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恋愛請負人・鉄平完結編 ―最後の相手は女神様!? 異能バトル世界の恋愛ミッションに挑めー  作者: 強炭酸
一章 退魔師連合

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第5話 鉄平と女神様。鉄平に新たな力!?

 白い空間に、軽やかな音が弾んでいた。


 ぽん。


「ほっ!」


 ふわり。


「はっ!」


 ソフトバレーボールが、重力を忘れたみたいに宙を舞う。

 ここは神の領域。もっとこう、荘厳な鐘の音とか、金色の光とか、厳かな神託とかが似合いそうな場所のはずだ。


 なのに、今響いているのは。


 ぽん。

 ぱしん。

 きゅっ。


 ボールを受ける音と、俺たちの足音だった。


 ……神の領域、思ったより体育館寄りである。


「鉄平! パース!!」


「おっと! ……はい、女神様!」


 女神様からの急なトス。

 俺は慌てて足を動かし、腕に当てる。ふわりと浮いたボールは、女神様が打ちやすい高さへ戻っていった。


「やるじゃない、鉄平」


「女神様、たまに不意打ちでバレーしてきますもんね」


「まあね。下界のバレー見てたら、やりたくなっちゃって」


 女神様はさらっと言う。


 その顔は涼しげだったが、どこか満足げでもあった。

 たぶん、かなり練習している。


「そういえば、ヒロインの凛。すごかったんですよ。練習試合に出て、サービスエースを連続で取ってました」


「ふふん」


 女神様が、なぜかドヤ顔をした。


 いや、なぜあなたが誇らしげなんですか。

 でも気分は良さそうだ。鼻歌でも歌い出しそうな顔をしている。


 しばらくラリーを続けていると、体が温まってきた。

 白い空間に風はない。汗が肌にじわりと浮いて、タンクトップの内側に熱がこもる。


「ちょっと暑いですね」


 俺は上着を脱いだ。


 その瞬間。


 空気が、止まった。


「…………」


 女神様の視線が、俺の腕に刺さる。

 いや、刺さるどころじゃない。凝視だ。ガン見だ。完全にロックオンされている。


 俺は趣味で筋トレとダイエットを続けている。

 体脂肪率は一桁を維持。体質的に、それを保てる人間は少ないらしい。


 肩から腕にかけて、筋肉の線がくっきり出ている。

 前腕には血管が浮き、動くたびに皮膚の下で存在感を主張する。


 女神様の瞳孔が、明らかに開いた。


(こ、これは……!?)


 なぜか心の声が聞こえた気がした。


(えっちすぎる!!)


 カシャカシャカシャカシャカシャ。


「え、何の音ですか今」


 どこからともなく、シャッター音が連続で鳴った。

 神の領域にカメラあるの?

 いや、そもそもここ夢だよな?

 夢なのに盗撮って成立するの?


