【番外編一話】王都への凱旋と、羨望の眼差し
「――綺麗だ、エレナ。やはり、このドレスを選んで正解だったな」
馬車のシートに腰掛けたギルバート様が、私の姿を見て満足げに微笑みました。何この顔面国宝、眼福すぎて直視できません。
今日は王都の城で開かれる、年に一度の「建国記念パーティー」です。
私が身にまとっているのは、アスラン領特産の最高級の絹を使い、夜空の星屑を散りばめたような深い紺色のドレス。胸元には、ギルバート様から贈られたあの青いダイヤモンドのブローチが、国宝レベルの輝きを放っています。
「ありがとうございます、ギルバート様。でも……本当に私が王都の夜会になんて出て、良かったのでしょうか?」
ふと、過去の記憶が脳裏をよぎります。
ちょうど一年ほど前。この同じ王宮の夜会で、私は元婚約者のセドリック様から見放され、実家からもゴミのように追い出されたのです。あの時の、周囲の貴族たちの冷ややかな嘲笑は、今でも完全には忘れられません。フラッシュバック案件です。
私の不安を察したのか、ギルバート様はそっと私の手を握り締め、その手の甲に熱い唇を落としました。待って、デフォルトで糖度高すぎでは?
「何も心配することはない。今のお前は、我がアスラン辺境伯家の堂々たる正妃であり、領地を救った奇跡の調香師だ。お前を嘲笑う者など、この俺が一人残らず物理で凍りつかせてやる」
「ふふ、頼もしいですね。……はい、お隣にふさわしい妻として、胸を張ります」
冷気パッシブスキル持ちの旦那様が心強すぎて草。
馬車が王宮の正面玄関に到着し、扉が開かれます。
ギルバート様の手を借りて私が一歩を踏み出した瞬間、周囲にいた貴族たちから、一斉にハッと息を呑む気配が伝わってきました。
「おい、見ろ……。あの上品で美しい貴婦人は、一体どこの……」
「馬車の紋章は、アスラン辺境伯家だ! ということは、あの御方が、数か月前に就任されたという噂の……!」
ざわざわと広がる驚きの声に包まれながら、私たちはきらびやかな夜会会場(かつての処刑場)へと足を踏み入れました。
大きな扉が開かれ、私たちの名前が読み上げられます。
「ギルバート・フォン・アスラン辺境伯閣下、ならびにエレナ・フォン・アスラン辺境伯夫人、ご入場です!」
その瞬間、会場の視線が津波のように私たちに集中しました。
一年前、私を「無能の日陰者」と呼び、泥を投げつけるような視線を向けていた貴族たち。しかし今、彼らの瞳にあるのは、軽蔑ではなく――圧倒的な羨望と、恐れ多そうな敬意でした。手のひらクルックルですね。
「お久しぶりでございます、アスラン辺境伯閣下。そして……エレナ様」
真っ先に私たちのもとへ歩み寄ってきたのは、国内の全魔術師を統括する最高権力者、ヴィンセント公爵閣下でした。完全に前回の詰みイベントのボスです。
かつて実家のボルドー伯爵家を奈落の底へ突き落とした公爵様は、私に向かって、これ以上ないほど丁重に一礼をしました。
「エレナ様、我が妻の呪いを完全に癒やしてくださったこと、改めて深く感謝いたします。アスラン領から届いた貴女の『癒やしの化粧水』のおかげで、妻は今、見違えるほど元気になり、毎日のように貴女の調香術を絶賛しておりますよ」
「公爵閣下、お役に立てて光栄です。奥様が健やかにお過ごしであれば、調香師としてこれ以上の喜びはありません」
私が完璧な淑女の礼を返すと、周囲の貴族たちから「おお……」と感嘆の声が漏れました。完全に内政無双のバフがかかってます。
「なんて美しい所作なんだ……。かつてボルドー家が『無能』と触れ回っていたが、あれはとんだ大嘘だったな」
「本物のガチ天才を追い出すなんて、ボルドー伯爵もセドリック令息も、見る目がなさすぎたな。今やあの一族は見る影もないというのに。乙」
ヒソヒソと囁かれる、かつての悪役たちへの嘲笑。
今や実家のボルドー家は跡形もなく没落し、セドリック様も僻地へ流刑となっています。この会場の誰一人として、彼らを哀れむ者はいません。これぞ、なろうの世界における完全なる「ザマァ&手のひら返し」の極みでした。メシウマすぎる。
次から次へと挨拶を求めて行列を作る高位貴族たち。
しかし、ギルバート様は私の腰をグッと引き寄せ、氷のように冷たい視線で周囲の貴族たちを牽制しました。独占欲重めモード突入です。
「挨拶はそのくらいにしてもらおう。我が妻は、長旅で疲れている。これ以上エレナを疲れさせる者は、容泄なく我が領の特産である『氷漬け(物理)』にするが、構わないか?」
「ひっ……! 失礼いたしました!」
怯えた貴族たちがクモの子を散らすように下がっていくのを見て、私は思わずクスリと笑ってしまいました。
「ギルバート様、あまり皆さんを脅かさないであげてください」
「俺はお前と二人だけの時間が欲しいんだ。こんな退屈な夜会より、アスラン城の調香室で、お前の作ったアロマを嗅ぎながら語り合う方が、何百倍も有意義だからな」
ギルバート様は、周囲の目を一切気にすることなく、私の耳元に低音ボイスを寄せて甘く囁きました。ギャップ萌えで私のライフはもうゼロです。
「ええ……。私も、早く私たちの家に帰りたいです」
一年前、すべてを失った絶望の舞台。
しかし今、私は世界で最も強くて過保護な旦那様に守られ、完全なる勝者として、新しい幸福な未来へと歩き出すのでした。




