第2日目 午前10時00分――途絶えた連絡と疑惑の影
渡辺陸斗は、潜伏先の民家の暗がりで、スマホの画面を何度もタップしていた。
呼び出し音だけがむなしく響き、応答はない。チャットを送っても、既読すらつかない。
(颯太……なんで出ねえんだよ……!)
親友である時任颯太へ何度も電話やチャットを試みているが、一切の反応がなかった。
まさかもう殺されているのではないか――胸を押し潰すような激しい不安が襲う。
だが、午前8時00分に届いた運営からの死亡報告書(全15名)のリストを何度読み返しても、そこに『時任 颯太』の名前は入っていない。生きているはずなのだ。それなのに連絡が取れないという事態が、逆に陸斗の不気味な焦燥感を跳ね上げていた。
陸斗は力無く手を下ろし、手元にある異質な兵器――AI自動照準機能付き スマート・コンパウンドボウを握り直した。
内蔵されたカメラとセンサーがターゲットを捉え、風速や距離を自動計算して照準をアシストする最新鋭の凶器。
だが、壁に向けて何度か引き絞る練習をしただけで、まだ一度も人に向けて放ったことはない。最大の懸念は矢の残数だ。矢を消費すればただの粗大ゴミと化すため、今日のチェックポイントと矢の補充ができるかどうかが陸斗の死活問題だった。
(……俺以外の連中の武器が、あまりにも弱すぎる)
部屋の隅で身を縮めている3人の仲間たちに目をやる。
三浦大一(スモークボール2個)、石川薫、そして上野エリカ。エリカに至っては『防音ヘッドホン』という外れ支給品だ。
本来なら、連絡のつかない颯太や、ガタイがよくて正義感の強い中村陸と組みたかった。
だがゲーム開始直後のあの極限のパニックの中、急いで声をかけてかき集めたのがこの4人組だった。
――いや、昨日の昼までは5人組だったのだ。
時刻は午前10時00分を回った。
朝届いた死亡者リストに刻まれた『日向 葵衣』の名前を見るたび、昨日の惨劇が鮮明に蘇る。
昨日の昼、午後2時30分前。1日目のチェックポイントをどこにするかで、5人の意見は激しく対立していた。
気の強い日向葵衣は「走れば30秒の場所にあるんだよ!? 罠を掛けられる危険はあるけど、一番近くて魅力的じゃん!」と言い張り、譲らなかった。
押し問答の最中、目の前のチェックポイントへ坂井莉乃率いるグループが雪崩れ込んでいくのが見えた。
葵衣は「ほら! 大丈夫なんだよ! 坂井ちゃんたちが出ていってから30分後に入ろうよ! まず、私だけでいってくるね、失敗したら私が死ぬだけだし!」と笑い、陸斗の制止を振り切って30分後に駆け出していったのだ。
そして――玄関付近に足を踏み入れた瞬間。
――ドドォォォォォンッ!!!
坂井莉乃たちが仕掛けて放置した真壁の地雷(指向性跳躍地雷)が爆発した。
木造の玄関部分は一瞬で吹き飛び、柱は折れ曲がり、屋根が崩落。その地獄の中心で、葵衣の体は人形のようにバラバラに引きちぎられ、肉片となって飛び散った。
あまりの惨状に呆然とした陸斗たちは、明るい時間帯の移動を避け、夜の21時30分――安全を極限まで確かめながら2キロ離れた第二候補のチェックポイントへと命からがら逃げ延びたのだった。
(……ん?)
ふと、陸斗は隣に座る石川薫の異変に気づいた。
午前10時を過ぎても、石川の様子が明らかにおかしい。スマホの画面を何度も何度も見返している。画面を隠すように微妙に角度を変え、指先を小さく震わせているのだ。
(まさか……坂井莉乃からの『一緒に手を組もう』っていうあの気味の悪い誘惑チャットに、心が揺らいでるのか……?)
葵衣を爆死させた張本人かもしれない坂井グループからの手招き。
信じられる仲間など一人もいないという猜疑心が、陸斗の胸の中で黒く渦巻いていた――