「……も、もう満足したから、上着を着なさい」


 女神様は顔を真っ赤にしながら、俺の方へ手をかざした。


 次の瞬間、俺の体がすうっと透けた。


「うわっ、体消える!!」


「大丈夫! 少し透けただけだから!」


「少し透けるって何ですか!?」


 手を見る。

 ちゃんとある。けど、向こう側の白い床がうっすら見える。

 怖い。普通に怖い。

 あと、透けているのに筋肉のラインだけ妙に見えている気がする。何その神仕様。


 女神様は、隠すまでもなく公言している。

 いわゆる筋肉フェチらしい。


 しかも、かなり業が深いタイプの。


「……一旦、上着着ますね」


「……ええ。わかったわ」


 女神様は頷いた。

 けれど、その目は名残惜しそうに俺の腕から離れない。


 いや、見たいなら言ってくれれば見せるのに。

 こっちとしては、女神様に褒められるならむしろ嬉しいまである。


 俺が上着に袖を通すと、女神様はようやく咳払いをした。


「おとぎ話に、『北風と太陽』という話があるわ」


「急にどうしました?」


「普通に筋肉が見たいと言っても、つまらないじゃない?」


「そうなんですね」


 どうやら女神様は、ただ見るだけでは満足できないらしい。

 雰囲気。流れ。偶然性。シチュエーション。

 そういうものを大事にしたいタイプの筋肉フェチ。


 つまり、ただのフェチではない。

 こだわりの強いフェチである。


「でも、体を透けさせるのはどうなんですか?」


「事故よ」


「絶対、故意でしたよね?」


「事故よ」


 女神様はきっぱり言い切った。


 白い空間に、またソフトバレーボールがぽんと跳ねる。

 神の領域は今日も平和だ。


 ♢


「ところで女神様……やっぱりここ、ギャルゲーの世界じゃないんですね」


 白い空間に、俺の声が少しだけ虚しく響いた。

 さっきまでソフトバレーボールが弾んでいた平和な神の領域が、急に現実味を帯びる。


 女神様は、あっさり頷いた。


「ええ。白狼を中心とした運命を、ギャルゲーっぽく可視化しているだけ。中身は術式バトルの世界よ」


「俺、戦えませんけど」


「あら? 『ギャルゲー主人公の友人』の力を使いなさい。あなたならできるわ」


「無茶振りが過ぎる!!」


 思わず叫ぶ。

 声が白い空間に反響して、余計に情けなかった。


 女神様は、やれやれと肩をすくめる。


「あら、私は過大評価なんてしていないわよ。この世界では、『制約(リミット)』を掛けた能力ほど強くなるの」


制約(リミット)?……」


「背負うリスクのことね。あなたは失敗したら即消滅するリスクをすでに背負っている。それに――」


 女神様が指先を払う。

 空中に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。


 見慣れすぎて、もはや嫌な汗しか出ない表示。


 ――禁じ手リスト。


【禁じ手リスト】


 ・SNS大量アカウントによる情報操作

 ・筋肉で誘惑

 ※ただし女神様が見たいと言った場合は例外

 ・マッチングアプリや合コンでの「運命の可視化」乱用

 ・ボイスレコーダーで教員を出し抜く


「今までの試練が懐かしいわね。通常ルールに加えて、追加される禁則事項を破れば即消滅」


「懐かしいっていうか、俺の黒歴史一覧じゃないですか」


 コンプラ違反から女神様の私情まで、実にバラエティ豊かな制約が並んでいる。

 特に二つ目。私情が強すぎる。


「命を掛けた制約(リミット)。弱いわけがない。あなたの力は、確実に進化しているの」


 女神様の声が、少し真面目になる。

 さっきまでの軽さが消え、白い空間の空気まで静まり返った気がした。


「とはいえ、『運命の可視化』って、白狼とヒロインの好感度を見たりするサポート能力じゃないですか」


「違うわ。『運命の可視化』の本質は、“見る”こと。そして“見られる”こと」


「見る……見られる……?」


「さっき、自分で透明になっていたでしょう?」


「あれ、俺の能力だったんですか!?」


 完全にギャグ描写だと思っていた。

 女神様が筋肉を見すぎて、勢いで俺を透けさせたのかと。


「透明化は、あなたの力よ。ただし、制約を掛ける。息を止めている間だけ」


「息を止めている間だけ……」


 一瞬、喉が詰まるような感覚がした。

 使える。けれど、長くは使えない。

 少しでも判断を間違えれば、ただの無防備な的になる。


「それと、鉄平。あなた、“未来予知”をしたことがあるでしょう?」


「……ええ」


 胸の奥が、ひやりと冷えた。


 思い出す。

 以前、運命の可視化が暴走したことがあった。

 担当していた主人公が、ヒロインを悲しませる未来を見た。


 その未来を避けるために、俺は今を傷つけた。

 間違っていない。そう思いたかった。

 けれど、あのときの重さは、まだ体のどこかに残っている。


「未来予知は、遠い未来ほど反動が大きいわ。一発で廃人コースもありえる。だから、数秒先までにしなさい」


 女神様がもう一度、ウィンドウを操作する。

 禁じ手リストの下に、新しい項目が追加された。


【禁じ手リスト】


 ・SNS大量アカウントによる情報操作

 ・筋肉で誘惑

 ※ただし女神様が見たいと言った場合は例外

 ・マッチングアプリや合コンでの「運命の可視化」乱用

 ・ボイスレコーダーで教員を出し抜く

 ・透明化 ←NEW!!

 ※息を止めている間のみ使用可能。

 ※えっちなことに使用は禁止。

 ・未来予知 ←NEW!!

 ※目を閉じている間だけ使用可能。

 ※えっちなことに使用は禁止。


「これは……」


 禁じ手リスト。

 ただの罰則表だと思っていた。

 でも違う。


 これは、能力を縛るためのリストであり、同時に能力を使える形へ落とし込むためのカスタムリストでもあったのだ。


「あえて禁止した方が使いやすいものは、今後も相談して調整しましょう」


 (……それに、いずれ『前世の力』が目覚めるかもしれないしね)


 女神様はそう言ったあと、なぜか急にもじもじし始めた。

 視線が泳いでいる。


「あと……」


「はい」


「えっちなことに使っちゃダメよ」


「しませんよ!」


 そこは真顔で言わせてほしい。

 俺の命、そんな使い方で賭けたくない。


 ♢


「じゃあ、早速試してみましょうか」


 女神様が軽く手をかざす。


 その瞬間、足元から淡い光が広がった。


 白い空間の床に、円を描くような紋様が浮かび上がる。


 音はない。


 けれど、空気だけが変わった。


 肌に薄い膜を一枚かぶせられたような、奇妙な感覚。


 外の世界から切り離された、訓練用の結界。


 俺は思わず喉を鳴らした。


「息を止めて念じて、“透明化”。目を閉じて念じて、“未来予知”よ」


「……はい」


 息を吸う。


 肺に、白い空気が満ちる。


 鼓動が一つ、やけに大きく聞こえた。


透明化(ステルス)


