第28話 春祭りを告げる鳥
妖精界の冬は、雪深くはならず、降っても薄ら積もる程度だった。
ほどほどに寒いものの、フード付きの外套や、カーディガン、長いブーツのお陰で、ラハイカの所に編み物を教えて貰いに通うのにも、さほど辛くはなかった。
出かけ先の道端には、山茶花も綺麗に咲いていたし、ディルナは、冬の妖精界を満喫した感じだった。
「あ、凄く綺麗で、長い尾だ!」
編み物をしながら、ふと屋根裏部屋からの窓の外に視線を向けたディルナは、吃驚して、編み物を机の上に一旦置いて、窓辺に駆け寄った。
それは、ディルナよりもずっと大きい、巨大な鳥で、凄く綺麗な色合いと、長い長い尾を持っていた。ひらひらと棚引くような尾が、屋根裏部屋の窓を埋め尽くし、透明な窓を撫でて行くほど、間近を飛んでいる。
長いこと、ぼぅっと、見蕩れて、巨大な鳥と、その尾の動きの素晴らしさを見続けていたディルナは、やがて鳥がレルシュトの屋敷から離れて行くのに気付くと、慌てて、階段を下って行った。
「凄く大きな鳥が、凄い長い尾をふわふわさせて、飛んでました! 屋根裏部屋の直ぐ近くです!」
慌てた様子で、居間で寛いでいた、レルシュトとザージュに訴えかける。
「おや、春祭りを告げる鳥が来たかね」
レルシュトは良く知っている鳥らしく、春祭りを告げる鳥、と言った。
「にゃぁん?」
ザージュは不思議そうにディルナの剣幕と、レルシュトの言葉を聞いている。
「もう数日で、王宮で春祭りが催されるのだよ。出かける準備をするかね?」
「王宮の春祭りに参加できるの?」
ディルナの言葉に、ザージュも、にゃぁ? と、首を傾げて訊いている。
「勿論。では、我が輩も、ディルナも、ザージュも、めかし込んで出かけるとしよう」
「先ずは、ディルナのドレスを作ろうか」
空間をちょっと弄る仕草をしていたレルシュトが、水色のドレスのようなものを取り出す。
更に、掲げながら、何やら、独り言のような言葉を呟いていたが、暫くすると白いレースが、ふんだんに飾られたり、丈が伸びたり、布地の光沢が増したりしていた。
「どれ、ちょっと試着してみてくれ」
レルシュトの言葉が聞こえた途端に、近くで見て居たディルナに、ドレスは着せつけられている。
だいぶ、胸元が開いていて、鎖骨や背中や肩が少し露出している。腰から上はレース素材で造られていて白く、胸は小さいのだけれど、白いレースの飾りがふんわりと、補っていてくれる感じだ。袖は長袖で、枷から変わった白レースもドレスの一部のようだ。
「わぁ、すごいドレス!」
少し身体を捻ると、豊かな布地のドレスのスカート部分が、ふんわりと綺麗に拡がった。
腰は細く絞られ、丈は長い。腰の辺りは水色で、裾へ行くにしたがって鮮やかな青に変わっている。レース飾りと、フリルがふんだん。腰から裾へとかけて大きく拡がって行く感じで、相当豪華だ。足元は隠れて見えないが、スカートをちょっと摘まみあげてみると、少し踵の高い、編み上げサンダルを履いている。
「ボク、下僕なのに、こんな、お姫様みたいなドレスで良いんですか?」
「勿論だ。良く似合っているぞ。ルバス家の者として参加するのだから、めかし込んで貰わねば困る」
黒猫の顔に、嬉しそうな笑みを浮かべ、ディルナの姿に満足そうにしながらレルシュトは言った。
「とても、首飾りが映えて素敵だ。ちょっと鏡を出してみようか」
レルシュトが思案気にすると、大きな姿見の鏡が、ディルナの前へと現れた。
「頭には、こんな感じか」
レルシュトは呟きながら、生花に似た、不思議な青い色の花々と、白いレースがタップリ飾られているヘッドドレスを、ディルナの頭に乗せた。
「うわぁ、すごく派手すぎませんかね?」
少し癖のあるディルナの金の髪に、飾りは美しく映えている。
「いやいや、よく似合ってる」
「ディルにゃ、かわいい。すごくきれいにゃ!」
「我が輩たちも、正装を試着しておこうか」
レルシュトの言葉に、ザージュは、少し腰の引けた様子だ。
「正装は窮屈にゃぁ」
着たいけれど、窮屈なのは嫌なのか、少しザージュは抵抗していたが、レルシュトと一緒に、直ぐに、正装だという、着衣の姿になった。
正装だと言うが、見たこともない、不思議な服装だった。
何より驚きなのは、すらっとした姿形過ぎたことだ。
「レルシュト様、ザージュ様、そんなに細身だったんですか!」
レルシュトも、ザージュも、普段の体型とは似ても似つかない状態に仕上がっている。
殆ど、人間と変わらないような身体の線だ。
ディルナは驚きに、青い瞳を、まん丸にしてレルシュトとザージュを交互に見ていた。
銀色のように見える、ピッタリとして固い印象の裾の長い上着は、腰の辺りに向けてかなり絞られている感じだ。上着の下に白いシャツを着て不思議な形の襟に、ふんわりとしたスカーフが飾られていた。
全体的に、長めの逆三角形のようで、細く長い感じの黒いズボンの脚が裾から覗いている。
黒い靴もお洒落だ。
「まぁ、正装の時は、少し変身しているような感じかもしれんな」
普段、丸い感じの黒猫に見えていたのは、よほど長毛種で毛が長いのか? と、ちょっと動揺していた感じのディルナは、変身、と聞けば少し納得感があった。
「窮屈だにぁ、でも、慣れにゃぃといけにゃぃんだにゃ」
ザージュは、ぶつぶつと、自分に言い聞かせているようだ。
「わぁ、この格好で、馬車に乗って出掛けるんですよね? 長いドレスの裾捌きが大変そうです」
めかし込んだ姿は、自分でもウットリしてしまうような感じだったが、少し長旅なのは気になった。
「ドレスの扱いは、そんなに心配しなくても、ドレスがなんとかしてくれるから大丈夫だ」
レルシュトが不思議なことを言っている。心配しなくて良さそうらしいことに、ちょっとだけ安心し、後は、ワクワクしながら春祭り当日を待つ感じだった。




