第2日目 午前9時45分――スコープ越しの死線
斉藤陽菜は、高台の物陰で腹ばいになりながら、本体だけでも14kgを超える超大型対物ライフル『シャイタック M200』のスコープを覗き込んでいた。
スマホに届いた2日目のチェックポイントマップと、目の前の全景を交互に確認する。
「……遠いな」運営から送られてきたチェックポイントは、街の中心部にある。
だが、その街の上空には黒い巨体――機関砲を搭載した謎の軍事用ドローンが、不気味なエンジン音を響かせて迂回飛行を続けていた。
「あのドローン操縦士……一体だれ? あんな目立つマネされたら、誰も街のチェックポイントに近づけないじゃない……」陽菜は呆れたように小さく息を吐いた。
上空を無慈悲に支配するドローンの操縦士が、同じクラスの漆原玲だとは夢にも思っていない。
彼女が手元に持っている「全チェックポイント候補(全6箇所)」のリストを見比べる。
街の真ん中のチェックポイントは、街の中に潜伏している人間にとっては一番近くて有利だろう。
だが、あの未知の殺人ドローンが制空権を握っている以上、あそこへ突っ込むのは自殺行為だ。
残りの候補は――昨日もチェックポイントだった『神社』、遮蔽物が何一つないただただ広い『海の浜辺』、足を滑らせれば即死の『崖』、そして遠すぎる『山の頂上』。
(どれかを選んで、リスクを冒して進むしかないか……)そう思って再びスコープへ目を戻した、その時だった。レンズの十字線の向こうに、街の路地を横切ろうとする圧倒的な存在感を持つ人影が飛び込んできた。
大柄な男。体重は100キロを軽く超えているだろう、全身が分厚い筋肉に包まれた男――中村 陸だ。頭には頑丈な工事用ヘルメットを被っている。
(的にしやすい体……的を絞ろう)陽菜の頭から迷いが消えた。射撃特化の冷徹な思考が、指先へ伝達される。
あの大柄な体躯なら、1キロ近く離れたこの場所からでも外しようがない。陽菜はためらうことなく、シャイタックの重いトリガーを絞り抜いた。――ズドァァァァンッ!!超大型対物ライフル特有の、腹の底を揺さぶる巨響が空間を削り取る。
超音速で放たれた10.3mm大型弾が空気を切り裂き、直撃――。バゴォンッ!!鈍い着弾音が遠く届く。確実に大男の胴体を捉えた。
しかし――中村陸の体は大きくよろめいたものの、倒れることはなかった。
男は驚異的な足取りで体勢を立て直すと、瞬時に家と家の狭い隙間へと滑り込み、姿を消した。(……防弾チョッキを着てるな)陽菜は即座に悟った。中村が着用しているのは、軍用クラスの特厚防弾チョッキ(中村陸の支給品:防弾・防刃チョッキ)だ。
シャイタックの弾丸をもってしても、距離と分厚い装甲によってシャイタックの弾丸でもつらぬけない。
(チッ……この距離だと、ヘルメットを狙っても一発で命までは奪えない。なら首? いや……いくら大男でも、1キロ先から首筋という極小のポイントを確実に撃ち抜くのはリスクが高すぎる)深追いしても弾の無駄だ。即座に切り替える。「仕方ない……私も危険を冒して、チェックポイントへ移動しよう」陽菜は大男が逃げ込んだ方向とは真逆、候補の一つである『神社』を目指すことに決めた。
この民家には、マニュアル(MT)の軽トラックが放置されているはずだ。車で移動すれば敵に見つかるリスクは跳ね上がる。
だが、重い対物ライフルと予備弾薬を背負って徒歩で長距離を歩くよりは、遥かに生存率が高い。
陽菜は巨大なシャイタック M200を素早く抱え直すと、愛する家族の顔を思い浮かべ、小さく呟いた。「お父さん……私、絶対に生きて帰るからね」少女の瞳に冷たい覚悟を宿し、彼女は高台の物陰から駆け出した――




