第4話 風魔法
僕とアルマはベッドの上で抱き合ったまま、扉に立つクロエを見つめた。
「何をしてるって」
と、アルマが言うと、僕が付け加えた。
「魔法の練習」
クロエはそれを聞いて、怒りだした。
「何だ、魔法の練習?ベッドの上で行う魔法の練習など聞いたことがないぞ。
アルマ!
恋の魔法とかふざけた魔法ではないだろうな」
「いや、違う、信じて。アルスは好きだけど、本当に魔法の練習なの」
「じゃ、何でアルスは半裸なのだ。おかしくないか?裸で魔法の練習なんて!」
それには僕が答えた。
「おかしくない。お腹にある魔力の塊が動かないから、アルマがお腹の魔力の塊を溶かしてくれた。そして、それが上手く行ったので、嬉しさの余り、あのう、そのう……」
「抱き合っていたというのか、信じられん。私の前で証明しろ」
クロエの追及は厳しかった。
「証明って?キスしろってこと?」
クロエがさらに怒りだした。
「アルス、だからお前は鈍いんだ。魔法を使ってみろと言っているのだ。練習したんだろう」
「無理だよ。まだ、魔力を動かすことしかできない」
僕がそう答えると、クロエはアルマに話を振った。
「アルマ、アルスは魔法は使えるのだろう?」
「アルスは天才だから、魔法は使える」
「えっ」
思わず、僕がアルマを見ると、彼女は自信ありげに僕を見ていた。いやいや、魔力を体の外に出して、呪文を呟く練習なんてしていない。その言葉に、クロエが反応した。
「アルス、魔法を見せてみろ。でなければアルドに言って、どちらかをパーティーからはずす」
「そんなことできる訳ないよ」
僕が言うと、クロエは自信ありげに言った。
「私はアルドの弱みを握っている。だから、私の言う事にアルドは逆らえない」
その自信がどこからくるのか、不気味な気がした。僕はダメ元で答えた。
「分かったよ。できるかどうかも分からないし、どうなるかも分からない、外に出てよ?」
「おっ、やっと、やる気をみせたか?では、ご披露願おうか。嘘だったら、私の言う事を聞いてもらう事になるぞ」
クロエの声で、僕らは部屋を出て、宿の裏庭に移動した。
「アルス、大丈夫?」
アルマが心配げに聞いてきた。今更な気もしたが、不安を抱えたまま答えた。
「やるだけやってみるよ」
僕は裏庭にある木をめがけて魔法を使うことにした。
「いいかい、魔法を使うよ」
僕はお腹に手を当て魔力を確認すると、その手を木に向け、人差し指から魔力を出すように指に気持ちを集中した。ゆっくりと、お腹からせり上がった魔力が胸を通り、腕を抜けて掌に溜まった気がした。
僕はその掌を大きく振って、木に狙いをつけた。
ズルっと掌から何かが抜けて、それと同時にお腹にあるものが引っ張られていった。何か、呪文を唱えないといけないと思っていたら、腹の底から何かが引きずり出されるような気がして、一気に気分が悪くなり、僕は意識を手放した。
僕は、いつもクロエとアルマが使っているベッドに寝かされた。
アルマが言った。
「アルス、大丈夫?」
「うん、少し、休めば何とかなると思う」
僕は気休めを言った。
まるでデジャヴだ。前に倒れたときと、寸分違わぬやり取りを繰り返している。
「あれ、クロエは?」
「どっか行っちゃった」
「そう」
僕はそう答えて、倒れるまでの状況を反芻した。そして、アルマに聞いた。
「僕の魔法どこが悪かったのかなぁ」
「うん、そうだね。アルスのはまだ魔法じゃないね。ただ、魔力を放出しただけ。でも、威力はすごかった。ばぁーっと辺りに魔力が飛び散って、木を揺らして、葉が一杯落ちて来た。
魔法は、魔力を変化させないといけないから、一気に魔力を出したらダメ。少しずつ出しながら、呪文で変化させるのよ」
アルマの言葉を理解しようとしたが、頭がずきずきして上手く考えられなかった。
「僕は今日は何もせずにこのまま休んでいるから、アルマも自分のことしていいよ」
「分かった。私が居たら、また、クロエに何言われるか分からないから、友達とお茶でもしてくるね。お土産買ってくるから」
