第6話 伝説のパーティー
「その剣を見せてもらえませんか?」
僕は思わず身を乗り出し、ギルド長にお願いした。ギルド長は真っすぐ僕を見つめた。そして、言った。
「坊主、お前、雰囲気が変わったな。隠し事があるのか、何でそんなに魔法剣に拘る?」
「隠し事?」
そう言って、アルドが僕の顔を見た。そして、続けた。
「おい、アルス、お前なんか、隠し事があるのか?」
二人の目が僕を注視した。僕の言葉を待っていた。しかし、僕は言葉が出なかった。沈黙が続いた。
待ちきれなくなったように、ギルド長が話し出した。
「そうか、思い出した、お前は魔法が使えないかと聞いた若者だったな」
ギルド長は、さらに心を見透かすような鋭い視線を浴びせてきたが、僕の唇は動かなかった。ギルド長が言った。
「なるほど、使えるようになったのだな」
その言葉に僕の肩がビクッと動いた。
「ほう、いつからだ。風魔法が使えるようになったのは?」
探るようなギルド長の言葉に、アルドが反応した。
「アルス、お前、魔法が使えるのか?」
アルドの強い反応に僕は重たい口を開いた。
「使える。先月くらいから使えるようになった」
「えっ、何でそれを言わなかった。嬉しい事じゃないか、皆でお祝いしよう」
アルドの言葉に僕の代わりにギルド長が答えた。
「アルド、お前はパーティーのリーダーだろう。アルスの気持ちが分からないのか?アルスが魔法が使えたらどうなる?お前はアルスを剣士で使うのか、魔法使いで使うのか?どっちだ」
「どっち?そりゃ、両方だろ」
「馬鹿なことを言うな。魔法を使っている間は剣が振れないのはお前も分かるだろう。今のパーティーの戦力で、アルスが剣士でなくなったらどうなる。オークを倒せるか?それに、アルスは、自身の魔法が魔物に致命傷を与えるほど威力がないと分かっている。もし、それを言ったら、魔法使いとしてパーティーで使われる。お前への負担が大きくなる。それで、魔法が使えることを言わなかった。そうだろう、アルス」
「アルス、そうなのか?」
「そう……アルドに、迷惑をかけたくなかったんだ」
僕はしぶしぶ答えた。
ギルド長はそれから、しばらく考えていた。そして、言った。
「剣と魔法の両立。そうなのか、だから、考えた末の結果が魔法剣か?なるほどな。面白い事を考えるものだ。
分かった、見せても良いが、使えるとは限らない。良いか。その時はまた別の方法を考えるのだ」
「分かりました。お願いします」
その僕の言葉でギルド長は席を立った。
ギルド長が席に戻ってくるまでが待ち遠しく思えた。横でアルドが魔法をどうやって覚えたのかとか、どこで練習したのだとか、聞いてきたが、僕は答える気になれなかった。
やがて、ギルド長が一振りの剣を持って戻って来て、僕の目の前に置いた。思っていたのと違うみすぼらしい、なんの変哲もない剣だった。僕の落胆した表情が分かったのかもしれない。ギルド長が話し出した。
「アルス、代わり映えのしない剣でガッカリしたようだな。しかし、これが本当にお前が望んでいる剣だと思う」
「なんか、おもちゃのような剣だな。婆さん、いや、ギルド長、俺たちをかついでいるんじゃないか?」
アルドが茶化した言い方をした。
「そんなことは無い。奴はこの剣で魔物を倒しておった。正真正銘の魔法剣だ。と思うぞ」
「思うって、頼りねえな。ギルド長は使えないのか?」
アルドがギルド長に言った。
「使えない」
ギルド長は端的に答えた。そして、続けた。
「懸命に使おうとしたが使えなかった」
「へー、アルス、眉唾ものだが、念のために触らせてもらいなよ」
アルドの言葉に促されるように僕はその剣の柄に手を伸ばした。
その剣の柄を僕が握ると剣が話しかけてきたような気がした。
「えっ」
僕は思わず声を出して、辺りを見回した。僕を見ているギルド長とアルドの目があるだけだった。不思議に思って、剣の柄をぐっと握ると、僕の体から魔力がスーッと抜けて、剣に宿るのを感じた。それから、しばらくして、その両刃剣の刃先が薄い緑色の光で包まれた。この剣は受け入れてくれた。そんな確信だけがあった。
僕は剣を持ち上げた。そして、それを軽く振ろうとした。そう、指示された気がしたのだ。
「おい、アルス。ここで剣を振るのは止めろ」
ギルド長が僕を一喝した。
その声で僕は我に返った。
「すいません。危ないことをするつもりはなかったんです。何故か、剣を振りたい衝動に駆られました」
いきなりギルド長は呟いた。
「やはりな……」
そして、じっと名残惜しそうに光る剣を見た。それから、何かを振り切るように言った。
「その剣はお前にやろう」
「えっ、いいんですか?」
僕が言うと、ギルド長は答えた。
「私が持っていても、アルドが言うようにおもちゃだからな。それに、その剣はお前といるのが楽しそうだ」
「分かるんですか?」
