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第36話 夢魔の来訪

ぞやは、怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」

 

 昼間に、不思議な形の者が訪ねてきた。人間のような精霊なのか、少し露出の激しい衣装をまとい、背には爪のある蝙蝠のような羽根、頭部の左右にはせんに曲がる角がある。

 腕には動く蛇の飾りをつけ、美しい虹色の髪をしていた。

 

「これは、珍しい。夢魔ではないか。昼間に姿を保っているとはどうしたことだ?」

 

 ディルナと共に、玄関先に来たレルシュトが、驚いた声を上げている。

 

「夢魔さん? あの夜に、視線があったのは、あなたなんですか?」

 

 ディルナは、ちょっと思い出して怖くなり、ふるっ、と身震いした。

 

「はい。夢魔のアルタンディラと申します。あの時は、本当に、申し訳ありませんでした。今は、能力が制限されておりますから、怖くはありませんよ」

 

 アルタンディラと名乗る夢魔は、美しく整った女性の顔で、羽根や角が無ければ、人間に良く似ている。

 髪と同じように、瞳は虹色に揺らめいているが、確かに、夜に視線が合った時のような、底知れぬ怖さは感じられないようだった。

 

「夢魔が、能力を制限されて、昼間でも姿を保つとは! 妖精王の成せる技か!」

 

 レルシュトは、大分驚いた様子で、妖精王が関わっていると断言していた。

 

「はい。どうしても人間界に行きたくて、妖精王の許可を取り付けたのです。悪さはできないように、だいぶ能力を制限されました。ですが、その変わりに、昼間でも行動できるようになりましたわ」

 

 足首に嵌められている金の輪を示しながら、アルタンディラは微笑んだ。

 

「ただ、妖精王の許可は取り付けたのですが、人間界に行くには、土産(みやげ)たずさえなければならないとのキマリだとか。そこで、お邪魔させて頂いたわけです」

 

 深く礼をとりながら、アルタンディラは、そんな風に言葉を続けた。

 

「そんなに大きな身体で、狭い通路を通れるのですか?」

 

 ディルナは瞬きしつつ、自分より随分と背が高く、少し浮かんでいる美女を、見上げる視線で訊いた。

 

「はい。形を無くすことができますから大丈夫です」

 

 形を無くす、というのは、ちょっと想像ができなかったが、ちゃんと通路を通れるのだと分かって、ディルナは頷いた。

 

「妖精王さんが許可したというのなら。では、小物のある地下室へご案内しますね」

 

 先に立ってディルナは歩き出した。少し浮いた状態で、歩くでもなくアルタンディラはついてくる。心配しているのか、その後ろから、そっとレルシュトが歩いてきている。

 

「なぜだか、人間界から呼ばれているような気がするのですよ」

 

 言葉に振り向くと、少し遠くを見るような視線のアルタンディラは、とても愉しそうだった。

 

 

 地下室の扉を開き、まだ、片付けは途中だけれども、それなり整ってきている小物の部屋へと、アルタンディラを招き入れた。

 

「名札の付いているものは、効能が分かっています。まだ整頓できてない物の中に、気になるものがあるようでしたら、効能は、直ぐに調べますよ」

 

 ディルナは、言いながら、名札が付けられた小物の置かれている棚へと、まず案内した。

 

 アルタンディラは、興味深げに、名札付きの宝石のような石を暫く眺めていたが、ふと、透明な蓋付きの小箱が気になった様子で、軽く手に取る。

 

「惚れ薬の瓶、ですか。これ、よさそうですわ」

 

 小箱の中には、桃色の透明な宝石が削られて造られたような小さな瓶が、柔らかな白い布の上に置かれている。

 小瓶にはふたがあり、蓋は細い鎖で、瓶のくびれた部分に嵌められた金属と繋がっている。鎖を通せるような金具のようなものも付いていた。

 

「惚れ薬の瓶は、『魔気を水に変えて瓶に満たし、一晩おけば、できあがる。惚れ薬、というが、媚薬である』、という物のようです」

 

 ディルナは、説明の紙に書いた内容を口にする。

 

「あら、いいわね。これにするわ」

 

 ディルナの言葉を聞くと、アルタンディラは満足気な笑みを浮かべて決めたようだった。

 

「わかりました! 今、袋に入れますから、ちょっと待ってくださいね」

 

 ディルナは沢山作ってる小物のための布袋の中から、レース飾りをつけた宝石用よりは少し大きめの袋を取り出した。そして、アルタンディラが選んだ小箱から、手のひらに収まるくらいの大きさの、惚れ薬の瓶を取り出すと、そっと袋に入れた。

 なんとなく、名札と、説明の紙は、そのまま箱の中に残しておいた。

 

「はい、どうぞ!」

 

 嬉しそうな笑みを浮かべて、ディルナは人間界へと活躍しに出掛けて行く小物をアルタンディラに托した。

 

「あら素敵。綺麗な袋ね。ディルナさんが作ってくださったの?」

 

 そういえば名乗っていないのに、アルタンディラは名を知っているようだった。やはり、視線が合ってしまった、あの時に、名も知られていたのだろう。

 でも、そう思っても、今は不思議と怖さはなかった。

 

「はい! 小物たちに喜んで欲しくって、楽しく作ってます」

 

 箱の中には、色々な大きさの布袋を作っていれてある。一応、整頓した小物に合わせて作るようにしていた。

 

「ありがとうございます。大事に人間界へ持って行くわ」

 

 アルタンディラの微笑みからは、綺麗で優しい雰囲気が感じられる。

 

「あんなに怖かったのに、こんな風にお話することができる日が来るなんて、とても不思議です」

 

 ディルナは、しみじみと呟きつつ言った。アルタンディラは、宙に浮いたまま、玄関の方へと戻って行く。ディルナは地下室の扉に鍵を掛け、見送るために後からついていった。レルシュトは、いつの間にか、玄関に立っている。

 

「良い品を有り難うございます。とはいえ、手土産を手に入れても、まだまだ人間界に行くには日数が掛かるのです。なにやら、とても殺到しているらしく、順番待ちなのです。順番待ちのためにも、手土産が必要なのですわ」

 

 アルタンディラは、丁寧に礼をしながら、そんなことを語ってくれた。小物を手にしたら直ぐに人間界に行かれるのではないことに、少し驚いてもいた。

 

「気に入った品があったのなら良かった」

 

 レルシュトも笑顔で、去って行く夢魔を見送っていた。

 

 長い春も、そろそろ終わりを告げているようだ。咲き乱れる花々の種類が、少しずつ変化してきている。

 上空を舞う花びらたちは、相変わらず、美しく舞い踊っているが、いつの間にか木々は緑を繁らせて、濃い色調で花びらの大きな花が咲きはじめているようだった。

 

 


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