アルマがそう言って出て行った。一人残された僕は急に手持ち無沙汰となり、ステータスを見てみた。
NAME : アルス
AGE : 15
JOB : 剣士(白銀の翼・D級)
LV : 4
HP : 70/70
MP : 1(-69)/70
【能力値】
STR(筋力): 24
VIT(耐久): 20
DEX(器用): 23
AGI(敏捷): 27
INT(知力): 26
LUK(幸運): 34
魔法:
風魔法
MPが1になっているが、全体量が増えている。それに、風魔法についていた?がなくなった。魔法が使えるのかもしれない。この変化に期待が膨らむ。しかし、気分が悪いのは一向に改善せず、その日は寝て過ごした。
数日休み、体調も戻った頃、僕らのパーティーはアルドの主張通り、次のレベルの依頼をこなし始めた。
依頼は、はぐれオークの退治だった。
アルドと僕が前衛に立って、オークの動きを牽制し、アルマがファイアボールでオークの退路を断って、クロエの弓で目を狙った。クロエの矢が正確に片目を潰す。見える側の目の前におとりとしてアルドが構え、死角となった反対側から僕が斬り込む、というやり方だった。
レベルアップした僕の剣は鋭さを増し、増えた筋力でオークの足を断ち切った。バランスを崩したオークは倒れ、そこに、僕は容赦なく、二の剣を入れ、腕を落とすと、動けなくなったオークにアルドが心臓を突いて致命傷を与え、討伐を完了させた。
アルドはその興奮に酔い、叫んだ。
「俺たちは最強だ」
「アルド、油断するな。まだ、動くかもしれない」
クロエは冷静だった。
「いや、止めは刺した。魔物は絶命している。上手く行った。魔石と肉を回収しようぜ。と言っても肉は、引き取り業者を呼ぶ必要があるな。しかし、俺たちもやるもんだ。そうだよな、アルス」
「うん、そうだね」
「どうしたんだ。大活躍したじゃないか?お前がいるだけで俺たちは安心だぜ」
「うん、そうだけど……」
「お兄ちゃん、アルスはまだ魔法が使えないんだよ。それであまり嬉しくないんだよ」
「魔法なんて使わなくてもアルスは強い。それでいいじゃないか。魔法なんか使えなくたって、アルスはカッコいいよな、なあ、クロエ。惚れるだろ、あの剣捌き」
「おお、おう、好きになってしまうね。おい、アルド、こんな時なんてこと言わせるんだよ」
「はははっ、良かったな。アルス、モテモテで」
饒舌なアルドとは裏腹に、僕の心は晴れなかった。
今僕は一人、宿で剣の手入れをしていた。オークの骨に当たったのか、剣に刃こぼれができていた。そろそろこの剣も修理に出さないといけないかもしれない。
皆はオーク討伐の祝杯をあげていた。僕も誘われたが、やり残したことがあると言って断った。やり残したこと?魔法のことだ。
やはり、我流では無理で、先生について修行する必要があるのかとも思い始めている。しかし、その場合は、この居心地の良いパーティーから離れないといけない。そこまですることかと、僕は踏み切れていなかった。
何度かレベルアップを経験して、以前あったような違和感はなくなった。それより、筋肉がついたようなしっかりした体になってきたという実感があった。今日も戦闘が終わった後、レベルアップしたようで、いつものステータスの確認を行った。
NAME : アルス
AGE : 15
JOB : 剣士(白銀の翼・D級)
LV : 5
HP : 80/80
MP : 80/80
【能力値】
STR(筋力): 25(+1)
VIT(耐久): 22(+2)
DEX(器用): 25(+2)
AGI(敏捷): 27
INT(知力): 30(+4)
LUK(幸運): 35(+1)
魔法:
風魔法
ウインド
風魔法の下にウインドの文字があった。僕は、魔法が使えるようになったのかもしれないと予感し、剣の手入れをする手を止めて、急に明日のことを考え始めた。沈んでいた心が、嘘のように高鳴っていた。




