第2話 レベルアップ
「それはレベルアップに体がついていけていないのだ」
アルドに婆さんと言われた女性は僕に向かって言った。
「レベルアップ?それはどういったものですか?」
僕が聞くと、その女性は僕に教えてくれた。
「そうだな、お前はまだ若いから経験があると思うが、背が伸びるときに、慣れずに上手く動けないときがある。それと同じように、魔物を狩ると経験値というものが手に入り、それがある一定量溜まるとレベルが上がる者がいる。レベルが上がると体のあらゆるパラメータが増えるのだ。そのため、意図しない成長にお前の体がついていけていないのだな。お前にはその特殊な個性があるのだろう」
彼女がそう言い切ると、アルドが声を出した。
「婆さん、物知りだな」
「口の悪いがきだな。妙齢の女性をつかまえて、婆さんとはなんだ。私はギルド長だ。ギルド長と呼びなさい」
アルドは言い返した。
「でも、ギルド長よ、エルフは長生きなんだろう。人間から見たら婆さんじゃないか?」
「エルフの寿命は1000年はあるというが、私はまだ、200歳だ。それにギルド長として敬われる立場にいる。D級の小僧に婆さん呼ばわりされるのは納得いかない。お前は懲罰ものだ」
「分かったよ、謝るよ。それで、アルスはどうしたら良いんだ」
アルドが聞いた。
「ほっとけば自然に慣れる。もし、急ぐならどんどん体を動かすことだ」
ギルド長が答えた。
機嫌を損なわないように僕はおそるおそる聞いてみた。
「そのパラメータは確認する事ができるのですか?」
ギルド長は遠くを見るように視線を上に向け、考え込み、やがて言った。
「昔組んでいた変わり者の冒険者が、同じような個性を持っていたのを思い出していたのだ。酔った奴が、そういえばステータスという言葉を唱えれば確認できるとか言っていたな。ただ、聞いただけだし、それが本当かどうかも分からん」
ギルド長は教えてくれた。すると、アルドが僕に言った。
「アルス、言ってみなよ」
僕は呟いた。
「ステータス」
目の前に変な画面が現れた。思わず、声が出た。
「何だこれ」
NAME : アルス
AGE : 15
JOB : 剣士(白銀の翼・D級)
LV : 2 (UP!)
HP : 50 / 50
MP : 12 / 12
【能力値】
STR(筋力): 18 (+5)
VIT(耐久): 14 (+3)
DEX(器用): 12 (+2)
AGI(敏捷): 22 (+8)
INT(知力): 25
LUK(幸運): 32
魔法:
風魔法?
これを見る限り、敏捷が+8なのに、器用が+2。この差のせいで、上手く体を制御できないのだろう。なるほど、ギルド長の言う通りだ。
そう思っていると、アルドが聞いてきた。
「何か見えたか?」
「えっ、アルド、これが見えないの?」
「あー、何も見えない」
アルドが言うと、ギルド長が言った。
「そうかもしれんな、自分の情報はその人だけしか分からないと思う。奴もそんなことを言っていた気がする。もう気が済んだだろう。帰れ。私は用事がある」
その言葉を聞きながら、何気なくギルド長に聞いてみた。
「最後に一つだけ聞いてもいいですか?魔法という項目があって、風魔法?って書いてあるんですが、何か、分かりますか?」
「最後だぞ。私も忙しいのだ。……魔法の項目に風魔法?普通に考えると魔法が使える事を示しているのだと思うが、お前は魔法を見たことがあるのか?」
ギルド長が僕に聞いてきた。
「はい、パーティーのメンバーに火の魔法使いがいて、戦いの時に見ています」
「そうか、そのメンバーはどうやって魔法を覚えた?」
「彼女は村の教会で神父に教えてもらったと言っていました」
「魔法を覚えるのにどれくらいかかったと思う?」
「さあ、分かりません」
「魔法に適性のない人間は数年の修行が必要だ。適性のある我々エルフは生まれたときから使うことができるがな。お前の年は幾つだ?」
「15です」
「人間としては遅すぎるな。人間は10歳までに魔法を覚える必要があると言われていて、そのために、子供の頃、魔法の適性試験をしたはずだ。魔法という特殊な出来事を素直に受け入れられる年齢がそれ位だからだ。普通なら無理だ。私は成功した者を知らない」
「そうですか?」
と、僕は言いながらも納得がいかなかった。そんな内心が顔に出ていたのか、ギルド長が続けた。
「納得がいかないようだが、魔法を使うことは、この世の中の理を壊すことだ。それは、今までのお前の知識が壊れていくことだ。今感じている体の違和感以上に精神的な違和感を伴うはずだ。体は順応しても、もしかしたら、心は激しく抵抗するかもしれん。その時は、お前は正常な考えが出来なくなるかもしれない。だから、魔法を覚えるなんて考えずに、剣士として一人前になる方がお前のためだ。魔法はあきらめろ」
そのギルド長の強い語気に僕は頷いた。しかし、割り切れないもやもやがあった。
「ギルド長、そんなに厳しく言う事ないだろう。アルスは村の前に置き去りにされたかわいそうな子供だったんだよ。魔法の適性試験なんて受けてないって」
アルドが僕を代弁してくれた。
「過去は過去だ。それに、アルスと言ったか?お前が下手ににわか仕込みの魔法を使ったところで、仲間を危険にするだけだ。それを肝に銘じるのだ」
ギルド長は僕にそれだけ言うと、アルドの方を向いて言った。
「もう良いか?私も忙しいのだ」
「嘘をつけ、いつも暇そうにお茶を飲んでいるだけじゃないか?」
「はははっ、よく見ているな。それも私の仕事のうちだ。もういいだろう、去れ」
手を払う仕草で僕らを追い出した。
「ひでぇ、婆さんだ」
冒険者ギルドを出て歩きながら、アルドは誰に言うでもなく言った。
「アルド、ありがとう。聞いてくれて助かった。色々勉強になったよ」
僕が言うと、アルドが答えた。
「おう、どうってことないよ。今日は休みだから良いが、明日は依頼を受けるつもりだ。そうしないと、宿の支払いもできなくなる。アルスがまともに戦えないとパーティーが成り立たない。頼むぞ」
「うん、体は大丈夫だから問題ないと思う。言われた通り、体を慣れさせるように剣の素振りをやったりして動いてみるよ」
「おう、そうか?それは頼もしいな。俺は、これから寄る所があるからここで別れても良いか?」
急にアルドがそわそわしてきた。この街の歓楽街が近くなってきたのが、彼の気持ちを刺激しているのが分かった。
「じゃぁな、俺、用事を思い出したから、知り合いと話をしてくるわ」
そう言って、アルドは駆けだして行った。その背中を見送りながら、僕は胸の奥に残る「風魔法?」という言葉を振り払えなかった。
――本当に、僕には使えないのだろうか。




