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パズルゲームで成り上がる令嬢は、今日も連鎖を決める〜元廃人ランカーが王太子の相棒になるまで〜  作者: 夜野羊


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第29話 夏休みとワンピースと約束の日

夏休み二日目。私は学園正門に続く石畳を歩いていた。日差しはすっかり夏の気配だが、まだ午前中のため風は涼しく過ごしやすい。前世の日本の度を超えた猛暑に比べると、この世界の夏はだいぶ人間に優しい設定のようだ。


時刻は10時少し前。いや、だいぶ前。

早めに寮を出たつもりだったが、正門の向こうにはすでにそれらしい馬車が停まっている。私は道の端を歩きながら、前髪を少し直した。同時に水色のワンピースの裾を目だけでチェックする。今日はミニスカートではないし、変なところはないはずだ。


馬車に近づくと、御者が馬車の扉を開けた。

中から見間違いようもない金色の髪の青年が降りてくる。ロイアスだ。今日はシンプルな白いシャツにベージュのパンツというラフな格好をしている。いわゆるお忍びファッションというやつだろうか。しかし、全くオーラが隠せていないので、意味があるのかは甚だ疑問である。


ロイアスは私を見ると、おはようと言って柔らかく微笑んだ。


「今日の服装も、よく似合っているな」


そしてそのまま流れるようにエスコートの手を差し出した。


「今日はよろしく頼む」


スムーズすぎるエスコートも、金の髪も、ラフな白いシャツも、王太子の顔をしていない柔らかい笑顔も、全部が夏の日差しみたいに眩しくて私は目を細めた。まばゆさに頭がクラクラとして、意識が遠のいていく。この手が自分に差し出されていることが、咄嗟に飲み込めないほど現実味のない光景だった。


この日のためにフィオラに服を選んでもらい、昨日の夜はなかなか寝付けず、だというのに朝はやたら早く目が覚めてしまった。

ちゃんと今日この時のために用意して、支度をしてきたのに、まだ夢の中みたいに足元がふわふわしている。


挨拶を喉から絞り出しエスコートの手をどうにか取りながら、私はどうしてこんな事になったのかを思い返していたーー



ーーー



「テストお疲れ様〜!」


「終わった〜!」


私とフィオラは食堂で向かい合って座りながら、水の入ったグラスで乾杯した。今日はAランチだ。金欠なのでデザートは我慢する。


「教養も平均点以上取れたし、これで心置きなく夏休みに入れる」


「私も魔法が良い点取れてうれしい。アイリスのおかげよ」


「フィオラが頑張ったからだよ〜」


私達はまた水で乾杯した。グラスの氷が涼しげな音を立てる。


「明日からフィオラは家に戻るんだったよね」


「家と言っても王都のタウンハウスだけどね。父に付いて家業の手伝いをするつもり」


学園の夏休みは約二ヶ月と長い。生徒達はほとんどが実家へと帰省する。貴族子息の生徒達は領地へ戻ったり王都のタウンハウスで過ごしたりと様々だ。フィオラのように家業を手伝ったり、社交を行ったりなど夏休みといえども忙しいらしい。私はといえば、戻る家もないのでいつも通りの暇な寮暮らしである。


「アイリスが良かったらなんだけど、夏休み中に私の家に泊まりに来ない?」


「えっ!いいの?」


「もちろん!ぜひ来て」


女子会なんていつぶりだろうか。二人でわいわいと計画を立てていると、フィオラがふと私の後方へ視線を移した。振り向くと食堂入り口にロイアスが立っている。ロイアスは周囲をぐるりと見回し私の姿を認めると、そのまま歩き寄ってきた。


「殿下、こんにちは」


「ああ、邪魔をする」


「何かありました?」


ロイアスは立ったままだ。今日はランチも持っていない。


「テスト結果を聞きにきた」


「えっわざわざそのために?」


「約束だろう」


律儀すぎる。

とはいえ、私もケーキのことはもちろんしっかり覚えていた。こちらから催促にも行きづらかったので、ロイアスの律儀さが正直ありがたい。今日はデザートを諦めていたのでちょうど良かった。確か今日の学食のケーキはチョコレートケーキとチーズケーキだったはずだ。どちらかと言えば今はチョコの気分である。

私はピースサインをしながら言った。


「ばっちり、平均点クリアです!」


「そうか、何よりだ。明後日は空いているか?」


「え?空いてますけど……」


急な話題変更について行けず、ポカンとする私をよそにロイアスは何らかの事務手続きのように続けた。


「では明後日10時に、学園の正門で。迎えに行く」


「へ?」


ロイアスはそれだけ言うと、用は済んだとばかりに去っていった。

後には状況が飲み込めない私が残されている。


「え?」


向かいのフィオラが口元を手で押さえながら、ロイアスが去って行った方角と呆気にとられる私を交互に見ている。頬がやや赤くなっている。


「え……アイリス、今の何?」


「何って……えっと……?」


多分、ケーキの約束の事だと思うのだが、いきなりすぎてちょっと自信がない。


「えっもしかしてデート……!?デートなの?」


フィオラが口を押さえたまま、あくまで小声で言う。なぜかフィオラが慌てている。私も大きくなりそうな声を抑えて、手をブンブンと振りながら慌てて否定した。


「ち、ちがう違う、デートじゃない!ケーキを奢ってもらうだけ!た、多分」


「それはデートじゃない!?」


「待って、いや、デートなの!?」


「デートよ!」


小声で大騒ぎする私たちを通り過ぎる生徒たちがチラチラと見ている。内容までは聞こえていないと思いたい。私は努めて声を抑えて言った。


「だってそんな……ケーキって、学食のケーキだと思って……」


どうも、ケーキについて私とロイアスで行き違いがあったらしい。どこに連れて行かれるのか全く説明がなかったため分からないが、正門から馬車で出て学食に戻ってくるはずがない事だけは確実だ。王太子が行くケーキ屋がどんなものかは想像を絶するが、少なくともその辺の小さなケーキ屋ではなさそうだ。高級店ならばドレスコードとかあるんじゃないのか。と、そこまで考えて、私は重大な事に気がついた。


「フィオラ……どうしよう」


「ど、どうしたのアイリス」


私があまりに悲壮な顔をしていたのか、フィオラまで若干青ざめている。


「着ていく服がない……」


私のその言葉を聞いた瞬間、フィオラの目が見開かれ、キラリと光った。手がぎゅっと握りこぶしになる。


「そういう事なら、私に任せて!!」


「フィオラ……!!」


持つべきものは商家の友である。そうなってからのフィオラの行動は凄まじく速かった。普段はほんわかおっとりとしているのに、この速度はどこから出てくるのか。学園の取次からメルナ家の営むブティックに連絡を飛ばし、ものの一時間後には寮の部屋へ大量の洋服が届けられた。


頼もしすぎる友人によって、私達のファッションショーはその日の夜遅くまで続いた。

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