僕はこの剣を実戦ではまだ使えないと感じていた。
ただ、剣を介さない風魔法は比較的スムーズに使うことが出来るようになっていた。魔法と体の相性が良いのか分からないが、呪文を唱えなくても、頭で考えるだけで『ウインド+ボール』、『ウインド+ランス』は撃てるようになり、こちらは、魔物に致命傷を与えることもできた。
しかし、僕が魔法剣を見る度に、何かが違うと剣が訴えかけているように思えてならなかった。
そんなソロ活動での依頼を受けに行った日、冒険者ギルドでギルド長と出会った。気まずさから反射的に逃げようとすると、ガシッと腕を掴まれ、ギルド長室に連れ込まれ、そして、強制的に椅子に座らせられた。
「アルス、なぜ逃げる?」
「逃げたつもりはないのですが…」
「逃げたであろう。だから捕まえた。相談があるのだろう?」
「何もありません」
「いや、その顔は相談したいはずだ。申せ」
「……」
「おい、言いたいことが言えないでどうする」
「では、正直に言います。この剣が上手く使えません」
「なるほどな。剣に拒否されているようには思えんが」
「剣は問題ありません。手にもなじみ、自身の体の一部のように感じることができるかけがえのない剣です。ただ、斬れません」
「斬れない?魔物の体をか?」
「はい、剣のはずなのに、木刀のように叩くだけです」
「なるほどな、面白い。斬れない剣か?」
「はい、魔法の熟練が足りないかと思い、『ウインド+ボール』、『ウインド+ランス』は練習して、ゴブリンには致命傷を負わすくらいにはなりました。しかし、それでもこの剣では、魔物を斬れません。それで、使えない剣なら戻せと言われるかと思い、逃げようとしました」
「やはり逃げたのか、でも、私は、一度お前にあげた剣を取り上げるほど嫌な奴ではないぞ」
そう言って、ギルド長は優しい目を僕に投げかけた。そして、諭すように続けた。
「行き詰まっているという訳か。剣は教えてくれなかったか?そうか、では、面白い話をしてやろう。
風は強く吹いて人や木々をなぎ倒すことができる。これが、『ウインド+ボール』。
風は竜巻のように一点を集中して、穴を開けることができる。これが、『ウインド+ランス』。
お前はこの二つしか知らない。しかし、風には真空をつくり、物を切りつけることができる。これを『ウインド+カッター』という。
さらに音を遠くまで運ぶ『ウインド+ウエーブ』、自身を浮かすことが出来る『ウインド+ムーブ』、まだあるかもしれんが、私はここまでしか知らん。レインはそれらを駆使した。
お前が出来るかどうかは知らんが、剣はお前を選んだ。もう少し、剣を信頼し、剣に分からないことを聞いたらどうだ。聞かないから拗ねているだけかも知らんぞ」
ギルド長の言葉に僕は涙を流した。なぜ、流れるのか分からない熱い涙だった。何かが僕の中で、かちりと噛み合った気がした。
その翌日、僕は誰もいない森で剣を握り、何度も語りかけた。
「何が違うの?」
そう呟きながら振るい続けた。
気付けば、剣は初めて魔物を斬っていた。剣が僕を許したのか、僕が剣を認めたのか、それは分からなかったが、その剣は僕に無くてはならないものになった。
それから、数日たって、僕はアルドに魔法剣を使いたいと話すと、アルドは聞いてきた。
「例の剣が使えるようになったのか?」
「うん、もう大丈夫だと思う」
「そうか、意外に早かったな」
「そうでもない、時間がかかった。でも、皆には迷惑はかけられない。クロエとアルマに話してくれないか?」
アルドはしばらく考えて、言った。
「じゃ、今日の夕食時に話すよ」
そして、その日の夕食時にクロエとアルマに話を始めた。
「C級へのランクアップ試験前だが、連携の確認をしたいので、これから、休みをなくして、依頼を受けたい」
「何だよ、急に、どうしたんだよ。今のままでも良いじゃないか?」
クロエが文句を言い出した。アルドが言った。
「おい、アルス、お前からなんか言え」
僕に話が振られた。
「分かった。クロエとアルマには話していなかったけど、僕は新しい武器を手に入れた。これだ」
僕は魔法剣を出した。
「なんだ、その、おもちゃみたいな剣は?それは使えるのか?」
「使える。これは魔法剣と言って、魔力を流して戦う。今度から、これで戦いたい」
「だから、連携の練習という訳か?」
「そうだ」
「と言うと、アルスは魔法が使えるようになったのか?」
