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パズルゲームで成り上がる令嬢は、今日も連鎖を決める〜元廃人ランカーが王太子の相棒になるまで〜  作者: 夜野羊


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第22話 決勝と読み合いと撹乱の貴公子

学園祭マギアボード大会、決勝が始まった。


マギアボードが始動し、色とりどりの駒がきらめきながらゆっくり動き出す。同時に特殊ルールの禁止駒が表示された。お互いに二つ。


対面のレナルトはいつものいたずらっぽい笑顔を浮かべている。

気負いも、緊張も、少なくとも表には見せていない。けれど、その目だけは最初から盤面の奥を見ていた。


レナルトはこの大会で一番やりにくそうな相手だった。戦術と特殊ルールの相性がいいからだ。だからこそ、必然的にこの決勝の場にいるとも言えた。


ステージの大型投影装置の横ではエドガーとレンフィールド先生、セリオンが解説を始めている。


「決勝はじまりました!魔法戦術部二年生レナルト・オルフェくんと、同じく一年生アイリス・ルミナさんです」

「貴族界の実力者とマギフェス優勝者。決勝に相応しい好カードだね」

「そうですね。撹乱戦術を得意とするレナルトと今回の特殊ルールが噛み合うと、相手は非常にやりにくいでしょう」

「撹乱と特殊ルールで盤面が余計に乱れますからね」

「それでセリオンも負けたと」

「……そうです」


やや不本意そうな間を挟んでから、セリオンが続ける。


「誤解されがちですが、彼はただ相手の盤面を崩すだけではありません。乱した後に、自分に有利な形へ持っていくのが上手いんです」

「なるほど。撹乱戦法を取りつつも意外と堅実だと」

「意外と、ではなく、かなりです。通常ルールでも十二分に強い。その上、特殊ルールになると厄介さが増します」

「つまり、今大会のルールはレナルトくんの戦法には有利というわけですね〜」

「そうなります」


セリオンは通常ルールであればレナルトに勝ち越している。勝つ人を固定させない、実力を引っ掻き回すのが目的の特殊ルールとすれば成功したとも言える。しかし、撹乱戦法に有利に働きすぎたのであればやや偏りが出たとも考えられる。


(特殊ルールの設定って、案外難しいんだなぁ……)


解説をうっすら聞きながらも、たしかに盤面は撹乱と禁止駒の入れ替わりで大混乱だ。盤面を掴みかけたところで、一定時間ごとに盤面の前提ごと読み直す感じに近い。


(やっぱり、レナルトが一番やりにくい)


予想通りだった。

だが、“やりにくい”が“やりたくない”わけではない。ゲーマー時代から限定ルールや特殊な縛りがある方が燃えるタイプだ。面倒な条件が増えるほど、逆に思考は冴える。知らず、口元が笑みの形を作っていた。


「おや、アイリスくん笑ってますね」

「はは、余裕か?さすが《星連の紡ぎ手》だな」

「先生、なんですか?それは」

「アイリス・ルミナがマギフェス優勝で王太子から賜った二つ名だよ」

「二つ名!かっこいい〜」


すっかり忘れていた二つ名などを持ち出され、顔に熱が集まる。ロイアスめ……いや、ロイアスは何も悪くないんだけれども。


「レナルトくんはさしずめ《撹乱の貴公子》でしょうか!?」

「はは!いいね」

「ちょっとォ!さっきから外野で好き勝手言わないでくれる!?」


思わず解説に大声で突っ込んだレナルトに会場から笑いが起きる。

その笑い声さえ、盤面の上では少し遠い。


「ったく、集中できないよねェ」


笑ってそう言いながらも、レナルトの視線は盤面を真剣に捉えている。


「あはは、ほんとに」


解説に笑いながら、レナルトに返事をしながら、それでも私は自分の意識が徐々に盤面に沈み込んで行くのを感じていた。レナルトも、集中していく気配がある。

賑やかだった会場の音が少しずつ遠のき、盤面の中だけが鮮明になっていく。


私の盤面と、レナルトの盤面がそれぞれ整いつつある。撹乱の手がのびてくる。おそらく、次の禁止駒の切り替えに合わせてくる。


禁止駒が切り替わる。私は二つ、レナルトは一つ。

レナルトは撹乱の駒がオープンになった。きっと、仕掛けてくる。


こちらも無策で盤面を組み上げていたわけではない。ついさっきまで無意味だった角が、禁止が明けて攻撃連鎖の足がかりになっている。さらに広げて、大きな連鎖へと組んでいく。


レナルトから撹乱攻撃が差し込まれる。


盤面がわずかに歪んだ。

一見すれば些細な揺れだが、連鎖の中腹に触れる嫌な崩し方だ。こちらの攻撃を完全に止めるほどではない。けれど、放っておけば次の切り替えで歪みが増幅する。


(やっぱり上手い)


