表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

第21話 夢魔の誘惑

 冬になって、妖精界でも陽は、とても短くなっていた。

 階下に降りてゆく時は、なるべくこまめにカーテンを閉めていたのだが、その日は、閉め忘れたまま階下で長い時を過ごしてしまっていた。

 夕食後、屋根裏部屋に戻った時には、すでに外は真っ暗で。扉を開けて部屋へと入った途端、カーテンの開いた、真っ暗な外が見えてしまった。

 

 慌ててカーテンを閉めたけれど、透明な窓の外に居た何かと目が合った気がする。

 

 眠るまでの間も、ずっと、何か、ざわざわした感じがしていた。

 そして、その夜、ディルナは闇の世界へといざなわれる夢に、ずっとうなされ続けた。

 

「……いやです、いや!」

 

 自分の寝言が、少し遠くに聞こえる。

 朝、飛び起きるまで、ずっと、とても怖い夢の中にとらわれていたようだ。

 妖精界に来て以来、怖い夢を見たのも、魘されたのも初めてで、怖くなって急いで支度(したく)を調えると、階下へと駆け足で降りていった。

 

 

「凄く、怖い夢、見ました。もう覚えてないけど、ずっと魘されてた気がします」

 

 レルシュトの顔を見て、大分安心はしたのだけれど、まだ怖くてドキドキした嫌な感じは身体の中に残っていた。

 

「それは、また珍しいね」

 

 どうしたんだろう? と、レルシュトは肉球のある手で、ほわっ、とディルナの頬に触れてきた。

 

「昨日、カーテン閉め忘れたまま夜になってしまって。部屋に戻って、慌てて窓を閉めたんですけど、何かと目があってしまったみたいで」

 

「なるほど。夢魔と目が合ってしまったんだな」

 

 触れたことでか、それともディルナの言葉でか、レルシュトは怖い夢の正体に気付いたようで、そんなことを呟いた。

 

「夢魔?」

 

 透明な窓越しに目が合ったと思ったのは、気のせいではなかった、と思うと、余計に、ぞわっ、と、寒気がする。ディルナは自分の身体を抱きしめるようにしながら、フルフルっと身を震わせた。

 

「視線が交わってしまった分だけ、夢の欠片(かけら)を受け取ってしまったのだろう。だが、まぁ、この屋敷に入って来られたわけではない。魔除けすれば大丈夫だろう」

 

「魔除け、ですか?」

 

「余り強い魔除けだと、他の妖精や精霊も近づけなくなってしまうから、ほどほどのものを、ディルナの部屋の窓辺に置くのが良いだろうな」

 

 レルシュトは思案気にしながら、そんなことを呟いた。

 

「たぶん、ディルナが片付けている地下室の中に、丁度良いようなものがあるだろう」

 

 ほどほどの魔除けになりそうな小物が地下室にあったろうか? と、ディルナは、今までに整頓した分を、ちょっと思い起こしながら首を傾げる。

 

「地下室に探しに行こう。魔除けを置いたら、後は、夜になる前に、カーテンを引いておけば心配ない」

 

 レルシュトは地下室に魔除けになるものがあることを確信しているようだった。

 

「はい! カーテンは、下に降りてくる時は、必ず閉めます! 怖かったです」

 

 ディルナは強く誓うように言う。それでも、レルシュトの言葉が心強くディルナをなぐさめてくれていて、ざわつく気持ちも、だいぶ楽になってきていた。

 

 

 

「ああ、これあたりが、丁度良いのではないかな?」

 

 片付けが途中になっているテーブルの上の小物の中から、レルシュトが小さな籠を引っ張り出しながら言った。

 紫のキラキラの宝石でできているらしい小花が、持ち手つきの小さな白い籠に盛られている感じの、手のひらに握れてしまうほどの小ささの置物だ。

 

「魔除けのブーケ」

 

 試しに、何時ものように羽ペンとインクと紙とを取り出すと、紙にはそんな風に名前が書かれたので、ディルナは読み上げた。

 魔除け効果は弱めだけれど、幸運を運ぶ働きがある、と、説明の紙の方には書かれている。

 

「身につけてしまうと、近寄れなくなる妖精や精霊が居るだろうから、窓辺に置くのが良いだろう」

 

 魔除けの効果は弱め、と、ブーケ本人は言っているけれど、レルシュトの言葉を聞けば、それなり強い効果があるらしい。

 

「これ、身につけるには、ちょっと無理がありますし、窓辺に飾ったら、とても綺麗です! 良く、丁度よさそうなものを、見つけられましたね?」

 

 地下室の片付けは、折りを見ながら、結構、せっせと行っているのだが、まだ、相当、雑然としている。特に、レルシュトが引っ張り出してきたのは、一番、混雑している辺りだ。

 

「ふむ。その昔に、似たような事例があった折り、紫の石のブーケが使用されたと聞いたことがあったから、目星はついていたんだよ」

 

「そうだったんですね! ありがとうございます。これで安心して眠れます」

 

 

 

 魔除けのブーケを手に、陽が沈んでしまう前に、と、まだ朝なのに、ディルナは慌てて、屋根裏部屋まで駆け上がって行く。

 レルシュトは、心配してくれているのか、階段を上るのではなく、宙を浮かびながら、ディルナについてきていた。

 

 屋根裏部屋まで辿り着き、今は閉めている素敵な織りのカーテンを真ん中から左右に開ける。

 腰の辺りの高さで、台形に張り出す出窓は、三面に透明な板がめられていて、今は明るい外の景色を見ることができた。

 

「うわぁ、これ、とても綺麗です!」

 

 出窓の窓台へと、魔除けのブーケを置くと、外からの淡い光を受けて、透明な紫の宝石の小花がキラキラと光を宿す。

 

「ふむ。これで、安心だな。夢魔が覗き込むことも無いだろう。ディルナの中に在った、夢魔の夢の欠片も、取り除いておいたから、嫌な夢はないで済む」

 

「わぁ、レルシュト様、有り難うございます! 夢の欠片、取り除けるなんて凄いです!」

 

 ディルナの頬に触れた肉球の感触を思い出し、心が温かくなる感じだった。

 

「出窓には、たまに、地下室から小物を選んで、少しずつ追加で飾るようにするのが良さそうだね。ここは、空に近い分、どうしても、色々、通りかかりやすいからな」

 

 しかし、手頃な部屋はしかないしなぁ、と、レルシュトは思案気だ。

 

「そうなんですね。わかりました。何か見つけたら、レルシュト様に、ここに置いても大丈夫か聞きに行きます」

 

 ディルナは、この屋根裏部屋がとても気に入っていたので、小物を置くことで安全に過ごせるなら、と、地下室の片付けの頻度を高くすることを心に誓っていた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