第13話 待ち伏せ
その日の一行の行動は、物を運ぶ馬車の隊列なのか、負傷者の行進なのか、分からない状態で始まった。
馬車の前をトーリさんたちが進み、馬車の後方を僕たち白銀の翼、ガレオンさんを抱えるように進む鉄鼠の牙、犯罪者であるレオン一味を引きずるように進む若葉の戦陣がいた。
トーリさんは、次の街で、治療の為に鉄鼠の牙のガレオンさんたちを解放し、レオン一味を街の警備兵に引き渡すと宣言した。ともに、次の街までの旅になる。
アルドは索敵を怠らなかった。そして、そっと耳打ちした。
「この馬車につきまとう嫌な感じがある。アルスも気を付けてくれ」
「うん」
と、言いながら、僕はあくびをした。
「でも、眠い」
僕が正直に言うと、アルドが笑いながら言った。
「そりゃ、そうだろう。一時間も寝ていないんだから。魔力も回復していないんじゃないか」
そう言いながら、同じ試験を受けていた冒険者も眺めまわした。そして、急に真剣な顔をして言った。
「人の事を心配しても仕方ないが、あいつらこれからどうするんだろうな」
「アンナさんは白銀の翼にスカウトしても良いかと思う。女性陣に受けも良いし、パーティー的にも治癒ができる僧侶は魅力的だし」
僕が答えると、アルドがまた笑い出した。
「アルス、どうして、お前はそう厄介事を抱えようとするのだ。女性陣に火に油を注ぐようなもんだ」
「どうして?」
「それは、分かって言っているのか?もし、アンナがうちにきて、メンバーになったとするぞ、お前はその性格だから、慣れないアンナの色々と面倒を見始める。すると、アルマとクロエがやきもちを焼くにきまっているじゃないか?」
「そんなことは無いよ。僕にそういう気持ちがないもの」
「お前にそういう気持ちが無くたって、アンナの方は違うかもしれんぞ。現に今でも、チラチラこっちを見ている。アルス、手を振ってみろよ」
アルドに言われたように僕は手を振った。すると、アンナさんが照れた笑顔になった。
「ほら、見ろ。アンナはお前に悪い気はない。むしろ好意的だ。分かると思うが、振り返って見な」
言われるように振り返ると、アルマとクロエの般若のような顔があった。驚いて、アルドを見ると、アルドが納得顔で言った。
「そういう事だよ。俺はそれでも良いけど、お前の身が持たないのじゃないかと心配するよ」
僕の背筋に悪寒が走った。
なんとか、馬車は進んでいき、見通しが良い小高い丘が昼の休憩場所となった。その先にハルンの街が見える。そこで、今夜は宿泊となる。やっとベッドで寝られる。しかし、その街で鉄鼠の牙、若葉の戦陣とお別れとなる。今朝の事なのに、既に遠い昔のような気がしてきた。安心してはいけないと思うが、昼の日差しは眠気を誘った。
そんな中、トーリさんがやって来た。僕とアルドを呼び出して、馬車から離れて話し始めた。
「疲れているところ申し訳ない。良い話じゃない。ハルンの街が見えると思うが、その手前にちょっとした森のような林があるだろう。アルドも索敵を使ってもらうと分かると思うが、人の気配がしている。どうも、隠れている。また、戦いになりそうだ」
アルドが言った。
「レオンを取り返しに来たのですかね」
「分からん。そのような気もするが、別の者かもしれん。しかし、あそこに潜んでいるということは、我々が目的だと思う」
トーリさんが答えながら、僕を見た。何か、言えということなのか、やれという事なのか、促すような目だった。僕は答えた。
「一度使ったウインドウエーブで『そこに居るのは分かっている』と脅すのはどうでしょうか?逃げればそれで良いでしょうし、逃げなければ、僕らも前に出て戦います」
「そうだなぁ」
トーリさんはそう言いながら、一呼吸おいて言った。
「実は、お前たちが手伝ってくれるのが楽で良いんだが、後方が手薄になる。若葉の戦陣の二人の戦士がまだ、敵なのか、味方なのかも不明だ。彼らが、連れている盗賊の縄を解き、レオンとともに後方で騒ぎ出すかもしれない。だから、お前たちはやはり、ここに居てくれ」
「じゃ、アルス、お前だけトーリさんと前に行けよ。俺は後方で見張る。俺が居れば、クロエやアルマに指示ができる。牽制はできるし、戦うことができる。それに、鉄鼠の牙もガレオンさんの動けない場合は、俺が仮のリーダーになるとしてもらっているからな。後方は任せとけ」
