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パズルゲームで成り上がる令嬢は、今日も連鎖を決める〜元廃人ランカーが王太子の相棒になるまで〜  作者: 夜野羊


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第17話 調査と魔法師団と群れをなす魔物

初夏が近いことを思わせる春の終わりのある日、魔法戦術部の面々は城下町から少し離れた遺跡にいた。


レナルトと遭遇した北東の遺跡のさらに先だが、今回は馬車で連れてきてもらえたので楽だった。馬車って素晴らしい。


なんでも、調査任務とのことらしい。同行してきた王立魔法師団の一人が説明を始める。


「事前に説明があった通り、魔法戦術部の皆さんにお願いしたいのは、この遺跡近辺に生息する魔物の調査です」


遺跡の壁に貼った地図には調査範囲が示されている。


「すでに我々魔法師団が事前調査と討伐を行っていますので、危険は少ないと思われますが、怪我などには十分気をつけてください。チームに分かれての調査をお願いします。各チームにそれぞれ魔法師団員一名が同行します」


調査済みなら何を調査するのだろう、と思ったが、外部の立場から気付いたことや意見を聞きたいそうだ。いわゆる、おつかいクエストみたいなものだろうか。


続いてセリオンがチーム分けを発表する。


セリオン、ダリオス組。

レナルト、ミレイユ組。

リディア、エドガー組。


あれ、私は、と思ったところでロイアスに声をかけられた。


「アイリス、君は俺とだ」


その直後、ミレイユがぴっと手を挙げて言った。


「僭越ながら、この周辺に出没する魔物のデータをまとめてきました」


そう言って各チームに薄い冊子を配る。


「わあ、これはすごい」


ロイアスの斜め後ろから冊子を覗き込んでいると、さらに背後から声がかかった。私たちロイアス組に同行する魔法師だ。


戦闘時、盤面の魔素はランダム発生ではあるが、初期配置や技の出し方には魔物によってある程度の法則性がある。スライムであれば連鎖は二程度、青系の攻撃が中心、というようなことだ。


ミレイユの冊子にはそれが分かりやすくまとめられていた。何なら前世の攻略サイトより見やすいほどだ。


「あの、これ、最後もらって帰ってもいいですか!?」


勢い余って聞くと、ミレイユは微笑んで頷いた。向こう側でダリオスが「俺も欲しいです」と元気よく手を挙げている。


ロイアスから冊子を受け取りパラパラとめくる。丁寧な文字はミレイユの人柄そのままだ。少しだけ挿絵があるのもかわいい。


ついじっくりと読み始めてしまったところで、ロイアスが場を仕切り直すように少し大きめの声で言った。


「さあ、ミレイユの冊子を各自確認したら調査を開始してくれ。何かあれば同行の魔法師の指示に従うように」


解散、の一声でそれぞれの組は持ち場へ散って行った。我々ロイアス組も調査範囲へ出発する。


歩き始めたところで、私は同行の魔法師に声をかけた。


「あの、お名前聞いてもいいですか?」


魔法師団の白いローブに、腰ほどまである長い銀色の髪。目はうっすら青いが、こちらも銀に近い。ロイアスと並ぶとまさに金と銀という感じで、大変まばゆい。


「自己紹介が遅れましたね。僕はシリル・アークライト。魔法師団では副団長を務めております。アイリス・ルミナさんですね。お噂はかねがね」


シリルと名乗った男は、青銀の瞳を優しげに細めて言った。


「ふ、副団長さんですか」


只者ではないオーラではあったが、普通に偉い人だったので驚く。


「まあそう畏まらずに。ロイアス殿下の兄とでも思っていただければ」


「誰が兄だ」


にこにこと笑うシリルを半眼で睨みながらロイアスが言った。しかし言葉ほど嫌そうな感じでもない。ずいぶんと気安い関係のようだ。


「ご幼少の殿下に魔法の手ほどきをしておりました」


「へえ!」


「余計なことを言わなくていい」


三人であれやこれやと話しながら進んでいると、早速ミレイユの冊子にあった魔物が出現した。


「僕と殿下は後ろにいますね。何かあればサポートしますので、思い切りどうぞ」


シリルはそう言って一歩下がった。ロイアスはその場にいたが、私が前に出たので後ろにいる形になる。後ろからじっくり見られながら戦うというのは少々気恥ずかしい気もしたが、目の前に盤面が展開された瞬間にそれも忘れていた。


この一帯に出没する魔物は主に胞子キノコだ。森であれば必ず出てくると言えるほど、マギリンではメジャーな魔物である。キノコに足が生えた可愛い見た目ではあるものの、大きさが一メートル近くあるので、正面に立つと結構な威圧感がある。


冷静に連鎖を組む。この程度であれば罠も駆け引きも必要ない。先手必勝。私は連鎖を発動し、魔物はあっけなく消滅した。


「おお!速い!素晴らしい!」


「当然だ」


拍手するシリルになぜかロイアスが即答する。どことなく得意げですらある。なんとなく、ロイアスは部員など身内の人間には少し甘いような気がしていたが、やっぱりそうかもしれない。


