第21話 大会と特殊ルールと最後の相手
学園祭三日目。
お祭りは盛り上がりながらもつつがなく進行していた。
最終日の今日はことさら賑やかで、生徒たちの呼び込みや、家族連れの子供達のはしゃぎ声が学園中に響いている。
校内を巡る途中で、ゲームでの学園祭イベントにあったミニステージっぽい出し物を見つけた時にはテンションが上がった。なんだかんだで、私もお祭りをかなり楽しんでいた。
しかし、今日だけは少し勝手が違う。
学園祭最終日のイベントとしてマギアボード大会本戦が行われる。昨日まで予選が行われており、私たち魔法戦術部の部員は3日目からのシード出場だ。
賑やかな空気の中にいても、頭のどこかが妙に静かで、昂っていた。
今日は大会に出場するため、クラス当番は免除だ。が、フィオラとの約束通り今日もメイド服である。少しデザインの違うものを用意している辺り、フィオラも抜かりがない。私はといえば、もうすっかり慣れたものである。制服より少し裾に気を遣う、それくらいだ。
「リディア先輩と殿下は?」
「出場辞退らしいぜ」
そもそもあの二人は毎年出てないらしい、とダリオスは口を尖らせた。ダリオスもシード出場選手だ。
「でも殿下とは大会の後にエキシビションマッチだろ?」
「それだよ〜。大会よりよっぽど緊張する」
「でもご指名らしいからなぁ」
マギアボード大会の後には王太子とマギフェス優勝者のエキシビジョンマッチが予定されていた。学園祭ラストの目玉イベントだ。今年だけの特別演目らしい。ゲームにそんなイベントはなかった気もするが、現実となれば色々と違う事もあるだろう。
「普通こういうのって、この大会の優勝者とじゃないの?」
「お前が優勝すればいいだけだろ」
「そういう事じゃないんだよなぁ」
大会会場の大講堂に着くと、ステージ上には予選を突破した本戦参加者と戦術部メンバーが集まっていた。
客席の向かいにあたるステージの壁には大きく盤面が映し出され、その横には何やら調整中らしいレンフィールド先生とエドガーの姿が見える。この大型モニターのような投影装置も、もしかして先生の発明品なのだろうか。
大講堂の階段状の座席には観客が集まり始めている。みんな出店の食べ物や飲み物を持ち込んで、普段の大講堂の重々しい空気とは違った、イベントならではの賑わいと期待の空気が漂っている。観戦というより、催し物を見に来たという顔つきの生徒も多い。学園祭らしいといえば、実にらしい。
「選手の皆さ〜ん!組み合わせ抽選しま〜す」
エドガーがステージ中央で小さな箱を持って選手たちに呼びかけた。
「あれ?エドガー先輩は出場しないんですか?」
「うん、今年は特殊ルールの制御を先生に任せてもらえたんだぁ。だからそっちに専念してる」
にこにこと答える。やや頬を紅潮させて、本当にうれしそうだ。
「先生といっしょに盤面解説もやるよ」
「解説があるんですか」
「特殊ルールありだし、見てるだけじゃ難しいからね」
組み合わせ抽選のくじを引く。シードなので初戦は予選勝ち上がりの選手との対戦だ。
ステージ上にはマギアボードを挟んだ対戦席がいくつか作られている。早速、自分の対戦席へ向かう。
初戦は3年生の男子生徒だった。少し緊張している様子が伺える。軽く会釈して、対面の席に座った。
「本戦の特殊ルールの説明をします」
全員がくじを引き席についたところで、エドガーがマイクのような魔法道具を持って説明を始めた。
「今回は時間ごとに特定の種類の駒がランダムで使用不能になるルールです」
モニターに特殊ルールが映し出される。開始時、一定時間後、更に一定時間後、と使える駒が切り替わっていくルールという事のようだ。例えば、赤と出れば開始から一定時間は赤の駒が使用不能となる。
「さらに、使えなくなる駒の種類は一つとは限らず、一つから最大で三つとなります」
選手たちがざわついた。それもそうだ。例えば終盤で三つも駒が使用不能になったら勝負にかなり響く。
どの駒が使用不能になっても立て直せるように保険をかけながら盤面を組んでいく必要がある。しかも嫌なのは、何が使えなくなるかだけではなく、今まで価値のあった形が数秒後には崩れてしまうかもしれないという事だ。強い盤面を作ればいい、という話ではない。
選手たちの戸惑いをよそに、エドガーはにこにこ顔だ。ちょっと特殊ルール、頑張りすぎだと思う。
「それではマギアボード大会本戦を開始します!」
説明は以上とばかりのエドガーの開始の挨拶で、ステージは観客の拍手に包まれた。
回ってきたレンフィールド先生の手によってマギアボードが始動され、開始時の禁止駒がそれぞれ表示される。私は三つ、相手は一つだ。いきなり不利だが、最初から使えない駒が分かっているなら対策もしやすい。
私は使える駒で連鎖を軽く組み敵陣へ走らせた。
相手も予選突破者だけあってすぐには崩れない。
しばらくの攻防の後、特殊ルールが発動し、新たな禁止駒が表示される。今度は一つ。
使える駒が増えた瞬間に盤面を組み換え、大きな連鎖を作った。
勢いのまま発動する。光の筋が大きく絡み合い、相手へと走った。
連鎖の威力そのものより、切り替わった瞬間に盤面の意味を見直せたのが効いた。さっきまで死に筋だった形が、禁止駒が変わっただけで土台に戻る。逆に、残しておけば使えると思っていた駒が、次の切り替えでただの重石になることもある。落ち着いて考える暇は思ったよりない。手筋を読むというより、変わった瞬間に盤面のイメージを掴む事を意識していた。
「アイリスさん、勝利!」
連鎖が決まった瞬間、モニター前で解説をしていたエドガーが勝利を告げた。
「最後の攻撃は上手かったですね〜。どうでしたか?先生」
「禁止駒が切り替わった瞬間の状況把握が速かった。見事だね」
客席に向かってエドガーとレンフィールド先生の二人が解説する。なんだかむず痒い。
その後の試合も特殊ルールには苦労した。
開始直後に二つ封じられたかと思えば、次で一つ開き、終盤でまた三つ塞がる。盤面の有利不利が、こちらの読み筋とは別のところでぬるりと動く。強い連鎖を組んだつもりが、少し後には形ごと価値を失うこともあった。順当に強い盤面を押しつけるというより、崩される前提で組み替え続けるしかない。なかなか性格の悪いルールである。
それでも、切り替わるたびに見直せばいいだけだ、と割り切ってしまえば案外やりようはあった。盤面そのものは同じでも、何を軸に見るかを変えればいい。扱いづらいルールほど燃えてくるのはゲーマー時代も今も変わらないようだ。
途中で敗退したダリオスは、いつの間にか観客席へ移っており、フィオラと何やら楽しそうに話しながらこちらへ大きく手を振っていた。負けても学園祭を満喫しているあたり、実に彼らしい。
一方で、反対側では準決勝で敗退したセリオンがレンフィールド先生に呼ばれ、いつの間にか解説に加わっていた。先生の大まかな説明の横で、盤面の推移と禁止駒の噛み合い方を簡潔に整理していく声が、妙に聞きやすい。向いているな、と少し思う。
正直、順当とは言い難かったが、この後にエキシビジョンマッチを控える身としては、なんとなくすぐ敗退するわけにいかない気もしていた。
「やっぱり、君が来ると思ってたよン」
ステージ上に一つだけになった対戦席。その向かいにはレナルトがいた。
学園祭、マギアボード大会、決勝戦。その相手は今までの誰より手強そうに笑った。




