『灰』警察官の初陣
18時、クラブの開店前の繁華街。灰土姉弟がNo.1を務める店が見える距離にそれぞれ黒塗りの車が駐車されていた。
姉、ハイネの居るクラブオリーブが見える位置の車の中。そばかすの女運転手、鉄黒 美影はクラブオリーブを見ながら問う。
「黒神さん、根岸に『把握』させなくて良かったんですか?見張りはハイネの出勤を確認したみたいですけど、察して逃げられる可能性も……」
緋雫は店には目もくれず、繁華街を歩く一般人を眺めながら薄く笑みを浮かべ答える。
「それは問題ありません。店から逃げたとしても弟のハイドを見捨てるような女性ではありませんから。灰川班と挟み撃ちにすれば良いだけの事です」
これから命のやり取りをするとは思えない程落ち着き払っていた。
「……さて、そろそろ始めましょうか♡灰川班に連絡を♡」
「はい」
美影が灰川班へと連絡したのを確認すると、緋雫は車を降りる。緋色の軍帽とジャケットが繁華街で目立っていた。
「!!あれは……!!」
クラブの前に居た二人の黒服が緋雫に気付き、片割れが連絡を取ろうとスマホを手にする。
「……!?」
圏外……。緋雫によって通信が『切断』されていた。
「クソッ!お前は――」
黒服がスマホから顔を上げた時、もう一人の黒服は既に頭と胴体が離れていた。
ビチャッビチャッ……。
空気の抜けたバスケットボールみたく頭が地面に転がる。
能力を持たない者が能力者に勝てるわけが――
もう一人の黒服も同じ運命を辿った。繁華街の周りに居た一般人は慌て、叫び、逃げ惑う。今宵が初陣、緋雫を警察だと認識していなかった。
「まぁ多少混乱しながら逃げて貰えた方が巻き込む心配は無いですからね♡」
転がる黒服の頭を思い切り蹴り上げると店の扉が吹き飛ぶ。従業員のキャバ嬢が壁ごと潰れる。
「……やっぱり来たわね、黒神ィ……ッ!!お前達、行ってッ!!あのクソ女を始末しなッ!!」
ハイネは直ぐに何が起きたか理解した。事前に用意していた能力者を緋雫へと向かわせる。同時襲撃という事も、緋雫を殺さない限り弟の元へと向かえないという事も、分かっているからこそ、覚悟を決め自身も後に続く。
「よし。行くぞ」
灰川班の乗る車から灰川と伽羅が出てくる。緋雫とは対照的に駆けて一気に店へと走り出す。
「――!!止まれ!!」
ハイネの店とは違いハイドは能力者を店先に配置していた。黒服が手を翳そうとする――
が、動かない。
「なっ……んだ……ッ……!?」
「ごめーん☆動けないっしょ☆」
伽羅が舌ペロしてみせる。
「じゃ、さようなら」
背後に露草が転移していた。同じく日本刀を転移させると掴み、一瞬の抜刀で黒服は絶命する。アスファルトの地面が赤く染まる。
車内の根岸は目を背けたくなる光景にも、なんとか凝視し続けていた。無線で情報を逐一伝達する為には我慢するしかない。
『て、店内の奥にハイドが走って向かっています……!恐らく気付かれて――』
「じゃあ急ぐよ」
転移する前に触れていた、根岸が残る車の前に駐車していた車。店に向かい小刻みに転移させると勢いがブーストする。
「ドン」
車は扉を突き破り、店内を滅茶苦茶に壊しながらキッチンへ衝突すると爆発した。
「……チッ」
ハイドはハイネに電話をかけるも繋がらない。
「……姉貴のところにも来てやがるのか」
続いて、白骨死体をプレゼントしている相手へ電話をかける――
『この番号は、現在使われて――』
「!?アイツ、この俺を見限――ッ!?」
ハイドは防音の部屋へ逃げていたが、扉が突如灰になり、崩れ落ちる灰の向こうに人影を三つ視認した。顔を全て隠すマスクをした灰川と露草、口元だけのマスク姿の伽羅が既に戦闘態勢に入っていた。
防音の部屋は根岸の能力でも開いた一瞬しか把握出来なかった為、警戒故の間だった。
『その部屋にはハイド一人……です!!』
灰が落ち切りハイドを視認すると伽羅が睨み付け停止させる!!
「!!」
灰川が低い姿勢で加速しながら間合いを詰める。近距離戦が危険だとしても詰めた方が勝ち筋が有ると判断していた。
露草は指の間の其々に手裏剣を転移、思いきり投げつける!八つの手裏剣が動けないハイドへと迫っていく。
「ウォォォオオオオオオオアアアアア!!!」
ハイドが叫ぶとあまりの大声に空間が軋む。伽羅は辛うじて睨み続け停止はさせているが、手裏剣の軌道がブレる。
動けない筈のハイドは手裏剣が当たる直前に屈み回避する。
「ちょ!?うっそーーー!?」
伽羅の能力に気付いたハイドは思い切り床を踏み抜き、飛び散る床や煙で伽羅の視界から消える。
「ハイド、ロスト!!アイツ今動けるよ!!」
構わず灰川は突進し回り込みながら遠心力をかけた蹴りを後頭部目掛けて放つ!!
渾身の蹴りは空を蹴った。しゃがみ躱していたハイドが灰川を見て歪んだ笑みを浮かべる。
「そうか、お前も『灰』か……俺様が此処で消してやる……ッ!!」
脚の強靭なバネを使い、一気に灰川目掛け跳躍!!右手で灰川のマスクを鷲掴み、人間離れした握力でマスクがヒビ割れていく。
「ハッハッハ!!もう終わりだ!!『灰』は俺達姉弟だけで充分なんだよォォォォ!!」
更に力を入れ、灰川の顔面を直接触れて火葬しようと思ったその時、高笑いしていたハイドの咥内に、安全ピンの抜かれている手榴弾が転移されていた。
「これでおしまい、班長は自力でなんとかして」
「な、オマ――!!」
「ふがふが――!!」
ドォォォォォオオオオオオン!!
繁華街全体を揺らす衝撃。
轟音と共に店を爆風が駆け抜ける。瓦礫が吹き飛び、根岸のいる車にまで煙が勢いよく流れてくる。
部屋は手榴弾程度ではびくともせず、白煙に包まれていた。
「……ゼェ……ゼェ……」
(クソがァァァ……!!)
ハイドは仰向けに大の字で横たわっていた。歯は全て吹き飛び血塗れになってはいたものの、命に別状は無い。
(だが……未だ逃げ――)
目の前の煙が一瞬吹き飛ぶと、眼前に拳が迫っていた。
「終わりだ、ハイド」
「待――」
灰川の拳はハイドの頭蓋を粉々に砕き、手榴弾でも壊せない部屋の床をも割り砕いた。
根岸との連携で的確にハイドを殺し、灰川班の初任務は成功に終わった。
設定
鉄黒 美影
鉄黒色のボブ、常に真顔、黒目が点、そばかす。緋色の軍帽とジャケットは着ていなく、鉄黒色のパンツのスーツと革靴と革手袋に白シャツ、ネクタイはしておらずボタンを開けている。緋雫の運転手。
ハイド
本名は灰土 理音。『火葬』は一般人相手には強いが能力者相手だと弱い部類。