アルドからそう言われた。トーリさんがアルドの言葉に応えるように笑顔で言った。
「じゃ、言葉に甘えてアルスを借りるか?手伝ってくれ、アルス」
「分かりました。全力で頑張ります」
僕が緊張した面持ちで答えると、トーリさんが言った。
「主な戦闘は俺たち晴天の導きが行う。アルス、お前は最初にウインドウエーブで敵を脅して、林から追い出してくれたら、後方で俺たち取り逃した者が馬車に近づかないようにしてくれるだけで良い」
「分かりました」
と言い、トーリさんの後をついて馬車の先頭へ行った。今まであった眠気がなくなり、晴天の導きの、よく知らない人たちの間で、逆に緊張感に包まれてしまった。
再び、馬車は動き始めた。
トーリさんが言っていた森が見えて来た。やはり、異変をずーっと感じているのであろう。トーリさんがその手前で護衛している馬車の隊列を止めた。トーリさんから目配せが帯同している僕にあった。僕は隊列の先頭に立つと、ウインドウエーブを使って、トーリさんから前もって言われた言葉を森の中に放り投げた。
「隠れていても無駄だ。見つけ次第殺す」
唸るような声が森の中を駆け巡った。その声に反応するようにバラバラと賊が出て来た。見た感じ、以前見たレオンの仲間のようだった。
トーリさんは後方の狩人に矢を撃つ用意をさせ、魔法使いに魔法の準備をさせた。前衛には剣と盾を構えさせた。
対峙する盗賊はやはり馬上に乗った首領らしき者を囲むように五、六人くらいがいた。射手が数人いたはずだが、それが見えない。森に隠しているのか?
盗賊の首領が言い出した。
「レオンと捕えた者を返してもらおう」
「その者たちは全て殺した」
トーリさんが嘘をつくと、首領が声を出した。
「嘘をつくな、後方に連れているではないか?」
「つけていたのか?」
「どうでもいいことだ。早く渡せ」
「貴方に渡すわけにはいかない。ハルンの街の警備兵に渡す。そうしないと、また、狙われるだろう。殺さなかっただけでもありがたいと思え」
「どうして、冒険者という奴は、いつも正義だの規則だのとうるさいのだ。世の中はそんな綺麗事では動かん。力ある者が奪い、弱い者が従う。それだけだ」
盗賊の首領が言うと、トーリさんは言い返した。
「貴方にそれがあるとは思えないが」
その瞬間、空気が一変した。胸を押し潰されるような重圧が、全身にのしかかる。剣が静かに震えていた。見ると、トーリさんたちもぶるぶる震えていた。
「無駄口を叩くからだ。私の力にひれ伏せ!」
その言葉とともに、その力が強くなってくるのを感じた。トーリさんたちは立っていられず、前のめりにうずくまり始めた。剣は大きく震え、キーンとした金属音を出し始めた。最初は、小さく、それから、少しずつ大きくなった。
「おっ、お前は何で立っていられるのだ。私の威圧が効かないのか?まぁ、そういう特異体質もいたか。でも、お前ひとりくらいどうにでもなる。おい、お前ら殺るんだ」
その掛け声に盗賊が動き出した。
僕には剣の声が聞こえた。僕は剣に導かれるまま、目の前の見えない何かを断ち切るように横一文字に薙ぎ、続けて縦に振り下ろした。
すうーっとあの力が消えていくのが分かった。押さえつけられていたトーリさんたちが立ち上がった時には盗賊たちは数メートルに迫っていた。僕は時間をかせぐために、小さな風を起こし、盗賊たちの前の道の土を巻き上げた。
その間隙を逃さず、後方の狩人が矢を連射した。それが、さらに足止めをし、トーリさんたちに身構える余裕を与えた。トーリさんの左横にいた戦士が槍をつき、トーリさんと右横にいた剣士が矢が刺さって動きがにぶった盗賊に剣を振るった。
その様子を見た盗賊の首領は、狙撃のために隠していた射手を呼び出した。
「弓兵、出て援護しろ」
弓兵が三人、道に並び、陣形をとって弓を引き絞ろうとしていた。僕は、集まった弓兵にウインドカッターを立て続けに放った。遠すぎて殺傷能力は余り期待できないが、牽制になるだろうと思っていた。
斬れないと思われた風でも構えた弓を傷つけたり、弦を切ったりはできたようだ。弓兵からの矢は飛んでこなかった。
それを見た盗賊の首領は何かを決心したのか、馬上から叫んで馬を駆った。
「レオナール、今から助けにいくぞ。どこにいる?」
その馬は、僕らの横を抜け、後方に向かって行った。
「父上」
レオンの声がそれに呼応するように後方で木霊した。




