陣内狂介の視点
陣内狂介の視点
陣内狂介は、見知らぬ民家の布団の中で静かに目を覚ました。
「……んあ? …うそだろ、どんだけ寝るんだよ、俺」
枕元のスマホを見ると、表示されている時刻は【午前11時00分】。思わず苦笑いが漏れた。
狂介はずば抜けて頭が良かった。これまでの人生、まときに勉強の努力なんてしたことがない。どんな難解な数式も知識も、一度見聞きすれば一瞬で脳に焼き付き、習得できてしまう天賦の才能を持っていた。このイカれた殺し合いのゲームが終われば、特待生としてどこかの大学へ進学することはきまっていた.。
昨日の1日目は、初期装備に入っていたメモを頼りに島内を歩き回った。途中、野口七海と遭遇した時は流石にビビった。服や顔に返り血がベットリとこびりついていて、「あ、こいつ確実に人殺してるわ」と察して距離を取った。
その後、午後22時頃にこの民家へと辿り着いた。危険だと知りつつも家の電気を点け、化学薬品の捜索を開始。昨日だけでシアン化カリウム(青酸カリ)、濃硫酸、発煙硝酸、ホスゲン前駆体という凶悪な危険化学薬品を4つも獲得していた。さらに棚から運良く睡眠薬も見つけたため、それを飲んで爆睡していたわけだ。
(まあ、この民家にはカップラーメンもあるし、化学薬品セットを強化する薬品もゲットできたからな。玄関と裏口には衝撃感知式の化学トラップを仕掛けてあるし、完璧だろ)
布団から起き上がると、キッチンでカップラーメンを2杯平らげた。便所を借り、ちゃんとトイレの水も流す。この島に来て分かったが、電気や水道といったインフラは驚くほど生きている。政府から渡された端末は島外の外部とは連絡が取れないよう遮断されているが、参加者である同級生同士なら連絡が取れる仕様だ。さらにAIに尋ねれば自分の位置情報や、道端に生えている知らない薬草の種類まで一瞬で教えてくれる。
「あ、出遅れた。チェックポイント確認しなきゃ」
スマホのアプリを開き、2日目のチェックポイントを確認する。
「……え、ラッキー。俺が潜伏してる家の、すぐ前の家じゃん」
気になっていたのは、起きた時からずっとプロペラ音がしていることだ。2階へ上がり、窓の隙間から外を覗き込む。空を迂回するように巡回していたのは軍事ドローンだった。
(これじゃむやみに外に出られないじゃん……。でも、あと2、3時間もすればどっか行くだろ。ドローンの遠隔操作ってめちゃくちゃ神経使うしクソしんどいからな。プロでも連続8時間が限度だ。どこの誰だか知らんが、いつまで操作し続ける気だよ)
――午後2時00分。
予想通り、ドローンはどこかへ去っていった。
「よし、とりあえずチェックポイント済ませようかな」
そう思った矢先、窓の下の路地に九条グループの集団が姿を現した。
(あぶねっ……!)
さらに、別の角から豪島剛までもが現れる。
(うわ、厄介な不良が集まってんじゃん……早くどっか行ってくれよ)
九条グループがチェックポイントの民家から出てきたのを見下ろしながら、狂介は息を殺した。罠でも仕掛けられていないか観察していると、一瞬、九条頼斗と目が合ったような気がした。
(マズィ....目があったか?)
タァン! タァンッ!!
直後、近くで弾けた2発の凄まじい銃声。
(うわっ、ビビった……! なんで九条らはチェックポイントの前から動かないんだよ、めんどくさいな)
これ以上居座られては自分のチェックポイント通過に支障が出る。狂介は昨日作っておいた「衝撃を加えると猛毒の紫煙を噴射する袋」を取り出すと、窓の隙間から路地へと投げ落とした。
ガラガラッ……!
地面に落ちた袋から勢いよく吐き出された致死性の毒煙。
「カハッ……!? ぐっ……あ……がぁあぁッ……!!」
煙の直撃を食らった安藤葵と松本翔平が、喉を掻きむしり泡を吹いて即死した。九条たちは九条自身の異常な直感のおかげで毒煙を回避し、狂介の顔も見られないまま走り去っていった。
(ふぅ……顔は見られてないよな? 九条たちが動き始めてくれたからラッキーか。じゃあ30分後くらいに出よう)
安藤と松本が死体をここに置いておくことで、逆に周囲には誰も近づかなくなり、チェックポイントの危険度は大幅に下がるかなと考えていた
――午後2時40分。
狂介は静かに民家を出ると、すぐ目の前の家でチェックポイントの通過認証を済ませた。
路地に転がる安藤と松本の死体をチラリと見る。その皮膚には、狂介の作った毒の効果によって全身に凄まじい大量のイボが浮き上がっていた。
「うわ……えぐいな。」
もう2人死んだしチェックポイントも認証した。あとは今日止まる宿を探すだけだ
「…まあいいや、今日もここに泊まろうかな」
頭脳明晰な化学の天才・陣内狂介は、何事もなかったかのように再び自分の潜伏先へと戻っていくのだった。




