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第34話 水の中の妖精

「水の中の妖精は怖いものばかりではないのよ」

 

 幾つものレース編みのモチーフを編んでからつなぎ合わせて行く方法を教えてくれた後で、ラハイカは、そんな風に語り始めた。

 

「私の父は、川の者で、沼の者よりは、ずっと穏やかだけれど、それでも気性は激しいほうで。母とは、なかなか情熱的な恋をしたそうなの」

 

 ラハイカの母ならば、イェリエラのことだろう。

 

「川のかた、水の中に住むのでなくて、大丈夫なんですか?」

 

 だいぶびっくりして、思わずディルナは聞いていた。本来、水中で暮らしているはずの者が、地上で暮らす、というのは物凄く大変なのではないか、と思う。

 

「どうなんでしょうね? 父は、割と頑張って長いこと、地上に居たようだわ。でも、そんなに長い期間は耐えられなくて、泣く泣く川へと戻っていったらしいの。私は小さくて父のことはほとんど覚えていないわ」

 

 きっと、川の者であるというラハイカの父は、再度、地上に上がってくることはできなかったのではないか。そんな風に感じられた。

 

「母のイェリエラは、以前は大きな透明な羽根があったのよ。年と共に維持できなくなって、今は、衣服の下に隠れるほど」

 

 ラハイカは笑みを深めて、イェリエラのことを教えてくれている。

 

「わぁ、イェリエラさんも羽根があるんですね!」

 

 イェリエラに羽根があったらしいことは、ディルナには、ちょっと不思議に感じられた。

 空を飛んだりしていたのだろうか? イェリエラは、ディルナよりも身長は大きい感じだから、きっと羽根も大きく、とても美しかったのだろうと想像した。

 

「私の羽根は、父母の性質が混じりあって、水が流れているような不思議な感じになったわね。羽根はあるけれど、空を飛ぶには、羽根は使わないの。川の者の性質も引き継いでいるはずなのに、泳ぐことはできないわ」

 

「ラハイカさん、空を飛ぶことができるの? 羽根を使わないで飛べるなんて凄いです!」

 

 羽根を使わずに飛ぶらしいと知り、ディルナはどうもくした。レルシュトも、屋敷の中では羽根を出さずに浮いていることがあるから、妖精界では、そんなに珍しいことではないのかもしれない。

 

「母のイェリエラも、大きな羽根はあったけれど身体の割には小さくて、飛ぶ時には、羽根は使っていなかったのよ。私も母も、精霊の感じの方が強いのかもしれないわね」

 

 イェリエラは羽はあっても使わず、精霊のように飛ぶらしい。ディルナは、コクコク頷いた。

 

「妖精界は、妖精も精霊も、色々と、種族を超えた婚姻が増えたから、単一の種族は、だんだん珍しくなるのでしょうね。私の先祖には人間もいたらしいわ」

 

 ラハイカの先祖には人間も居ると聞けば、人間界での編み物なども受け継ぎ易かったのかもしれない、という思いが巡る。

 

「妖精や精霊と人間は婚姻できるんですね」

 

 種族を超えた婚姻が多く、その中には人間も含まれるようだった。

 

たまに、許されないこともあるようだけど、人間界との行き来がもっと活発だった頃には、随分と多かったらしいわ。人間との婚姻よりも、私の父母のように、種族が違う場合の婚姻の方が問題が多いこともあるわね」

 

 沼の者のせいで、水の中の者たちには、怖い印象があるから、色々大変だろうな、と、ディルナは頷いた。

 

「霧の後で、綺麗な、お魚さんに逢いました。水の中に住むかたも色々なんだなぁ、って思ってました」

 

 虹色の喋る魚を思い出してディルナは思わず微笑んだ。

 

「海には人魚もいるのよ。流石(さすが)に、陸には上がってこられないようだけど」

 

「人間界でも、人魚の噂、聞いたことあります。元々は妖精界の方なんですね」

 

 水の中の妖精や精霊は、とても多くの種族がいるのだなぁ、と、思う。そして、人間界に人魚の噂があるのは、妖精界と人間界に深くつながりがあった時のごりなのだろうか? そんな風にも感じられた。

 

「山脈のほうには、異種族間での婚姻を全く許さない種族が暮らしているわ。金属やガラスを作ってくれる者たちよ」

 

「ガラス?」

 

 金属は、金細工なども見ているので、なんとなく馴染みはあるが、ガラスとは何だろう? ディルナは首を傾げた。

 

「ここの扉や窓に嵌まっている透明な板がガラスよ。レルシュト様のお屋敷はガラス窓が沢山あるでしょう? そのガラスを作れる者たちが山脈の方に住んでいるのよ」

 

 ラハイカは微笑みながらガラスについて教えてくれた。透明な板はガラスと呼ばれていると、ディルナは初めて知った。人間界では、一度も見たことがなかった。

 

「あ! 透明な板、ガラスって言うんですね! レルシュト様のお屋敷の窓は全部ガラスです! 屋敷の中にも、この透明な板で作られた箱とか、蓋とか、食器とか、色々あります! わぁ、ガラス、作ってる方々が山脈の方に住んでいるんですね」

 

 そして、ふと、レルシュトの屋敷にある一万二千年前の写真の本には、透明な窓が沢山在ったことを思い出す。人間界にも、かつてはガラスが在ったのに、何故、今は無いのだろう? と、ちょっと不思議な気持ちだ。

 

「ガラスや金属を扱う者たちは、地下に住んでいるらしいという噂もあるけれど、余り秘密を公開しないので、確たることは分からないわね。現在は、できあがったものは、こっそりと王宮へと運ばれていて、そこから各地へ配達されているみたいなの」

 

 水の中の妖精や精霊の他に、山脈や地下に住んでいる謎の多い方々も居るとなると、なかなか多彩な気がする。

 

「わぁ、それだと、王宮は大忙しですね」

 

 ディルナの驚く様子に、ラハイカは微笑みながら肯定するように頷いた。

 

 王宮はとても広く、春祭りで行った時には、庭だけでも広すぎて全部はとても回れなかった。王宮の建物も遠目に眺めていただけだった。その広い王宮のどこかに、金属やガラスを持ち込む者達がいることに、ちょっとワクワクしている。

 

「レルシュト様の領地には、王宮から割と近いこともあって、最も一般的な妖精や精霊が集まっているのよ。そのうち、ディルナも、色々な方に会う機会が増えてくるでしょうね」

 

 優しい表情でラハイカは囁いた。

 

 


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