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パズルゲームで成り上がる令嬢は、今日も連鎖を決める〜元廃人ランカーが王太子の相棒になるまで〜  作者: 夜野羊


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第30話 デートと視察と王都の街並み

乗り込んだ馬車は、シンプルな外装からは想像もつかないほど豪華な内装だった。もしかしたら馬車もお忍び仕様なのかもしれない。

金の蔦模様が施された窓の横には重たげなジャガード織りのカーテンが束ねられており、天井には色ガラスが嵌められた魔法灯が上品に光っている。ベロア生地の座席は大変に柔らかく、予想よりかなりお尻が沈んだために一瞬慌てた。


私が座るのを待ってからロイアスが乗り込んでくる。彼が向かいに腰を下ろすと、馬車は滑らかに走り出した。

窓の外には明るい夏の日差しに照らされた街並みが見える。金の額縁に入った絵みたいだ、なんて明後日な感想が風景と一緒に頭をよぎっていく。


視界の端にはロイアスが見える。ロイアスも窓の外を眺めているようだった。

彼とこうして膝を突き合わせるのも、二人きりになるのも、別に初めてではない。対戦テーブル越しならいつも向かい合っているし、ガーゴイル事件の時に夜の森で二人きりで過ごしたこともある。だというのに、今日は少し馬車の酸素が薄いような、なんとも言えない息苦しさがあった。


(何話せばいいんだろ……)


こうして改まって二人きりになってみると、何を話せばいいのかあまり思いつかない。私たちの共通の話題と言えば魔法の戦術くらいのものだが、今その話題を出すのは何となく場違いな気もした。

とはいえ、これでも元は社会人だったのだ。当たり障りない会話くらいは心得ている。まずは挨拶、そして天気だ。私は思い切って口を開いた。


「「今日は……」」


ハモってしまった。一瞬の沈黙が落ちた後、ロイアスが小さく笑って言った。


「今日は、付き合ってもらい感謝する」


「えっ!?いや、お礼を言うのはこちらの方で……」


「これ自体が礼なのだから、礼に礼ではおかしくないか?」


「あれ、でもケーキはご褒美でしたよね?」


「まあ、褒賞代わりだから、褒美には違いない」


言っているうちに、だんだん混乱してきた。よく考えると、私は勉強を見てもらった上に、なぜかケーキまでごちそうになる事になっているのではないか?


「なんか私、色々としてもらいすぎですよね……?」


「そんな事はないと思うが」


「でも勉強も見ていただきましたし」


褒賞代わりだというケーキはまだいいとして、勉強を見てもらったお礼は必要なのではないか?王太子のマンツーマン指導だなんて、よく考えたら破格の価値がありそうだ。頭を抱えていると、ロイアスが息だけで笑った気配がした。


「……今、笑いました?」


「笑ってはいない」


「笑ってましたよ」


「いや、律儀だと思っただけだ」


そう言いながらロイアスは今度こそ笑った。別に私は律儀ではないし、律儀と言うならこんな場を用意している彼の方がよっぽどそうだと思う。

納得できない顔をしていたのが伝わったのか、ロイアスが仕切り直すように言った。


「そうだな、ちょうど街の視察もしたいと思っていた。君さえ良ければそれに付き合ってくれ」


「視察、ですか?」


「ああ、公務に付き合わせて悪いが、良い機会だからな」


結局、どうもかなり気を使わせてしまった気がするが、視察と言われてだいぶ気持ちが軽くなったのも事実だった。この手のやり取りは慣れているのか、相手に気を遣わせないやり方が上手い。


「もちろんです!どこへなりともお供します!」


「その言い方はやめろ」


ロイアスは少し眉を下げて歯を見せて笑った。ラフな服装も相まって、なんだかごく普通の青年のようだ。


「では今日は一日、付き合ってもらうとしよう」


馬車はしばらく走った後、路肩に停車した。

王城のほど近く、貴族のタウンハウスも多い一等地だ。つい先日まで平民暮らしだった私にはあまり馴染みがない区画だった。

通りには瀟洒な石造りの建物が並び、ガラス張りのショーウインドウや店舗らしき看板も多い。街灯が行儀よく立ち並び、あちこちに花壇などもある。商業区画のようだが、私の住んでいた城下町の商店街と比べると呼び込みの声も串焼きの煙もない、上品な街並みだった。


「少し歩こう」


そう言って歩き出したロイアスについて行く。

まだ午前中のためか人通りはそこまで多くない。豪華な馬車や日傘を差した令嬢たちがゆったりと行き交っている。


ロイアスは歩きながら通りにある店を見て回っている。視察というのが何をするものか具体的には分からないが、街の雰囲気などを見て回るのも公務のうちなのだろうか。

ロイアスは通りを見回りながら、通り過ぎる店それぞれについて簡単に説明をしてくれた。


「ここはオーヴェル伯爵家の織物店だ。南側の隣国とのつながりが強く、取り扱う品も南側諸国のものが多い」


「この店とさっき通り過ぎた青い看板の店は、どちらもルイスタン侯爵家の家門だ。領地の特産品を加工した品を扱っている」


「ラロッシュ家の領地は海沿いにあり、大きな港町を擁している。貿易が盛んで、珍しい異国の品を置いている」


ロイアスの話す内容には、期末テストの教養科目で覚えた貴族家の名も多く出てきて興味深い。


「ラロッシュ家って、港町から王都までの街道を作ったっていう?」


「そうだ。貿易品を王都へ卸しにくるためには、整備された街道が必要だからな」


「なるほど、そういう……」


本の上だけで覚えた事について実際に店を見ながら説明されると、知識が立体になっていくような実感があった。私は解説を聞きながら、ショーウインドウに飾られた異国情緒あふれる品々を眺めた。


(……課外授業?)


視察も兼ねてはいるのだろうが、私の勉強にもなるように場所を選んでくれたのだろうか。

私が質問を挟むと、実に分かりやすく答えてもくれる。


(やっぱり律儀なのは、ロイアスの方だ)


趣向の凝らされた店々を眺めながら、話を聞いたり質問したりしているうち、馬車の中で感じた息苦しさはすっかり消えていた。

まだそこまで暑くない午前中の日差しを浴びて、綺麗な通りをゆったり歩くのは気持ちが良い。心なしかロイアスもリラックスした顔をしている気がする。


私たちはそうしてしばらく、石畳の道を並んで歩いた。

投稿時間少し遅れてしまいました。すみません。

活動報告にあるように、土日祝はお休みになります。

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