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パズルゲームで成り上がる令嬢は、今日も連鎖を決める〜元廃人ランカーが王太子の相棒になるまで〜  作者: 夜野羊


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第15話 ランチとスタイルとそれぞれの美学

「フィオラ!こっち、席空いてたよ!」


私は、向こうでランチのトレーを持っているフィオラに声をかけた。


前世でもこの世界でも、ランチが楽しみな時間であることは変わらない。『マギア・リンクス』では、イベントなどでの食事描写が美味しそうなことに定評があったが、そのおかげなのかどうか、この世界のごはんは基本的にどこで食べても美味しい。ごはんが美味しいというのは、本当にありがたい。


「アイリスはBランチ?」


「うん、Aランチの魚もおいしそうだったから悩んだけど」


「私、Aランチにしたから交換しようよ」


「本当?やったぁ!」


たわいない会話をしながら席につく。


昼休みの食堂は大賑わいだ。生徒が多いため学園内には食堂もいくつかあるが、ここはその中でも一〜三年生が使う最も大きい食堂だった。早めに来ないと、席を探してうろつき回る羽目になる。


「ダリオスくんは今日も中庭?」


食堂には売店も隣接している。ゆっくり食事を摂ることより仲間と息抜きしたいタイプは、売店でパンなどを買って中庭や校庭へ繰り出している。ダリオスも最近では、クラスメイトと買ったパンをくわえて中庭へキャッチボールなどをしに行くことが多い。元気があって良いことだ。


なんとなく、親離れってこんな感じだろうか……としみじみしたりするが、ちょっと違う気もする。


今日のBランチは、フライにした鶏肉に甘辛いソースと刻んだ玉ねぎを加えたマヨネーズがかかったものだ。要するにチキン南蛮である。Aランチは鮭のムニエルで、輪切りのレモンが美しく鎮座している。生徒の大多数が貴族ということもあり、ランチもなんだか上品だ。


フィオラとランチを交換して楽しんでいると、周辺の生徒たちがざわめいた。


何かあったのかとランチから顔を上げると、背後から声がかかった。


「アイリス」


「おっ、王太子殿下!」


先に返事をしたのは、私ではなく対面にいたフィオラである。


「殿下。こ、こんにちは」


突然の出現に、食べていたチキン南蛮が若干喉につまる。部室で会う時はもう少し気楽に接せられていると思うのだが、部室以外で会うとどういう態度でいたものか、よくわからない。何しろ、部室の時と比べて王太子オーラが三倍くらいに感じられる。従者などを従えているからだけではないような気がした。


