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パズルゲームで成り上がる令嬢は、今日も連鎖を決める〜元廃人ランカーが王太子の相棒になるまで〜  作者: 夜野羊


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第3話 朝と特訓と知らない影

朝は、相変わらず苦手だった。


目を覚ました瞬間まず思う。起きたくない、と。体はベッドに沈み込んで動かないし、頭はイルカのようにまだ半分が寝ている。開かない瞼が朝日を透過して目を閉じているのに眩しい。


原因はだいたい分かっている。


昨夜、布団に入ってからも、気づけば盤面の組み方を考えていた。マギフェス。城下町武闘祭。ランキングイベント。あれこれ想定し始めると止まらなくなり、結局寝るのが遅くなる。


転生してもなお、夜ふかし癖は治らなかった。


「……朝、ほんとにダメだなぁ」


小さく呟いて、ようやく体を起こす。窓から差し込む光が、まだ少し白い。朝の空気は冷たくて澄んでいるのに、頭の中だけがぼんやりしている。


(コーヒー……飲みたい)


切実だった。


前の世界では、朝の思考回路を立ち上げるための必需品。あれが一杯あるだけで、世界はもう少しまともに動いてくれた。この世界にも似た飲み物はあるだろうか。


(あったとしても、高そう)


平民スタートには、だいぶ贅沢だ。


そんなことを考えていると、扉が元気よく叩かれた。


「アイリス、起きろ〜!」


声だけで分かる。ダリオスだ。

渋々扉を開けると、案の定、朝から元気そうな顔があった。陽の光を背負ったみたいな笑顔。こちらはまだ起動前なので、大変まぶしい。


「……おはよ」


「声、死んでるぞ」


「朝だから」


言い切ると、ダリオスは呆れたように笑った。


「相変わらずだな。空き地、行こうぜ。軽くな」


その「軽く」が信用できないのも、相変わらずだった。


城下町の外れにある空き地は、魔法の練習や非公式の対戦によく使われる場所だ。周囲は開けていて、多少派手に魔素を動かしても問題にならない。地面は踏み固められていて、ところどころ焦げ跡が残っている。誰かが何度も魔法を試した痕跡だ。


この世界の魔法は大きく二つに分かれる。灯りなどの生活魔法と、魔物などを倒すための戦闘魔法だ。

特に戦闘魔法--つまりこのパズルで戦う魔法体系を《マギア・リンクス》と呼ぶ。その名前がゲーム名になっているというわけだ。

生活魔法はあまり使われておらず、灯りなども魔法道具を使うのが主になる。そのため、《魔法》と言えば一般的にパズル魔法マギア・リンクスを指す事が多い。


ダリオスが練習場の踏み慣らされた草地に立った瞬間、空気がわずかに変わった。


彼の周囲に魔素が集まる。

色ははっきりしている。黄と赤。

熱を思わせる色だ。勢いがあり、迷いのない配色。


(やっぱり、火力型)


魔素の色は、その人の戦い方をよく表す。安定や制御を重視する者は青や緑が多く、支援や調整に向く。黄や赤は、前に出て殴るタイプだ。


そして不思議なことに、その色はダリオスによく似合っていた。彼がその色をまとっていると、無理がない。まるで最初からそこにあるものみたいに、自然だ。


「いくぞ!」


ダリオスが先に仕掛ける。


魔素が一気に動き、盤面が荒々しく揺れた。速い。判断も早い。迷いがない。


だが――粗い。


(当たれば強い。でも……)


瞬発力は彼の長所だが、だからこそ攻撃を急いでしまうところが彼にはあった。

この爆発力を溜めることができれば、きっともっと……。


私は、あえて派手な連鎖を狙わなかった。

彼の攻撃を軽くいなしてから、流れのまま盤面の端を整える。

小さな連鎖を重ねる。


一段。


二段。


「え、それだけ?」


ダリオスが眉をひそめる。


「うん、それだけ」


小さな連鎖が、じわりと相手の盤面に影響を与える。黄と赤の魔素が集まり、条件が少しずつ揃っていく。

私はさらに、攻撃を入れているように見せながらダリオスの盤面から不要なつながりを消していく。


「……あ」


ダリオスの目が、はっきりと理解を帯びた。


「ここだ!」


ダリオスの手が素早く魔素を操る。魔素が大きな力の塊となって集まってくる。

解放される魔法。一気に膨れ上がる熱量。さっきまでとは比べものにならない威力が、熱の奔流となって前方へと走った。


(よし)


これが、彼の強さだ。条件が噛み合った瞬間の爆発力。


「すげぇ……」


ダリオスは連鎖が走った跡を見ながら、ぽかんと口を開けている。

自分の放った魔法を見て、本人が一番驚いている。


「すごかったね。これがいつも出せたら、強いよ」


「やってやる!」


何度か繰り返すうちに、ダリオスの動きは確実に変わっていった。闇雲に消さなくなり、盤面を見る時間が増えている。

ただ勝つだけなら、盤面を壊すのは簡単だ。けれど、それでは相手は伸びない。ダリオスが最も力を発揮できる形だけを残すように私は動いた。教えるというより、彼に合わせて「場を整える」感覚に近い。そして、彼もしっかりそれに応えている。


整えることに集中して、一瞬、手が遅れた。

その隙を突いて、黄と赤の魔素が大きく噛み合い、攻撃が飛んでくる。


「そこだ!」


素早く魔素を組んで受け止めながら、内心で頷く。やっぱりダリオスは前に出たときが一番いい。


「はぁ……はぁ……」


ダリオスは肩で息をしながら、それでも楽しそうに笑っていた。


「なあ、アイリス」


「なに?」


「お前、急に強くなってないか」


さすが幼馴染。鋭い。


「そう見える?」


「見える。前と、全然違う」


私は肩をすくめる。


「最近、考え方を変えたからかな」


「ふーん……」


完全に納得しているわけではない。でも、それ以上はダリオスは踏み込んでこなかった。

もうひと試合だ、というダリオスに従い、私はまた空中に指先を差し向けた。




少し離れた木陰では、二人の様子をじっと見ている男がいた。視線だけを向け、腕を組み静かに木にもたれ立っている。紫の長い髪。上等な仕立ての服をゆるく着こなしている。


黄と赤の魔素が弾けるたび、男は楽しそうに目を細めていた。


派手な火力。見栄えのする攻撃だが、それを成立させているのは相手の方だ。

視線は自然と、アイリスへ向く。男は、口元だけで笑った。


「ふーん、面白いねェ」


マギフェスまで、あと数日。

練習場には数日後の出会いの予感だけが、魔素のように漂っていた。

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