「分からんよ。でも、感じることはできる。ずーっと眺めていたからな」
「そういう物なのですね」
「そうだ、そういう物だった、お前が来るまでは。それは一緒に戦った奴の形見だ。大事にしてくれ」
「形見?」
「そうだ、以前話したことがあったろう、お前と同じレベルアップする男の話だ。そいつが使っていたのだよ、そのおもちゃみたいな剣は」
「……」
「そう言えば、お前は、その男に似ているところがある。変にひたむきなところとか、その黒髪と黒目とか」
そう言いながら、ギルド長は昔話を始めた。
「その男と私は、二人だけの冒険者パーティー『始まりの双星』を組んで、各地を巡り、様々な依頼をこなして旅を続けていた。それは楽しい旅だったよ。こなせない依頼はなかったのだ。奴は生真面目で、難しい依頼でも調査を怠らず、不測の事態にも対処できるように準備して、そして、何よりえらいのは私の我儘にも何一つ文句を言う事が無かった。だから、依頼は失敗することは無かったよ」
「俺は知っているぞ、その始まりの双星はレインとシルフィの伝説のS級パーティーじゃないか。でも、レインが死んじゃって、解散したって噂が」
アルドが変なところで口を挟んだ。
「そうだ、その死んだ男はレイン、私がシルフィだ。思い出したくもない名前を思い出したわ。忘れてくれないか、皆に忘れて欲しいのだ。私の名前なんか」
「何を言うんだ。婆さんは俺の憧れのシルフィ様だ。でも、何でこんなとこにいるんだよ。どの国に行っても大臣クラスの貴族で生活できるはずだ」
アルドが大きな声を出した。それに応えるようにギルド長は語り出した。
「良いんだよ、そんな生活は必要ではない。もう、面白い事なんか、残ってはいないのだ。
ある時、マギビスタ国が集めた火竜討伐のレイドがあり、事前の調査通り、火竜は退治された。しかし、その洞窟の奥にあるだろう竜が集めた財宝を狙う不届き者のパーティーがいた。そいつらは退治するレイドに参加せず、隠れて洞窟の奥に行き、宝物を見つけた。それを集めていたところで、別の物を見つけた、いや、見つかった。エインシャントドラゴンだった。そのパーティーはなりふり構わず、レイド部隊のもとにもどってきた。エインシャントドラゴンを引き連れて。
レイド部隊は戦った。でも、ドラゴンは強く、部隊は壊滅的な打撃を受けた。初めて、私は焦った。あれだけ、簡単に人が殺されていくところを見たことが無かったのだ。私は狂ったように風魔法を放った。それをレインは何度も止めたが、私は聞かなかった。殺すのを止めろと叫んでいたんだ。
当然、魔力が無くなった私には戦う術がなくなった。ドラゴンはそれを見透かしたように私に近づき、容赦なく足を上げ踏みつぶそうとした。レインは片腕を犠牲にして、私を抱え上げ、岩影に隠した。そして、静かに笑った。今にして思えば死を覚悟していたのだろう。
それからの戦闘を私は見ていない。ドラゴンが怖かったのだ。生き残った者から聞くと、レインは傷つけられても何度も何度も風の魔力で飛びあがり、ドラゴンと戦っていたとのことだ。そして、ドラゴンは戦いに飽きたのか、レインを小さな虫でも叩き落とすようにして、そこから、洞窟の奥に戻って行った。
私はレインを助けられず、レインは命を懸けて私を守った。
戦いが終わったことを知らされた私は、レインを探した。レインはボロボロの姿で見つかった。私は駆け寄ったが、既に息はなかった。その時、傍にあったのがその剣だ。最後まで持っていたのだろう、血で柄が汚れていた。
私はそれを今までレインだと思って守ってきた。しかし、もう、不要だ。その剣がアルス、お前が良いと言っているようだ」
ギルド長はそれだけ言うと黙ってしまった。
どれくらいの時間が経ったのか、無音の時間があった。
しびれを切らしたようにアルドが言った。
「ギルド長、大丈夫か?」
ギルド長はギロリと目を剥いた。そして、言った。
「まだ、居たのか、その剣を持って去れ」
僕は剣を受け取り、お辞儀をして、アルドと一緒に部屋を退去した。
冒険者ギルドを出て、移動しながら、アルドが僕に話しかけて来た。
「アルス、パーティーでの役割は当面、剣士で良いか?そうでないと、俺の負担が大き過ぎる。そのうち、その剣が使えるようになったら、また、連携を確認しながら、考えようぜ。良いだろう?」
「良いよ」
と僕が言うと、アルドが言った。
「それより、新しい剣だ。パーティーのリーダーに相応しい剣が必要だ。お前も新しくするだろう?」
「いや、良いよ。僕にはこの剣がある。この剣に出会えて、なぜか嬉しいんだ」
「そうか、悪いな。じゃ、俺の剣を選ぶのを手伝ってくれ」
僕はアルドの剣選びを手伝うことになった。
僕は腰の剣を見た。古びた、おもちゃのような剣。それでも、不思議と手放したくないと思った。
この剣となら、僕はもっと強くなれる。そんな気がしていた。




