第3話 魔法を使いたい
白銀の翼の冒険者パーティーは、今日もゴブリン狩りの依頼を受けていた。以前はアルマのファイアボールとクロエの弓矢でゴブリンを牽制し、怯んだところをアルドと僕の剣で襲う方式だったが、今は、ゴブリン5、6匹の集団であれば、僕の剣だけで制圧できるようになった。そのため、アルドが索敵し、前衛の僕が斬り込むだけで依頼が終わり、後衛のアルマとクロエは出番がないことが増えた。
「楽なのは良いけど、あんまり、やることが無いのは退屈過ぎる」
そういった不満がクロエから出始めた。その話を聞きながら、アルドが言った。
「確かにそうだな。じゃあ、次は少しランクを上げてオーク討伐か、グレイウルフの群れの間引きでも受けてみるか?」
「でも、まだ早くないかしら。私のファイアボールの威力ではゴブリン一匹にも致命傷を負わせることができない。もう少し、威力を上げてから戦いたい。このままだと、アルスの負担が大きいよ。そうでしょう、アルス」
アルマが僕に同意を求めて来た。
「うん、僕も焦らない方が良いと思うけど」
僕が言うと、アルドが答えた。
「しかしな、実際、今の依頼で活躍するのはアルス一人だけだ。やはり、依頼はステップアップした方が良いと思う。そうすれば、もう少し、贅沢ができるしな」
「そうだよ、そうしよう」
クロエが同意した。そして、続けた。
「それに、アルスは休みの日でも、単独でゴブリンとかキラーラビットの依頼を受けているだろう。一人で出来る依頼はもう飽きたんじゃないか、アルス」
そう言うクロエに、僕は答えた。
「そうなんだけど。ソロとパーティーの戦い方は違うはずだし、まだ、パーティーの戦い方としては未熟だと思う」
「でも、お前が全部倒すから、パーティーとしてやりようがないだろう」
アルドが言って、僕を見た。そして、僕に話しかけた。
「だから依頼の内容を変えようと言うんだよ。それが、理にかなっていると思わないか?」
「うん、そうだな」
アルドの理屈に押されて、つい頷いてしまった。すると、
「もう、アルス、どっちなの?」
アルマが怒り出した。
「アルマ、怒るな。アルスはどっちでもいいんだよ。だから、リーダーである俺が決める。これからは新しい依頼を受ける。良いな、クロエ、アルス」
白銀の翼の冒険者パーティーはそれからは次のレベルの依頼を受けることになった。
僕はこれまでの戦いのなかで、レベルが3になったが、それ以降、中々、レベルが上がらなかった。想像するに、そのレベルに相応しい魔物を倒さないと、それ以上レベルが上がらないのかもしれない。現在のステータスだ。
NAME : アルス
AGE : 15
JOB : 剣士(白銀の翼・D級)
LV : 3
HP : 60/60
MP : 15/15
【能力値】
STR(筋力): 22
VIT(耐久): 19
DEX(器用): 20
AGI(敏捷): 25
INT(知力): 25
LUK(幸運): 33
魔法:
風魔法?
比較する人がいないのでこれが酷いのか、凄いのか、よく分からないまま、ひたすら、ソロでもゴブリン討伐の依頼を繰り返していた。ゴブリンに関しては不意を突かれて、こん棒で殴られてもほぼ痛みもなく、苦も無く斬り捨てることができるようになった。
アルドが言うように、次のレベルの魔物の対応をしても良いのかもしれない。ただ、ソロの戦い方とパーティーの戦い方は違う。パーティーでは味方が危なくなれば、まず、その敵を倒す必要がある。それは、ソロより戦い方に制限がかかるが、戦っている強い敵からの不意の攻撃に仲間が対処してくれることもあるため、一長一短がある。
実は、ソロで冒険者ギルドの依頼を受け始めたのは訳があった。
魔法の練習である。僕は、ギルド長が『あきらめろ』と言った魔法をあきらめきれなかった。それで、火の魔法使いであるアルマに魔法のコツを聞いたのだ。
彼女は喜んで教えてくれた。
魔法は体内の魔力を使って実現するという。魔法使いの特性のある人は魔力を体内に溜め込むことができるらしく、これを、教会の子供の頃の適性試験で見極めるらしい。
適性があると認められた子供は、まず、魔力が体内にあることを感じることから始め、それから、魔力を体中に動かす練習をするとのことだ。その単純だが、よく分からない練習が一番つらかったと言っていた。
