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豪島剛の視点

午後2時を回った頃、上空を不気味な重低音で旋回していたあの謎の軍事用ドローンが、ゆっくりと街の中心部から遠ざかっていった。


豪島剛(ごうじま たけし)は、物陰で荒い息を吐きながらその去り際を見送った。


(……チャンスだな。いや、考えることは誰も一緒か。まあいい、なるようになれだ)


命のやり取りが繰り広げられるこの狂った島で、剛の感情はどこか奇妙に冷めていた。

死ぬときなんて、人は呆気なく死ぬ。命なんてそんな大層なものじゃない。


脳裏に浮かぶのは、実家で飼っていた愛犬・太郎のことだ。ある朝起きると、太郎は寝ている姿勢のまま静かに冷たくなっていた。まだ7歳。犬の年齢としても若すぎる最期だった。命なんて、呆気なく終わる時は終わるのだ。


「ふぅ……行くか」


剛は大きく息を吐くと、支給されたアサルトライフルをしっかりと抱え直し、勢いよく路地へと飛び出してチェックポイントの民家へ向かって走り抜けた。


――だが、玄関前には先客がいた。


九条頼斗と、その部下たちだ。


剛は即座にアサルトライフルの銃口を九条の胸元へ向け、構えた。

すると九条は嫌みなくらい滑らかな動作でひょいと両手を挙げ、降参のポーズを取ってみせた。


「おっと、熱くなるなよ豪島。どうする? 先に入るか、後に入るか……お前が選んでいいぜ」


余裕を崩さない九条の態度に、剛の眉が不機嫌に跳ね上がる。


(弾を握ってる俺の方が圧倒的に優位だろ……なんでこんな余裕しゃくしゃくでいられるんだ、こいつは?)


見えない罠を警戒しつつも、剛は重い口を開いた。


「……じゃあ、俺が先に入る」


剛は背後に九条たちの動向を警戒し、アサルトライフルを前方に構えたまま、後ろ歩きでチェックポイントの民家へと足を踏み入れた。

室内に入った瞬間、スマホの画面にアクセス完了の文字が浮かび、10秒のカウントダウンが始まる。


『10……9……8……』


呆気ないほどの10秒間。スマホの完了通知を確認すると、剛は再びアサルトライフルを構えたまま、慎重にじりじりと外へ出た。


玄関の外では、九条が変わらぬ薄笑いを浮かべて立っていた。


「何もしないよ。言ったろ?」


「……フン」


「じゃ、次は俺たちが入るね」


九条たちがグループで家の中へ雪崩れ込もうとした、その直前――。

九条が立ち止まり、ひょいと剛の方を振り返った。


「そうだ豪島。坂井さんの提案、一緒に乗ろうぜ? 全員で協力してこのゲームを終わらせようって話だ」


「……はっ、お前らみたいな奴ら、信用できるかよ。俺は先に行く」


一刻も早くこの不気味な連中から離れたかった。

剛は吐き捨てるように言い放つと、九条たちに背を向け、チェックポイントの民家から速足で離れ始めた。


(坂井だの九条だの、どいつもこいつも裏で何考えてやがるか……)


思考に気を取られ、前方の注意がおろそかになっていた。


――ドンッ!!


曲がり角を曲がった瞬間、正面から走ってきた人物と激しくぶつかり合った。


「うおっ……!?」


衝撃でよろめく剛。だが、ぶつかった相手――鉄輝(てつき) 瑠璃(るり)は、謝ることも、会話を交わすことすらなかった。


彼女は叫び声すら上げず、手にしたバトルハチェット(手斧)を振りかぶり、なりふり構わず剛の首元へ斬りかかってきたのだ。


「なっ――!?」


あまりの急襲に、剛の思考が凍りつく。

焦りの中、剛は生身の反射神経だけで手にしていたアサルトライフルのトリガーをゼロ距離で絞り抜いた。


――タァン! タァンッ!!


銃創の爆音が至近距離で弾けた。

発射された2発の小銃弾が、瑠璃のお腹の真ん中に直撃する。


(やばい……撃っちまった……!)


殺すつもりなどなかった。だが、襲ってきたのは向こうが先だ――そう己に言い訳しようとした、まさにその一瞬。


ガゴッ――……。


剛の頭頂部を、重く鈍い破壊音が貫いた。


アサルトライフルの至近距離射撃を受けながらも全く体勢を崩さなかった瑠璃が、無表情のまま振り下ろしたバトルハチェットの刃が、剛の脳天へと深く突き刺さっていたのだ。


(あ……え……?)


視界が強烈なノイズと共に暗転する。

痛みすら届かない。全身の神経回路が一瞬で断ち切られ、まるでPCの電源プラグを唐突に抜かれたかのように――豪島剛の意識と命は、完璧にシャットダウンした。


バタリと地面に倒れ込む剛の巨体。


一方、お腹に2発のアサルトライフル弾を至近距離で食らったはずの瑠璃の衣服は、激しく破れて弾痕が残っているものの――そこから血の一滴すら流れてはいなかった。苦しむ素振りも、痛みに顔を歪める素振りすらない。


瑠璃はただ冷たく、平然とした無表情のまま、転がった剛の死体を見下ろしている。


やがて彼女は、剛の手から滑り落ちたアサルトライフルを拾い上げると、何事もなかったかのようにその場に佇んだ。

すぐ近くから、銃声を聴きつけた九条頼斗たちの足音と声が急速に近づいてくる――。

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