第11話 裏切りの夜
簡単な夕方の食事は終わり、僕、アルド、アルマとクロエと見張りの順番を決めた。アンナさんにはアルマとクロエの見張りを手伝ってもらうことにした。そして、その順番は、トーリさんが集めた護衛のリーダー会議の中で発表され、皆で夜警時の連絡、連携を確認した。
僕らの見張りの順番はトーリさんの指示だった。この順番を誰かが盗賊に教えたとしたら、きっと、襲撃はアルマとクロエの見張りの時になると予想され、その時、僕とアルドがそれぞれ、若葉の戦陣と鉄鼠の牙を見張ることになった。
僕は見張りに立ち、僕のパーティーの他のメンバーは仮眠をとっていた。護衛する馬車は密集した状態になっており、各冒険者パーティーの見張り用の松明で照らされていた。各パーティーで選ばれた見張り役はその周りをぐるぐると回ることになった。
夜で暗くなった遠くを僕は見ていた。声をかける人がいた。若葉の戦陣のリーダーレオンだった。
「お前、白銀の翼の剣士だろ。初めてだったな、俺が若葉の戦陣のレオンだ。こっちが鉄鼠の牙のリーダーガレオンさんだ。今晩の見張りだが、とりあえず、持ち場を決めたいがどうする?なんか、希望あるか?」
年下とみられて馬鹿にされている気もするが答えた。
「何処でも良いです。でも、今夜は持ち場警備でなく、馬車を周回警備すると聞きましたが」
「周回警備してたら、警備していない箇所から盗賊が侵入するかもしれん。だから、三方向に持ち場を決めた方が効率が良いと思うんだ。ガレオンさんはどうですか?」
「あー、皆が良かったら、それでいいぞ」
ガレオンさんが重そうな口を開いた。
「でも、そういった警備をすることをトーリさんはご存じなんですか?」
僕の問いにレオンさんは一瞬たじろいだ。そして、答えた。
「知らないが、俺が後で説明しとくから大丈夫だ。お前、アンナから俺の悪口を聞いているからって、ふざけたことを言うな。お前は俺に従っていればいいんだ」
レオンさんは僕に怒りを向けた。僕は言い返した。
「アンナさんは貴方の悪口など口にされてはおりませんし、今の見張りに関係ありません。僕は責任者であるトーリさんが、レオンさんの判断を認めているかと聞いただけです」
僕の言葉はレオンさんの怒りを助長した。
「ちょっとくらい派手な魔法が使えるからって舐めた口きくんじゃないぞ。トーリさんは俺の味方だ。俺を信頼してくれている。だから、俺に最初の見張りを指名してくれた。俺はリーダーで、お前は指示される方だ。だから、黙って、頷いていればいいんだよ」
レオンさんの言葉に、それでも、僕はきっぱり言った。
「納得いきません」
睨みあいが続いた。そこに、ガレオンさんが口を開いた。
「おい、言い争っているのも盗賊が見ているかもしれない。護衛が仲間割れするのも問題だ。おれもどちらかと言うと、持ち場制のほうが気が楽でいい。慣れているからな」
その言葉に、勝ち誇った顔でレオンさんは言い出した。
「やはり、ベテランの冒険者はそうなりますよね。おい、聞いたか、小僧。分かる人は分かるんだ。小僧、お前は、街道側を見てもらおうか?」
不敵な笑いを浮かべていた。そして、レオンさんはガレオンさんに話しかけた。
「じゃ、ガレオンさんは賊がいかにもいそうな林側をお願いします。で、俺が見通しの良い川側を担当します」
レオンさんは、ガレオンさんに話し続けた。
「まぁ、昼間の感じだともう盗賊は襲ってこないと思いますけど、ガレオンさんはどう思いますか?昨夜、大分脅かされたようでしたから」
ガレオンさんは、むすっとした感じの声で言った。
「盗賊も馬鹿ではない。思い込みは油断を招く。そのつもりでいた方が良い」
「つもりも何も今日は静かな一日でしたよね。では、俺は持ち場に行きます」
レオンさんはその言葉で受け流し、警備の持ち場にすたすたと行ってしまった。残された僕に、ガレオンさんが話しかけた。
「強いんだってな。評判だぜ」
ガレオンさんの方を振り向いて答えた。
「そんな事はありません」
僕が答えると、
「そうか、そんな事はないか?俺も言ってみたいな。あの男も俺もそうだが、お前のように強いと言われたことは無い。だから、その他人から評価される強さは憧れだった。俺は並外れた力もなく冒険者を続けてきた。
お前から見れば、生き延びてきたことも強さに見えるかもしれない。だが、あれは強さじゃない。ただ、生きるのに必死だっただけだ。