「ああ、そうかしこまらなくていい。たまには食堂で昼食をと思ってな」


ロイアスはフィオラに「ご一緒しても?」と、ダンスに誘うように優雅に伺いを立て、そのまま私の隣に座った。


「普段は学内の私室で食べているが、毎日では息が詰まる」


学校の中に私室とかあるんだ。そういえばメニューも違うものだ。王太子スペシャルメニューだろうか。


「食堂メニューと違うものなんですね」


ちょっとした疑問だったが、ロイアスが答えるのには一瞬の間があった。


「王室専任の料理人が作っている。それ以外だと……毒見などの手続きが少々面倒なのでな」


「そ、うなんですね……」


自分で聞いておいて、言葉がしりすぼみになってしまった。


部室で会う時と、本当に違う。ロイアスはどこまでも王太子だった。いや、部室が例外的に距離が近いといった方が、正しいのかもしれなかった。


「今日は魔法戦術部にも顔を出す予定だ」


なんとなく妙な空気になったのを察してかどうか、ロイアスが口を開いた。


「新しい戦術を試したくてな。付き合ってくれるだろう?」


「新しい戦術!?もちろんです!」


急に勢いづいた私に、ロイアスはほんの少し面食らった顔をしたが、一瞬の後に「よろしく頼む」と笑って言った。それは、部室で見る年相応の笑顔だった。


―――


放課後。私とダリオスは、魔法戦術部の部室へ向かっていた。


「今日は殿下来るみたいだよ」


「久しぶりだな。対戦してもらおっと」


「えっ、私が先だよ!」


部室の扉の前まで来ると、何やら中から言い争う声がうっすらと聞こえてきた。ダリオスと顔を見合わせる。


「そうではありません。いかに陣形を維持したまま守り、攻撃に転ずるかに美しさがあるんです」


「違うなァ。相手も自分もぐちゃぐちゃに混ざった混沌の中で、相手を追い込んでいく道筋に美しさがあるんだよ」


ドアを開けた瞬間に、言い争いが耳に入ってきた。声の主はセリオンとレナルトだ。ダリオスが、またか……という顔をしている。


セリオンもレナルトも抑えた声量ではあるものの、お互いにまったく譲る気がないのは見て取れた。なぜか二人とも笑顔だ。こわい。


魔法戦術には様々な型がある。攻撃主体か、防御主体か。攻撃主体なら一撃の火力重視か、数を打つタイプか。防御主体であれば守りつつ打って出るのか、誘い込むのか……等々、人の数だけ型があると言ってもいい。とりわけこの二人は、対極と言っていいほどスタイルが違った。


強固な城のように無駄がなく、崩れにくい守りから攻撃に転ずる防御主体のセリオン。対してレナルトは、自分と相手の境目をわざと曖昧にし、相手を翻弄して自滅を誘うトリッキーな戦法だった。


あまりに逆方向の二人だが、自分の戦法に美学があるというところに関してはまったく同じなのだった。対戦のたびに言い争いになっているが、二人ともどことなく楽しそうなのは気のせいではないと思う。


控えめにお疲れ様ですと言って入室してきた私を見て、言い争う二人が火の粉をこっちにまで撒いてきた。


「アイリスちゃん!混沌こそ最も美しいよねェ!?一緒に闘ったし、アイリスちゃんもそう思うでしょ?」


「アイリスくん、君ならこの守る陣形の美しさが理解できるだろう?攻守一体こそ魔法の真髄だ」


「……えーとぉ」


巻き込まないでほしい。

ダリオスはどこへ行ったのかと思ったら、奥にいたミレイユとすでに対戦を始めている。逃げ足が速い。


二人の言い分は分かる。私はわりとこだわらずどんな戦法も使ってみるし、どちらのやり方も美しいと思う。否定する理由もない。


……だが、最も美しいかと言われたら話は変わってくる。


私には私の美学があるのだから。


「私は相手の思考を読み、いかに盤面を支配するかに美しさがあると考えます」


二人のどちらにも同意せず言い切った私に、セリオンとレナルトは一瞬沈黙し、そしてにやりと笑った。


「なるほど?アイリス君にも相容れない美学があると」


「いいねェ。じゃあ早速一戦交えてみよっか?」


こうして三人に増えた喧々囂々の議論は、遅れて現れたロイアスが呆れ顔で一喝するまで続いた。


「……美学を語るのは結構だが、まずは盤面で示せ」


静かな声だったが、それだけで空気がすっと引き締まる。セリオンとレナルトは一瞬だけ黙り込み、それからほとんど同時に口を開いた。


「望むところです」

「いいよォ」


どうやら反省はしていないらしい。相変わらず気が合うんだか合わないんだか不思議な二人だ。


私は小さく息をつく。こんな言い争いも楽しく感じてしまうんだから、随分とこの部にも馴染んだものだと思う。この部屋にはそれぞれ譲れないものがあって、それが盤面の上でぶつかる。だからきっと、面白いのだ。


その時、向こう側の盤面ではミレイユが静かに駒を置き、遅れてダリオスの悔しそうな声が上がっていた。

部室のあちこちで別々の時間が動いていて、そのどれもが妙に心地よかった。

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