第27話 秋と冬の額縁
ディルナは、拾い集めたものを使って、二つの額縁を作った。
一つは、鮮やかな青の背景布の周囲から、赤やオレンジが鮮やかな紅葉の葉を配し同色の糸で留め、真ん中には、まるで銀杏の樹が在るような雰囲気に、黄色の葉を糸で留めて配してみた。
あの、馬車で出かけて行った日のことが、鮮やかに甦ってくる。
もう一つは、この間、霧の後で、庭の片付けに出た時に拾った葉の無い小枝だ。紙に挟んで、書庫の厚い本で重しをしておいたものを、使ってみた。ちょっと暗い灰色の背景布に、雪の結晶に似た形のレース編みのモチーフを、適宜配し、中央に小枝を沢山、糸で留めて配して冬の森のような雰囲気にしてみた。
さらに、手前側の端に、やはり霧の時に拾った山茶花の葉と、白い花を一輪、配した。
額縁は、貼り付ける板と透明な板との間に空きがあり、立体的なものを飾ることができるようになっている。
「ちょっと、額縁見てもらってもいいですか?」
重そうにしながら、二つの額縁を抱えて居間へと入ると、レルシュトと、横で眠そうにトロトロとしていたザージュが、同時に黒猫の顔を向けてきた。
「額縁?」
レルシュトは不思議そうにしながらも、ディルナが額縁を抱えているので、頷く仕草をした。
「屋根裏部屋に飾ろうと思って作ってみたのだけど、レルシュト様と、ザージュ様にも、見て頂きたくて。これです」
ディルナはレルシュトとザージュに、少し歩み寄ると、鮮やかな秋の景色と、色彩のほとんど無い冬の景色の額縁を見せた。
「おお、これは美しいな! 拾った落ち葉や、枯れ枝で作ったのか! 一輪の山茶花も美しいが、何より、レース編みが綺麗だ」
「すごいにゃ、ディルにゃ! 秋の森と冬が、閉じ込められてるにゃ!」
レルシュトもザージュも、驚きの声を上げてくれた。ザージュは、椅子から飛び降りると、極近くまで来て、じっと眺めている。
「春と夏のものも、作ってみたいかなぁ、と思って、額縁は確保させて頂きました!」
ディルナはレルシュトとザージュの反応に、頗る嬉しそうに笑みを浮かべて言った。
「とても気に入ったよ。ディルナ、これは居間に飾っては駄目かね?」
レルシュトは、是非に、という気配を漂わせつつ、ディルナに訊く。
「え? 居間に飾って頂いちゃっていいんですか?」
驚きに、ディルナは、瞳を丸くした。
「勿論だ」
ディルナの言葉を了承と受け取ったようで、レルシュトは頷いた。ディルナの手から、額縁はふわりと浮かび上がって、居間の丁度良い場所へと直ぐに飾られる。ちゃんと、春と夏の額縁の場所も同じように飾ってくれるつもりらしく、場所が確保されている感じだ。
「ふむ。凄く良いではないか!」
感嘆した様子でレルシュトは言う。
「素敵だにゃ!」
ザージュは、羽根を出さずに浮かび上がって、二つの額縁を交互に見て居る。
「これは、春や夏が楽しみだな」
ワクワクとした気配が、レルシュトからも、ザージュからも感じられて、ディルナはすっかり嬉しくなっていた。
「はい! 春と夏にも、頑張って、何やら拾い集めてみますね!」
春は、きっと綺麗な花びらが一杯、拾えるだろう。夏の緑や、色鮮やかな花たちも楽しみだ。
「愉しみだな。是非、四枚並べたいものだ。場所は確保したから、思う存分、楽しんで作ってくれたら良い」
地下室の片付けと並行して、小物用の巾着袋や、小さな手提げ袋も、ディルナは作っていた。編み物でも時々、裁縫の方法が必要になることもあって、ラハイカが、序でに、教えてくれていた。
特に、袋の縁などに極細の糸でレース飾りを編み付ける方法は、とても気に入っていた。
小さな宝石のような小物を入れる、小さな巾着袋にレース飾りを編み付けたものは、特に作るのが楽しくて、小箱に沢山溜まっている。
ラハイカが揃えてくれた裁縫道具は、とても豪奢で、ちょっと使うのが怖いほどだった。どうやら、それは、レルシュトが、膨大な額の授業料をラハイカに支払ったせいらしい。ディルナには内緒、とのことだったらしいが、ラハイカは、そっと教えてくれた。
「レルシュト様、裁縫道具もなんですが、色々な装飾とか、カーテンを留める金具の部分とか、食器の飾りなんかも、金色の物が多いんですね?」
ある時、ちょっと不思議に思って聞いてみた。
裁縫道具のハサミや、針、糸巻きも金色だ。食事をする時の、スプーンや、フォーク、ナイフも金色だった。
お茶を飲む時のカップの、手で持つ部分や、砂糖入れも金色だ。
「妖精界には、鉄が持ち込めないからね。その分、昔から、金細工が多い感じだよ」
「え? この金色のもの、もしかして、全部、金なんですか?」
ディルナは、裁縫箱の中の、ハサミや針を思い浮かべた。編み物の時の、かぎ針は毛糸用は木製だが、レース編みの繊細な細いかぎ針も金色だ。
「我が輩の屋敷の中で金色のものは、金細工がほとんどだ。人間界では、相当、金の価値が高いようだが、妖精界では、割と一般的なものだよ」
「うわぁ、そうだったんですね。金に似た何かだとばかり、思ってました! こんなに金細工のものばかり、使わせていただいて申し訳ないです」
揃えてもらった裁縫道具も、編み物の道具も、大切には扱っていたが、金製品だとは思っていなかった。
「はは。そんなに畏まらなくても大丈夫だ。妖精界では、金以外の物で作る方が、大変なのだよ。ディルナは、どんな物も、大事に扱ってくれているし、問題はないぞ?」
レルシュトは、黒猫の顔に、優しい笑みを浮かべて、光る緑色の眼でディルナを見詰める。
「これが、金なんですねぇ。随分、美しいものだなぁ、と、思っていました」
手にしていた針やハサミを見遣って、思わず何度も眺めてしまう。
人間界では、ディルナは噂を聞くばかりで、実際に金に触れたことはなかったと思う。
「我がルバス家は古い家柄であるし、名門だからな。倉庫には、金細工の置物なども眠っているぞ? そのうち、手入れも兼ねて、鑑賞会でもしてみるかね」
そういえば、何百年も日の目を見ていないかもしれないな、と、レルシュトは思案気に呟いている。
「うわぁ、金細工の置物なんて、想像もできないです。手入れするにも、手が震えますね、きっと」
妖精界では、物が汚れたりはしないようなので、たぶん、倉庫の中でも、綺麗な状態で眠っているとは思う。
「そうだな、祭りなどの機会に、飾ってみるのも良いだろうから、楽しみにしていてくれ」
「はい! きっと感動すると思います! ちょっと触るのは怖いですから、離れて鑑賞します」
聞いただけで、だいぶ、ドキドキしながらも、想像を超えた品が鑑賞できる日が、とても楽しみだった。




