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第39話 ルバス家の金細工

 レルシュトたちの両親がきゅうきょ、訪ねてきた。

 天上の世界へ大使として外遊中で当分戻らないと聞いていたのだが、レルシュトの婚儀の話を妖精王から聞き、慌てて戻ってきたらしい。

 

 ザージュは、自分の両親なのに、緊張して角張っている。ディルナも、同じく緊張して、動きがカクカクになっていた。

 自分は人間だし、どうしようと、瞬間、不安な気持で一杯になった。

 

「レルシュトの父の、リシャルメ・ルバスです。息子が世話になっております」

 

「レルシュトの母の、ビヌビユマ・ルバスですわ。まぁまぁ、なんて可愛いんでしょう」

 

 黒い猫妖精が増えていて、何やら、とても暖かな雰囲気になっている。とはいえ、レルシュトの父母は、正装に近い服を、きっちりと着込んでいる。

 外遊先から、直接、ルバス家の、この屋敷へと来たらしい。

 

「あ! えーと、ディルナ・ミノです。人間です。レルシュト様とザージュ様には、とてもお世話になってます」

 

 カチコチのまま、ディルナは名乗って、深く頭を下げた。

 

「父上、母上、お久しぶりです。どうなさったのです? まだ、外遊中だったのでは?」

 

 レルシュトは不思議そうに訊いている。

 

「ちちうえ、ははうえ、ひさしぶりにゃ」

 

 ザージュは、カチカチのまま、それでも必死で挨拶していた。

 

「ええ、ええ。外遊中でしたとも。ですが、レルシュトが結婚となれば、何を置いても戻らねば、と、思ったのですよ!」

 

 レルシュトの母ビヌビユマは、どちらかというと、非常に恐縮した様子で喋っている。

 

「ああ、済まないな。ビヌが、ルバス家の倉庫の鍵を、持ってきてしまっていてだな」

 

 レルシュトの父リシャルメが、事情を説明した。レルシュトとディルナは、思わず、顔を見合わせる。

 

「ごめんなさいね。レル。随分と、探させてしまったのではないかしら?」

 

「おお。なんと! それでは、どこを探しても見つからないはずだ!」

 

 レルシュトは、ビヌビユマの言葉に、脱力した様子ながら、力強く力説した。

 

「ええ。倉庫には、婚礼の際に花嫁に飾る金細工の帯がありますからね。もう、取るものも取りあえず戻らねばと。ほら、鍵ですよ」

 

 結婚式に間に合って良かった、と、ビヌビユマはレルシュトに鍵を渡すと、ホッと胸をなで下ろすような表情だ。

 

「立ち話もなんですから、居間の方にでも」

 

 レルシュトは、そう提案したのだが、取り敢えず、今日は、鍵だけ渡して、領土の外れにある別邸に戻るのだ、と、二人はニコニコと愉しそうな笑みを、ずっと黒猫の顔の満面に浮かべながら言った。

 

「桃源郷の桃を土産に持ってきた。食事の際にでも、是非、味わってくれ」

 

 玄関で見送ろうとすると、リシャルメが、何処から取り出したものか、大きな桃が沢山入った大ぶりな籠をディルナに手渡してきた。

 

「わぁ、凄い大きな桃! とても良い香りがしています」

 

 籠を掲げたまま、ディルナは深く、お辞儀をした。

 

「また、訪ねさせてくださいね」

 

 ビヌビユマはそういうと、リシャルメと共に軽く手を振りかけ、次の瞬間には姿を消していた。

 

「父上は、場所を移動する魔法が得意でな」

 

「魔法、得意不得意があるんですか?」

 

 桃の芳香に包まれながら、ディルナは不思議そうに訊いた。

 

「猫妖精の得意な魔法は、一体一体、全く違っているな。母上は、家事全般が得意でな。我が輩は、その辺りを、だいぶ引き継いでいる。家を護って行くには丁度良い」

 

「じゃあ、ザージュ様も、違う魔法を使うのですか?」

 

 だいぶワクワクしながらディルナは訊いた。

 

「ザージュは、なかなか先が愉しみだよ。まだ片鱗でしかないが、とても魔法の力は強いようだ」

 

 微笑ましそうな表情を浮かべてレルシュトは言う。その言葉からは、ザージュの魔法は、レルシュトのものとは、全く違うのだろうと感じられた。ザージュの魔法を披露して貰える日が、ディルナはとても愉しみだった。

 

 

 

「では、早速、ルバス家の金細工の入れられた倉庫を開けてみよう」

 

 両親から手渡された鍵を手に、一階の浴室方面の端の方の扉を目指す。ザージュも尻尾を立てて一緒についてきていた。

 レルシュトが鍵を差し込んで回すと、カチリと心地良い音がする。

 

 開けられた扉の中は、壁際に棚が並んでいる、中くらいの大きさの部屋だった。

 倉庫というには、壁も柱も棚すらも、装飾過多で、お洒落な感じだ。

 そして、金細工は、一つの壁側の棚を埋め尽くすように置かれている。

 

「うわぁ、凄い、キラキラしてる」

 

「凄いにゃぁぁぁ、ぴかぴかにゃぁぁ」

 

 棚には様々な種類のものが置かれていた。取っ手や縁の飾り細工が豪華な金の壺。色々な動物らしきをかたどったような置物。何かの用途がありそうな不思議な道具のようなもの、と、いった感じだ。

 金細工の皿は、飾り彫刻が良く見えるように皿立てに置かれていた。

 

「何より、婚礼に必要なのはこれだ」

 

 ルバス家の家宝だ、と、言いながら、レルシュトは奥の扉を開けた。

 

 そこには、身体だけの簡易な人形が置かれ、ルバス家の家宝だという帯が、腰の部分に飾られていた。婚礼の際に花嫁に飾る金細工の帯、と、レルシュトの母が言っていたものだと思う。

 

「これ! 帯なんですか?」

 

 ディルナは青い瞳を思いきり見開いていた。

 

「きれいにゃゃぁぁ」

 

 ザージュも驚きに、眼をらん(らん)と輝かせている。

 

 帯といっても、その金細工は、一つの衣装のようだった。綺麗で繊細な模様で織られた腰の部分の金の帯から、沢山の金飾りが吊り下げられている。

 美しい鎖に、細かい具象が透かし模様として複雑に絡みあった金飾りは、物凄い数だ。中には、宝石の嵌まっている飾りもある。

 

 全体としてスカートのように見えるが、身体にまとえば、しゃらしゃらと、綺麗に動くだろう。

 

「これを身につけたディルナは、さぞかし美しかろうな」

 

 レルシュトは、とうぜんれるような表情で、ルバス家の家宝の金細工を眺めていた。

 

 


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