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パズルゲームで成り上がる令嬢は、今日も連鎖を決める〜元廃人ランカーが王太子の相棒になるまで〜  作者: 夜野羊


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第18話 報告会と試運転とかすかな違和感

「違和感、ですか」


「ああ、アイリスが感じたそうだ」


調査任務の翌日、魔法戦術部の部室では報告会が行われていた。部室にいるのは部員たちと顧問のレンフィールド先生、それに魔法師団から参加している副団長のシリルだ。


ロイアスに促され、私は調査任務でのオーク戦について説明した。


「でも違和感と言っても、本当に些細なことで、気のせいかもしれません」


前置きをしてから話し始める。大テーブルには調査範囲の地図が広げられていた。調査任務の日に遺跡の壁に貼ってあったものだが、今はさらに魔物との交戦箇所に印や書き込みが加えられている。


「罠をすり抜けた、と?」


私の説明をセリオンが繰り返した。


「そう、ですね。すり抜けた、という言い方が正しいのか分かりませんが……」


罠が無効化された、というのとも少し違う気がする。けれど、では何が違ったのかと聞かれると、言葉にしにくい。


正直、自信はなかった。ゲームにはそんな仕様はなかったし、やはり気のせいだったのかもしれない。実物のオークに遭遇したのはあれが初めてだった。冷静に戦っていたつもりだが、動転していたと考える方が自然だ。


黙り込んでしまった私を見て、シリルが場を繋ぐように言った。


「魔法師団が追加調査に入っています。また報告が上がってくるでしょう」


「そうだな。アイリスの違和感もだが、そもそもあの森に魔物の群れが出現した事例は、今まで報告されていない。そちらの件も再調査している」


あの日、魔物の群れに遭遇したのは私たちロイアス組だけだった。不可解ではあるものの、そういうこともたまにはあるのかもしれない。調査が進めば、何かわかってくるだろうか。


ひとまず報告に区切りがついたところで、エドガーがマギアボードを“エドガーの巣”から抱えて出てきた。


「アイリスさんが遭遇したという事象を、いったん《罠をすり抜ける性質》と仮定してマギアボードに組み込んでみました!」


「えっ、もう!?」


昨日の今日でもう形になっていることに驚く。しかも昨日の時点では、そこまで細かく説明していなかったはずなのに。


「はい!新しい駒の実装なんて滅多にないことです。楽しすぎます〜」


にこにことマギアボードを撫でているエドガーだが、目の下にはうっすらクマができている。まさか偵察任務からそのまま徹夜したのだろうか。


「詳細な設定はこれからです。皆さんのご意見をお聞きしたいと思いまして」


そう言ってエドガーはマギアボードを起動し、新しく追加した機能について説明し始めた。盤面では、罠を素通りしていく駒が再現されている。

盤面としては確かに近い。けれど、あの時の感覚がこれで全部説明できるのかと言われると、まだ少し引っかかってもいた。

部員たちがああでもないこうでもないと意見を交わすのを、シリルが興味深そうに眺めていた。


「何か気になることでもありました?」


「ああ、いえいえ。マギアボードの開発や改修ができる方はなかなかいませんからね。魔法戦術部の人材の厚みに感心していたところですよ」


マギアボードは、魔法を使う者にとっては絶対必要と言っていいくらい便利な道具だ。その割には学園に来るまで私は存在すら知らなかったし、世間で広く普及している様子もない。少し不思議に思っていたが、そもそも作ること自体が難しい道具ということらしい。急に、借りたまま寮の自室に置きっぱなしにしている携帯用のマギアボードのことが気になってきた。


《罠をすり抜ける性質》について細部を詰めていると、しばらく考え込んでいたセリオンが口を開いた。


「罠をすり抜ける機能が常に発動するとなると、それはそれで逆に読みやすくなります。不規則性を追加するべきでは?」


確かに。すり抜けるとわかっているなら、相手も対策を取りやすい。それにオーク戦でも、罠が当たらなかったのは終盤の一度だけだった。


「そうですね!では、低確率でランダム発動するように調整してみます」


言うが早いか、エドガーはすぐにマギアボードを何やらいじり始めた。レンフィールド先生がその様子を後ろから眺めながら、ときおり短く指示を入れている。


改修は早々に終わり、試運転をすることになった。当事者である私と――


「やるやる。罠と言えば俺だよねェ」


と、ひらひら手を挙げたレナルトだ。確かに罠と言えばレナルトなので、誰からも文句は出なかった。


改修されたマギアボードを挟んで対面に座る。


「試運転でも、本気でやるよォ」


そう言ってレナルトは、いたずら猫みたいな顔で笑った。


本人の言うように、妨害や罠の戦法をレナルトより上手く扱える者はなかなかいない。

対戦が始まるや否や「本気」の言葉通り、というより、それ以上ではないかと言いたくなるほど、罠、罠、罠の陣形で攻めてくる。


「罠、多すぎ!」


私も負けじと、搭載されたばかりの“罠をすり抜ける駒”を使う。だが、低確率のランダム発動なので扱いが難しい。相手を翻弄するはずが、こちらが翻弄されてしまう。


レナルトの得意な混沌とした盤面になりかけているのを押し留める。すり抜け駒は戦闘で一度見ているのだから、私の方が一歩先にいるはずだ。


同じ罠戦法ではレナルトに読まれる。なら、あえて正攻法で攻める。仕掛けられた罠から意図を読み、薄いところへ差し込む。


レナルトの盤面は混沌としているようで、好き勝手に暴れているわけではない。罠の並びにも、妨害の重ね方にも癖がある。

なら、その癖ごと盤面を読めばいい。


「ここだ――ッ!」


渾身の連鎖で、つい大きな声が出た。


罠や妨害は厄介だが、ひとたび突破できれば守りは薄い。私の攻撃はレナルトの盤面に深く突き刺さり、そのまま全体を崩した。


「ん〜〜。また負けたァ」


レナルトは停止したマギアボードの上に突っ伏した。


「アイリスちゃん強すぎ。今日こそ勝てると思ったのにィ」


「罠すごかったです。面白かったぁ」


試運転を見守っていたギャラリーから、なぜか拍手が起こる。そういえば、みんなに見られていたんだった。


「二人ともお見事です!改修は問題なさそうでしたね。このマギアボードは特殊ルール版として別に置いておきますので、皆さんも試してみてください」


試運転がうまくいって、エドガーは嬉しそうだ。そして、ふと何か思い出したように続ける。


「特殊ルールと言えば、学園祭の大会用も調整中なのでお楽しみに!」


「学園祭の大会ってなんすか?」


ダリオスが聞いた。そういえば、学園祭がもうすぐあるとフィオラも言っていたっけ。


「ダリオスくんとアイリスさんは初めてだね。学園祭でマギアボード大会があるんだけど、そのままやったら魔法戦術部の誰かがいつも優勝しちゃうでしょう。だから大会では特殊ルールが適用されるんだ」


「どんな特殊ルールなんですか?」


特殊ルールと聞いては黙っていられない。私はわくわくしながら聞いた。


「当日まで秘密だよン」


答えたのはレナルトだった。

突っ伏していた頭を上げて、頬杖をついている。


「どんなルールか知らないけど、次こそ勝つよォ。大会でもよろしくね、アイリスちゃん」


そう言うと、レナルトはまたあの猫みたいな目で笑った。

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