正直、あれだけ、あの男にものを言うお前が羨ましいよ」
ガレオンさんはそう言って歩き出した。そして、僕に言った。
「俺も、持ち場にいく。お前は何て名前だ」
「アルス」
「アルスか?アルス、俺の今言った事は忘れてくれ。今は対等な冒険者だ。冒険者としてはお前より俺が強い。それだけは覚えておいてくれ」
ガレオンさんは言い残して、持ち場に向かった。取り残された僕も、ゆっくりと持ち場となった街道を目指した。
僕は見張りをアルドに交代した。アルドはリーダーとして、巡回警備に変更すると言っていた。あくまでも、トーリさんの指示を忠実に守るという。僕は仮眠に向かった。しかし、その先のテントでは女性陣三人が寝ていた。
僕は焚火の側で毛布にくるまり仮眠をとり、そして、待った。
どれくらい眠ったのか、アルドに起こされた。アルドは言った。
「休めたか?魔力の回復はどうだ?」
寝たりない気がしているが、頭を振りながら無理して毛布を剥いで体を起こした。
「ああ、大丈夫だ。しばらくすれば、頭も体もいつもと同じように動くようになる。でも、アルドこそ、大丈夫か?」
と、僕が問いかけると、アルドは答えた。
「まあ、きついけど。頑張るよ」
「三人は見張りに行った?」
僕が尋ねると、アルドが答えた。
「あー、行った」
そして、続けた。
「今、馬車の周りに嫌な感じが近づいている気がする。襲撃はあるな。盗賊は見張りの順番が分かっているような気がする。やはり、誰かが手引きしているな」
僕は言った。
「じゃ、戦闘は避けられないのか、やだな。でも、被害を少なくするために、トーリさんと事前に打ち合わせていた場所に待機するか?」
「おう、そうするか」
アルドの返事で僕らは、夜の闇に紛れるように動き出した。
突然、ファイアボールが街道に放たれた。そして、声が響いた。
「敵だ。盗賊だ」
その異変に、慌ただしく見張りの冒険者が街道側に集まり、素早くトーリさんが指示を出した。
「前衛は前に出て待機。後衛は魔法と弓の準備をしろ。おい、残った者は寝ている者を、戦わなければ死ぬことになるとおどかしてでも起こせ。早くしろ。敵は待ってはくれない」
トーリさんの言葉に、慌ただしく隊列が組まれ、バタバタと騒ぎが大きくなった。そして、街道の先に、馬上の首領の影が見えた。
盗賊はトーリさんたちが守っている反対の川側から忍び寄って来た。
僕とアルドは月の薄明かりの中で確認し、さらに、アルドの索敵を使うと、五、六人だということが分かった。少なすぎる。まだ、背後に控えているのかもしれない。戦うかどうか、迷っていると、いきなり、影が近づき、剣撃の音が鳴り、戦闘が始まった。
動き出そうとした瞬間、その剣撃の音の中心にファイアボールが飛んで行った。
ドーン、と夜気を震わせる爆音が響いた。
炎が揺らぎ、その向こうで誰かが苦しげな声を上げる。
そして次の瞬間――。
「はははっ、たかが剣士が俺に歯向かうなど最初から無理だったのですよ、ガレオンさん」
「……やはり、お前だったか、レオン」
苦しそうな声だった。あの落ち着いたガレオンさんが膝をついている。
「レオン?貴方に気安く呼んでもらう名前はレオンですが、本当は違うのですよ。死にゆく人には、余計なことだと思いますが、本当は、レオナール・ド・ヴァルロア、父はマギビスタの騎士だったんですよ。ちょっとした話を小耳にはさんで、俺の父が死ぬ気でドラゴンの巣から取ってきたお宝を取り戻すことにしたんですよ。当然の権利ですよね。
おい、お前ら、早く行って、お宝を取って来い」
ドラゴンの巣、マギビスタ、お宝——ギルド長の話が僕の頭の中で繋がった。この男の父は、あの日、洞窟の奥で宝を漁った「不届き者」の一人だ。レインさんを死なせた、あの。
腰の剣が、小さく震えた気がした。
怒りなのか。
悲しみなのか。
それとも、レインさんの想いなのか。
レオンの指示に賊が動き出した。その影の前に、僕とアルドが立った。アルドが言った。
「最初のファイアボール、あれはお前が放ったんだな。皆を街道側に釣るための陽動か。……お前らのやりたいようにはさせない」
盗賊は本性をむき出しにして、笑いながら言った。
「おい、大人を舐め過ぎだ。子供は寝ている方が可愛いぜ。その時は、その目で二度と朝日を見ることはないだろうがな」