その後も断続的に現れる魔物を倒し続けた。


胞子キノコの他には、ツノの生えたウサギ型の魔物であるホーンラビットや魔コウモリなどだ。名前だけなら森の仲間たち感があるが、現実で相対するとかなり大きいし獰猛なので、やっぱり仲良くはできそうにない感じである。


「特に変わったところは感じないですね」


何体目かの魔物を倒した後、私はそう言った。


「変わりなければ、そう報告してもらえれば大丈夫ですよ」


「頃合いだ。そろそろ遺跡に戻ろう」


大した成果も得られていない気もするが、こんなものだろうか。


来た道を戻ろうとした、その時だった。森の木々の奥が大きくざわめいた。身構える暇もなく、魔コウモリが複数体、森の奥から飛び出して脇をすり抜けていく。ギイギイと不快な鳴き声が響き渡る。続いて胞子キノコ、ホーンラビット。いずれも今まで出現したものより大きい。


「魔物の群れ!?」


「アイリス!下がれ」


この森の魔物は基本単独行動だ。群れを作ることはほぼないはずだ。私は下がりながら手早く連鎖を組んで手前の魔物にぶつける。さっきまでより少し硬い。


ロイアスとシリルもそれぞれに盤面を展開している。


その時だった。私の正面の木々がばきばきと音を立てて折れ、大きな魔物が折れた木々の間から姿を現した。人型タイプ。全長は三メートルほどもある。緑色の肌に短いツノ、豚のような鼻をしている。森の暗がりに立つその姿は、さっきまでの魔物とは明らかに格が違って見えた。


「……オーク!」


ゲームでは散々倒した魔物だが、こうして実物を見るのは初めてだった。目が合う。生臭い匂いがここまで届いた。膝に力を込める。


「アイリス!」


背後でロイアスの声がする。私はオークから目を逸らさず、盤面を展開し魔素を掴んだ。


「大丈夫です。やれます」


ミレイユの冊子には載っていなかったが、オークの倒し方なら知っている。イベント周回で何度も倒してきた。元廃人ランカーを、なめるなよ。


まずは速攻で小さい連鎖を組んで攻撃し、相手の先制攻撃を防ぐ。


その後は火力の強い攻撃に備えて防御を組みつつ、罠を仕掛ける。今だ。罠を発動させ、さらに攻撃連鎖をぶつける。


「……行け!」


命中。相手が削れたのが分かる。


後は基本的にはこれを繰り返すだけでいいはずだ。オークはパターンに嵌めれば勝てる。


防御、罠、攻撃。

防御、罠、攻撃。


タイミングを間違えないよう精密に、しかし手早く魔素を組んでいく。順調。


よし、そして罠――


同じタイミングで組めたはずだった。間違えてはいないはずだ。なのにオークの攻撃は罠をすり抜け、私に直撃した。衝撃が体に伝わる。


「きゃあっ」


「アイリス!」


ふらついた私を誰かが後ろから支えた。


「殿下」


「後は俺がやる」


「待ってください。まだ大丈夫です」


私は目の前の魔素を引き寄せた。何か今、おかしかった。あれは何だった?


探る気持ちで、私はオークに多段連鎖を仕掛けた。

爆発が連鎖する。

光が弾け、爆風が髪をなぶった。


オークはあっけなく倒れ、消滅した。


「倒せた……」


「怪我はないか」


私は両手首を振りながら全身を見回した。特にどこもなんともない。


「大丈夫で、す……」


振り向いたら触れる距離にロイアスが立っていた。というか、未だ肩を支えられている。


急な近さに固まる私をよそに、ロイアスは自然に手を離して、ぐるりと私を見た。怪我がないか確認したようだ。


「何よりだ。よくやったな」


褒められた。なんだかこそばゆい。やっぱりロイアスは身内に甘いような気がする。これが王の器というやつだろうか。


「お二人とも!ご無事ですか?」


少し遠くで戦っていたシリルが合流する。


「無事だ」


「良かった」


しかし二人とも、無事を喜ぶような顔つきではない。目を見合わせて、何か考えているようだ。


「この森で魔物の群れですか……」


「ああ、少し妙だ」


「師団から追加調査を派遣しましょう」


「そうだな。手配してくれ」


「御意に」


真剣な顔つきをしていたシリルが、柔和な笑顔に戻って私を見た。


「アイリスさん、大丈夫でしたか?冷静で素晴らしい動きでしたね」


「は、はい!ありがとうございます」


「ご無事で何よりです」


戻って皆と合流しましょう、とシリルは私とロイアスを促して歩き出した。行きは私が先頭だったが、今はシリルとロイアスに挟まれる形だ。


歩きながら、私はさっきのオークについて考えていた。


魔物によって定型の戦い方があるとは言え、ランダム要素も多い。イレギュラーな動きがあるのが普通だ。あのオークも、そうだっただけかもしれない。


しかし、薄い布のような違和感があった。


予想と違う動きをするなら分かる。予想を外すなど、よくあることだ。だが、そうではないように感じた。まるで、予想通りの動きをしたのに外した、とでもいうように。


どう報告書に書いたものか。


魔物は倒せたはずなのに、遺跡に戻る私の足取りは、少しだけ重たかった。

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