第2日目 午前8時00分――蠢く罠と違和感
スマホが短く、そして冷酷に連続で震えた。
運営――全システム統括を名乗る宮世琉弥からの、2日目朝の一斉アナウンスだ。
樋口錬児は潜伏している古びた小屋の影で、画面に表示された文字を無言で見つめた。
流れるようにスクロールされる死亡者リスト。
死亡者:全15名
その中に、知った名前が並んでいた。
『伊藤 桃香』
『有栖川 詩音』
『新井 心愛』
「……うそ、桃香ちゃん……? 詩音も、心愛も……!?」
隣で画面を覗き込んだ小渕詩織が、息を呑み、ぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。
昨日の段階で半ば覚悟はしていたが、やはり生きてはいなかった。仲の良かった女子たちが次々と消えていく事実に、詩織は肩を激しく震わせて泣き崩れる。
樋口の目が、リストのさらに下で止まる。
『岡本 健太』
(崖の下の倒れてたのはやっぱり岡本 健太だったんだ)
不可解な疑問が脳裏をかすめる。だが、思考を深める時間を与えることなく、次の通知が届いた。
『2日目 チェックポイント座標』
「ここからだと……直線距離で1キロはあるな」
昨日一日だけで15人が死んだ。全61名のうち、すでに4分の1が脱落している計算だ。明らかに、このイカれたゲームに『本気』で参加し、他人の命を狩りに来ている奴らが複数いる。
その時、樋口のスマホに不穏な個別チャットが飛び込んできた。
差出人は――坂井 莉乃。
思いがけない相手からの連絡に、樋口は思わず息を詰めた。
メッセージの内容は、『九条のグループとも手を組んで、みんなで力を合わせてこのゲームを終わらせよう』という、あまりにも白々しい提案だった。
(あの女が……そんな綺麗事を真面目に言うはずがない)
坂井莉乃。噂程度だが、彼女が裏でかなり悪どいビジネスに手を染め、女子生徒たちを支配しているという話は嫌でも耳に入っていた。この土壇場で「協力」などを持ちかけてくる裏には、間違いなく反吐が出るような企みがある。
樋口は坂井のメッセージを無視し、すぐさま別の人物へチャットを打ち込んだ。
対象は今井結衣。
『大丈夫か? 何かあったら、いつでも電話してこい』
短く送ると、続けて菅原宗政にもメッセージを送る。
すぐに菅原から返信が届いた。
『合流するのは、ちょっと待ってほしい。……それと樋口、気をつけろ。空を飛ぶ『ドローン』を武器にして人間がいる』
菅原の警告に目を見張った、まさにその時だった。
ババババババババババババッ―――!!
遠くの空から、空気を切り裂くような凶悪な連続爆音が鳴り響いた。
小屋の隙間から上空を仰ぐ。遠く離れた上空を、黒い影――機関砲を搭載した軍事用ドローンが滑空していくのが見えた。狙っているのは、1キロ先にあるあのチェックポイントの周辺だ。
(あんな巨大な兵器まで持ち込まれているのか……!)
背筋に冷や汗が伝う。
――その時だった。
――ギィッ……。
小屋の古びた木製の扉が、静かに開く音が響いた。
(はっ……!?)
樋口はハッと息を呑み、反射的に腰の化学兵器の容器に手を伸ばしかけた。
夜の間、誰かに侵入されないよう、扉の周囲には綿密なトラップを仕掛けてあったはずだった。
……だが。
ほんの数秒前までそこにあったはずの「扉が開く音」も、全身を駆け巡ったはずの「絶体絶命の悪寒」も、まるで最初から存在しなかったかのように、綺麗に霧散していた。
手元に残ったのは、首筋を撫でた僅かな「肌の粟立ち」と、言葉にできない不気味な違和感だけ。
(……なんだ……? 今の、妙な感覚は……)
樋口は呼吸を整え、意を決して小屋の隙間からそっと外を覗き込んだ。
トラップは何重にも無事なままだった。
そして、その数メートル先――近くの廃屋の陰へと、何事もなかったかのようにすっと滑り込んでいく一人の生徒の背中が見えた。
時任 颯太だ。
彼は一切の無駄がない動きで周囲を警戒しながら、チェックポイントとは微妙に異なる方向にある建物へと消えていった――。