 念じた瞬間、指先から自分の輪郭がほどけていくような感覚があった。


 腕が消える。


 足が消える。


 胸元も、制服の袖も、視界の端からするりと抜け落ちる。


 自分がそこにいるのに、そこにいない。


 気味が悪い。


 けれど、不思議と体はちゃんと動く。


 続けて、まぶたを閉じた。


未来予知(ヴィジョンアイ)


 暗闇が広がる。


 ただの暗闇じゃない。


 水の底に沈んだみたいに、音が遠くなる。


 白い空間の気配も、女神様の息遣いも、すべてが薄く引き伸ばされていく。


 その奥に、ほんの少し先の未来が浮かんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ――女神様が、指を鳴らす。


召喚(サモーニング)


 ぱちん。


 軽い音。


 次の瞬間。


 頭上から、ありえないほど巨大なバランスボールが降ってきた。


「は?」


 避ける間もない。


 視界が青く埋まる。


 柔らかいはずの球体が、質量の暴力になって俺を押し潰す。


 ぐにゃり、と世界が歪んだ。


 ギャグみたいな絵面なのに、普通に怖い。


 ――そこで、未来が途切れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「っ!」


 目を開ける。


 まだ一秒も経っていない。


 心臓が跳ねた。


 頭上だ。


 考えるより先に、横へ飛ぶ。


 白い床を蹴った瞬間、女神様が指を鳴らした。


召喚(サモーニング)


 ぱちん。


 直後、さっき見た通りのクソデカバランスボールが、俺のいた場所へ落ちてきた。


 どんっ、と重い音が響く。


 床がわずかに震え、頬に風圧が当たった。


 危なかった。


 見ていなければ、今ごろ俺は二次元のギャグキャラみたいに潰れていた。


「やるじゃない」


 女神様が、にこりと笑う。


 褒められた。


 そのことに、少しだけ胸が浮く。


 けれど、すぐに彼女は続けた。


「でも、まだまだね」


「え?」


 女神様が、手をぶん、と振った。


 空気が動く。


 だが、何も見えない。


 嫌な予感がした瞬間――


 ぺしっ。


「いっ」


 頭に、柔らかい何かが当たった。


 弾む音。


 軽い衝撃。


 ゴムの匂い。


 見上げると、ソフトバレーボールがぽんぽんと床を跳ねていた。


 いつの間に。


「“透明化付与”よ」


 女神様が、楽しそうに人差し指を立てる。


「自分だけじゃなく、物にも透明化を付与できる。こういう使い方もあるの」


「……なるほど」


 頭をさすりながら、俺は床のボールを見る。


 透明な攻撃。


 見えない物を置く。


 見えない物を投げる。


 見えない物で、相手の意識をずらす。


 ただ隠れるだけの力じゃない。


 使い方次第で、いくらでも化ける。


 胸の奥に、じわりと熱が灯った。


 怖い。


 でも、面白い。


 この力で、俺は何ができる?


 白狼の隣に立つために。


 あいつのチャンスを作るために。


 俺にも、できることがあるのかもしれない。


 ♢


「女神様、ありがとうございました」


 訓練が終わる頃には、肩で息をしていた。


 夢の中なのに、身体は妙に重い。


 額には汗が滲み、喉の奥が少しだけ乾いている。


 それでも、気分は悪くなかった。


 女神様は、ふっと表情を緩める。


「いいのよ」


 その声は、やわらかかった。


 顔を上げると、そこには千年にひとりと言っても過言ではない美貌がある。


 金の髪。


 澄んだ瞳。


 白い空間の光をまとって立つ姿は、間違いなく神様そのものだった。


 けれど、その微笑みは神々しいというより、

 

 近所のお姉さんみたいに、


 少し茶目っ気があって、温かい。


「頑張ってらっしゃい」


 その一言が、胸の奥にまっすぐ落ちた。


「はい」


 俺は頷く。


 白い空間が、少しずつ遠ざかっていく。


 最後に見えた女神様は、やっぱり優しく笑っていた。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 ついに鉄平も術式を獲得しました。


 透明化、未来予知、そして透明化付与。


 ちなみに、最初に鉄平を透明化させていたのは、女神様の“透明化付与”です。


 しれっと鉄平のせいにして押し切りました。


 悪い女神様ですね。


 ブクマや星をいただけますと、とても励みになります。よろしくお願いします‼︎


 そして……次回、いよいよ“勝ち筋ゼロ”の戦いが始まります。


 読者の皆さんの期待と想像を超える鉄平にご期待ください。

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