嫌がらせのように見えて、手つきはかなり正確だ。ただ形を乱すだけではなく、次に禁止駒が変わった時にこちらの盤面が鈍る位置へ触ってくる。ただ引っ掻き回すだけではない。触られたら嫌なところをきちんと分かっている。


私はすぐに盤面を組み替える。

右を崩されるなら左を残す。連鎖の芯をひとつずらし、撹乱の影響を浅いところへ流す。深追いしてはいけない。ここで形を守りに行きすぎると、今度は特殊ルールの切り替わりに置いていかれる。


(大丈夫、読めてる)


いつもより、もっと深く、広く、先まで。

特殊ルールならば、その可能性ごと読め。


レナルトが何を壊したいか。

その一手で何を殺し、何を残すつもりか。

さらにその後、禁止駒が変わった時にどの形が生き返るか。そこまで見えていれば、崩された盤面もまだ読みの内側だ。


いくつもの撹乱を潰し、合間を縫って攻撃を走らせる。

光の奔流が相手に向かって流れていく。


レナルトもすぐに盤面を立て直す。やはり速い。

崩した盤面の上に、自分の攻撃の骨組みを乗せるまでが早いのだ。セリオンが言っていた通り、引っ掻き回すだけの戦い方ではない。乱れた盤面の上に、自分だけが見えている道筋を通してくる。


「すごい。両者とも崩れませんね〜」

「むしろ崩し合いながら、きちんと勝ち筋を残している。さすが決勝だね」

「レナルトの撹乱を受けながら、この短時間で立て直しているアイリスも見事です」

「アイリスさん、禁止駒が切り替わった瞬間に次の動きをしていますね」

「そうだね。今のルールで強いのは、固定の戦術を押し通す人間じゃない。変化する先の可能性まで見通しながら、状況に合わせる柔軟性が要る」


解説が遠くで聞こえる。

言われてみればそうなのだろう。今の私は、連鎖を積んでいるというより、数手先ごとに変わる地形の上に仮の橋を架け続けている感じだった。


(まだまだ)


禁止駒がまた、切り替わった。

大きな連鎖をせき止めていた駒がオープンになる。


そこで盤面の景色が変わった。


ついさっきまで撹乱で散らされたはずの駒が、今度は連鎖の継ぎ目として噛み合っていく。レナルトが崩した形と、特殊ルールの切り替わりが、こちらの盤面の中で別の意味を持ち始める。

死に筋だった列が、生きた。不要だった角が、攻撃の足がかりになる。


レナルトの目がわずかに見開かれた。

たぶん、向こうも気づいたのだ。

さっきまでこちらに不利だった乱れが、ここで逆向きに働く。


レナルトはすぐに次の撹乱を差し込んでくる。

さすがに甘くはない。最後までこちらの形を削りに来る。だが、もう遅い。連鎖の芯までは届かない。私の方が、一手速い。


(ここだ―――!)


私は最後の駒を滑らせた。


光の塊が獰猛に煌めきながら相手の陣へ走って行く。

一段、二段、三段。絡み合った光が噛み合いながら増幅し、せき止められていた分まで一気に噴き上がる。

攻撃が相手の喉笛を噛み砕く。


レナルトの陣はそこで耐えきれず崩れた。

駒がゆっくりと減速し、盤面が停止する。


急に、音が世界に戻ってくる。


「決まったぁ〜!優勝はアイリス・ルミナ!」


解説のエドガーの快哉と、客席の歓声が音の戻ってきた世界に大きく響いた。さっきまで遠かった会場が、いきなりすぐ近くにある。


対面のレナルトが立ち上がり、手を差し出している。

負けた顔ではなく、どこか面白がるような笑みだった。


「このルールなら勝てると思ったんだけどなァ」

「ギリギリだったよ。楽しかった」

「僕も。いやァ、ほんと厄介だね、君」


レナルトの手を取る。

握手した瞬間に歓声がひときわ大きく上がった。勝敗そのものだけではなく、決勝戦として盛り上がったらしい。学園祭らしい賑やかさが、そこでようやく戻ってきた。


「学園祭マギアボード大会、優勝アイリス・ルミナさん!」


エドガーからうやうやしくトロフィーが贈呈される。魔素を模した色とりどりのクリスタルが絡み合ったデザインで、とてもきれいだ。

トロフィーに見とれている私をよそに、エドガーが続けた。


「優勝者のアイリスさんと王族歴代最強と名高い王太子殿下のエキシビジョンマッチがこの後行われます!お見逃しなく!」


客席からどよめきが起こる。

そうだった、この後はエキシビジョンマッチなのだった。優勝できてよかったと言うべきか。準優勝者ではなんとなく決まらない。


「まだやるの?ほんと魔法狂いだねェ」


レナルトがちょっと呆れたように言った。

好き好んでこのスケジュールなわけではないが、いつもと違うレナルトとの勝負は正直とても楽しかった。


そして、この後の対戦も、だいぶ楽しみになってしまっている自分がいた。

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