次に、動かせるようになった魔力を体の外に出す練習をひたすらするようだ。これは最初は痛みを伴うらしく、その痛みに耐えかねて、ほとんどの子供が脱落していくらしい。アルマはその痛みをあまり感じなかったと言っていた。
それから、最後は呪文だ。呪文は体外に出した魔力を変化させるものらしく、それにより、魔力が火に変化したり、水になったりするとのことだ。火、水、風、土魔法で、それぞれ、ファイア、ウォーター、ウインド、アースとの呪文が決まっており、その次に魔法の形状をつけて、魔法が完成するらしい。アルマは、空き地でファイア+ボールとファイア+ランスの魔法を見せてくれた。
僕は魔法を軽々と使うアルマを見て、嫉妬した。可愛い笑顔で誇らしげに僕を見る彼女の顔が憎らしく見えた。
それから、僕は練習した。
確かに、ギルド長が『あきらめろ』と言った意味も分かった。最初に魔力があるといってもアルマが言うお腹にあるように思えないのだ。お腹はご飯を消化するところである。魔力などあるはずがない。
お腹にあるはずの魔力が見つからず、探せば探すほど、「魔力など存在しない」という常識が邪魔をした。何回やっても、何日やっても見つかりそうになかった。
諦めかけていたある時、クロエとアルマがデザートを食べている時に話していた言葉に何故か引っかかりがあった。
「甘いものは別腹だわ」
そうだ、もしかしたら魔力は別腹に隠されているのかもしれない。僕はそれから別腹を探し続けた。そして、見つけたのだ。お腹の奥、背骨との間にあるように思えた。そして、僕の掌に反応し、お腹が光ったのだ。
しかし、アルマの話だとそれを動かすと言っていたが、そこにあるのは固く凝った塊のようで、とても動きそうになかった。
発見からの絶望。何日経っても動きそうになかった。何度も、ギルド長の『あきらめろ』という言葉が頭の中で繰り返された。
パーティー活動が休みで、ソロで依頼を受けようと宿で朝ごはんを食べていると、アルマから声がかかった。
「アルス、魔力は見つかった?」
「見つけたよ。でも、動かせない」
僕のしょんぼりした様子にアルマはぱっと笑顔になった。
「手伝ってあげようか?」
「えー、どうやって?出来るの?」
「うん、魔法を教えてもらった時の先生のやり方を真似てみるよ」
「分かった」
「じゃ、お部屋に一緒に来て!」
僕とアルマは宿の部屋に戻り、アルマは僕をベッドに寝かせた。
「アルス、お腹を見せて」
アルマは僕の上着を剥ぎ取ると、お腹を出させた。
「アルス、魔力を感じるところを教えて」
アルマの言う通りに、僕は掌をお腹に当てると、ある箇所が光った。
「ここが魔力のある位置だと思う」
僕が言うと、アルマが答えた。
「そうだね。よく分かったね。じゃ、魔法の先生がやったように私がアルスの魔力を動かしてみるよ」
そう言って、アルマが僕の掌に自分の掌を重ねて、唸った。
「うーん」
という声に合わせて、僕のお腹を力強く何かが押してきた。痛くはないのだが、押される感覚だけが強くなってきた。
「中々動かないね。なんか、固まっている感じ。ちょっと横からも押してみるね」
と、もう片方の掌を僕の脇腹にあてた。すると、横からも押されて、少しずつ窮屈な感じが強くなった。アルマの額に汗が出始めて、さらに、彼女は唸った。
「もう少し……」
窮屈な感じがさらに高まり、やがて、体の中で風船が破れたような気がした。
「アルマ、何か変だ。魔力の塊が漏れて、お腹の中に広がった気がする」
僕の声にアルマは掌を僕の体から離して言った。
「アルス、魔力が固まっていたようだから、一回、溶かしたよ。もう一度、自分の掌で魔力を感じてみて」
「うん、やってみるよ」
僕はお腹に置いている掌に力を込めた。すると、お腹に弾けた魔力が集まってきた。
「あー、また、集まった」
「そう、それを伸ばすように指先まで動かしてみて」
僕はその言葉の通り、集めた魔力を指先まで動かすように念じてみた。
指先へ温かな流れが走った。
動いた。
初めて、自分の意思で魔力が動いた。
「アルマ……動いた!」
「良かったね。それが、魔力操作だよ。そこまでできたら、魔法は使えると思う」
アルマが言うと、僕は言った。
「アルマ、ありがとう」
僕は感激のあまり、アルマを抱きしめた。
その時、部屋の扉が開いた。
「お前たちベッドの上で何をしている?」
扉の方を向くと、クロエが鬼のような形相で立っていた。




