第23話 夕暮れと王太子と対戦へのエスコート
空がだんだんと色味を変えつつある夕方。
学園祭の熱気は、最後の目玉イベントに向けて高まりを見せていた。
「エキシビジョンマッチの会場はこちらでーす!」
学園祭実行委員が見物客を誘導している。黒いマントの王立騎士団も誘導を手伝っているのが遠目に見えた。
よく見ると客席には、観戦のお供に食べ物や飲み物を売っている生徒の姿まである。お祭りの最後のイベントで売り切ってしまおうという算段だろうか。
早くも埋まり始めている客席は、貴重な王太子の戦いを一目見ようとする人達の期待でざわついている。
私はと言えば、会場となる中規模演習場の横に設けられた選手控え席で、それをぼんやり眺めていた。
なんとなく落ち着かなくて、早めに会場に来てしまったのだ。
中規模演習場は校舎横の演習場としては一番大きい。テニスコートより一回り大きいくらいだろうか。
確かにリディアの爆発力に対してはやや狭そうではあるが、普通の魔法の模擬戦には十分な広さだ。地面には制御魔法を表す陣が描かれている。
「すまない、遅くなった」
傾きかけた西陽を背負ってロイアスが現れた。制服ではなく、王太子の装いをしている。
重たそうな白いマント。肩を飾る金糸。白い手袋。胸元に並ぶ装飾が、西陽を受けて煌めく。
彼がその場に現れただけで、空気が少し重たく、引き締まったようだった。
「公務が長引いてな」
そう言いながら、近くの近衛騎士に北側の警備が薄いとかなんとか指示を入れている。
「遅れてませんよ。開始時間はまだです」
「君が来ている」
待たせた、という事だろうか。勝手に早めに来てぼんやりしていただけなので、謝られるような事ではないと思うのだが。
ロイアスは案外、真面目だ。ゲームのキャラクターとしては典型的な俺様王太子という感じなのに、実際の彼は強くて自信家でありながら、それに驕り高ぶるところはない。自分が王太子であるという事に真摯に向き合っているように見えるし、努力家とも聞く。また私のような平民の能力を認める器の大きさもある。
「……完璧王子?」
「何か言ったか?」
「いえ何も」
ロイアスは怪訝な顔をしながら私の隣のイスに座った。なんだか、そんな完璧王子と私などが並んで座っていいものか、急にそわそわしてしまう。普段あれだけ部室で顔を合わせているというのに、おかしな話だ。
「遺跡以来だな」
「え?」
「こうして実戦で戦うのがだ」
「よ、よく覚えてますね」
「忘れられるはずがない」
ロイアスの、赤い宝石で彩られた白い衣装も、そういえばあの出会いの戦いと同じだった。ずいぶん前のような気もするし、ついこの間のような気もする。逃げ出した事も同時に蘇り、少し気まずい。
確かに、マギアボードではよく対戦しているが、実戦形式の対戦はあれ以来だった。
とは言え、私の方はメイド服なので、宿命の相手と言うよりは王子と侍女の方に近い。やっぱりちょっと、彼の隣にいるには場違いな気がする。
「私で良かったんでしょうか」
「何がだ」
「対戦相手ですよ」
「マギフェス優勝者なら王太子の相手として不足はないだろう」
「……殿下が対戦相手に私を指名したんですか?」
「そうだが」
初耳だった。
学園祭実行委員が選定したものかと思っていた。
「今日の大会で負けてたらどうするんです?格好つきませんよ」
実際ギリギリだった。少し恨みがましい気持ちで言うと、ロイアスは全く気にした様子もなく答えた。
「勝っただろう」
「そう、ですけど。そうではなく」
「君が勝つと思っていた」
「な……」
当然のように言われて何の返事も出来ずに口をぱくつかせている私を見て、ロイアスは不敵な顔で笑い、立ち上がった。
同時に、実行委員が王太子の名をコールする。
客席から大きな歓声が上がる。歓声に応えて手を振る姿が、あまりにも様になっている。
あまりの王太子然とした眩しさに、これからこの人と衆目の中で戦うのだという実感が遠のく。
続いて私の名前がコールされる。立ち上がろうとした私の目の前に、ロイアスが手を差し出した。
こういう事を自然とやれてしまうのが、本当に王子様だなぁと思う。
「行くぞ」
軽くのせた私の手を引きながら、ロイアスはまた不敵に笑った。