「使える。アルマのお陰だ」
すると、アルマが言い出した。
「心配してたんだよ。急に魔法のこと言わなくなったから」
それでも、アルマは笑顔になって言った。
「良かった。諦めちゃったのかと思って、聞くに聞けなかったんだ」
会話を引き取るように、アルドが言った。
「そういう訳だ。俺もまだ、アルスの戦い方を見ていない。それを確認するためにも、明日から、もう一度、連携の練習をしたい。いいか?」
「分かった」
三人の声が揃い、連携の練習をすることになった。
「おい、アルス、これじゃ、連携の練習にならない」
アルドが怒り出した。
「なんで、オークが出たら、すぐ、お前が前に出て倒してしまうんだよ。見ろよ、クロエもアルマも見ているだけで何も動いていないじゃないか?お前だけの白銀の翼じゃないんだぞ」
「でも、オークが一匹だとそうするしかないじゃないか?」
僕が言うと、クロエが後ろから言ってきた。
「こっちは楽させてもらっているから、不満はないぞ。なぁ、アルマ」
「そうだね。でも、ちょっとつまらない気もする」
「じゃ、グレイウルフだったら集団だから、皆の出番があるよ」
と、僕が言うと、アルドが答えた。
「そ、そうだな。じゃ、グレイウルフを見つけよう。みんな、俺の後ろをついて来てくれ」
アルドは索敵のスキルを持っていた。
しばらくして、アルドの足が止まった。
「いたぞ、グレイウルフだ。でも、十頭以上いる。どうしようか?囲まれたら拙いかもしれない」
アルドが後ろを振り向いて、僕らに尋ねた。僕は答えた。
「戦ってみたい」
アルドは、クロエとアルマが頷いたのを確認して、戦うのを決めたようだ。それでも念のための言葉を入れた。
「あくまでも命があっての討伐だ。無理だと思ったら、火炎玉を投げて逃げることにする。囲まれる前に退路を断つ。クロエが先頭のウルフに弓を放ったら、戦闘開始だ。アルマは、ウルフの後方にファイアボールをすぐ投げて、ウルフの退路を断って混乱させろ。そして、前に来たウルフは、俺とアルスで倒せるだけ倒す。それにひるんで横に逃げるウルフは、クロエの弓とアルマのファイアボールで出来るだけ倒せ。いいな、行くぞ。クロエ、狙え!」
「分かった。行くぞ」
クロエが弓を引き絞り、矢を放つと先頭にいたウルフのお腹に突き刺さった。致命傷ではない。そして、群れのすぐ後ろでアルマのファイアボールが破裂する。
ドーン。
その音に群れはすぐに混乱状態となった。
ウルフたちは後ろを塞がれたと判断して、僕とアルドが待つ前衛へ動き出した。アルドは片手剣を両手で構え、僕も魔法剣を構える。魔法剣は緑色に輝き、機嫌は良いようだ。
勢いよくウルフが駆けて来た。アルドが動いた。片手剣で右、左と斬り裂き、先頭のウルフが絶命する。
僕はアルドの前に出て、魔法剣で横薙ぎに払った。剣先から薄い緑色の刃が一直線に伸びた。
空気を裂く甲高い音が響いた。次の瞬間、前列にいた四、五匹のグレイウルフが血飛沫を上げながら宙を舞った。
その情景を見たアルド、クロエ、アルマは動かなくなった。しかし、すぐに我を取り戻したアルドが声をかけた。
「クロエ、アルマ、まだ、ウルフは動いているぞ、油断するな」
その声に、クロエは弓を引き絞って矢を放ち、アルマはファイアボールで横に逃げそうなウルフの逃げ場を無くした。
アルドも動き、傷ついたウルフに止めを刺し、僕は魔法剣から魔法を出さず、ウルフを斬り続け、やがて十頭以上いたグレイウルフは全て倒された。
戦いが終わると、三人は呆然と僕を見つめていた。
最初に口を開いたのはアルドだった。
「なんだ今の……」
と、アルドが言うと、クロエは驚きを口にした。
「風が……斬った?」
アルマは剣が気になるらしく、
「アルス、それが魔法剣なの?魔力は使うの?」
と聞いてきた。それに僕は答えた。
「うん、魔力は使い過ぎるくらい使う。だから、魔法剣を使ったあの魔法はもう一回くらいしか使えない。それに、思ったより斜めに飛んでしまった。まだ思い通りには扱えないみたいだ」
アルマがポツリと言った。
「アルスは、剣士でも魔法使いでもないね」
クロエが肩をすくめる。
「アルス、じゃあ魔法剣士だな。いいじゃないか。カッコいいぞ」
アルドが苦笑しながら言った。
「魔法剣士か。まったく、とんでもない奴が仲間になったもんだ」
にこやかな雰囲気の中、クロエがにやりと付け加えた。
「ただ、今のアルスの前は危ないな」




