第4話 凛のバレー応援。炸裂、必殺サーブ!?
別の日。
凛がバレーボールの練習試合に出ることになった。
ハンバーガー屋での雑談で、試合を見に行く約束をしていたのだ。
高身長で経験者。
それだけで、コートでは目立つ。
有望株――その言葉が、しっくり来る立ち姿だった。
俺と白狼、そして翠鳥が観客席に陣取る。
「勇は研究所の仕事で来られないってさ」
翠鳥が足をぶらぶらさせながら言う。
「未来おねえも任務だって」
未来。
話には聞いていたが、俺はまだ会ったことがない。
おそらくヒロインのひとりだ。
やっぱり、簡単には会えないらしい。
そう思った瞬間。
視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
【サブイベントミッション発生】
【ヒロイン:堺未来を確認せよ】
【目的:白狼ルートの本命候補を把握する】
「……出た」
思わず、声が漏れる。
悪鬼の時。
水霊の時。
そして、今。
このルートは本当に、選択肢ではなくミッションで進んでいく。
しかも今回は戦闘じゃない。
誰かを倒せでも、訓練を突破しろでもない。
――ヒロイン候補を確認しろ。
つまり、未来という人物は、それだけ白狼ルートにおいて重要だということだ。
白狼も、わずかに視線を上げていた。
たぶん、同じミッションが見えている。
けれど、白狼は驚いた顔をしなかった。
代わりに、少しだけ得意げにスケッチブックを開く。
『幼なじみ』
『超強くてかっこいい』
「幼なじみ!?」
思わず声が裏返った。
何その強ヒロイン属性。
幼なじみ。
強い。
かっこいい。
しかも翠鳥の激推し。
情報量が急に殴ってくる。
「鉄平と未来おねえ、面識まだないよね」
翠鳥がニヤニヤしながら続ける。
「勇の双子の姉でさ、クールビューティーで……もう、たまんないのよ」
完全に妄想の世界に入っている。
涎、垂れてるぞ。
俺は念のため、翠鳥の頭上を見る。
――攻略対象のアイコンは、ない。
「なあ、翠鳥」
俺は少し声を落とした。
「俺の役割、分かってるよな。白狼の恋愛を成就させる“友人枠”だ」
翠鳥が、ぴたりと動きを止めた。
「……つまり」
ゆっくりと、こちらを見る。
「私は、おにいを攻略できないってこと?」
「そうだ」
間髪入れずに答える。
「攻略する気だったのかよ……」
翠鳥は少し考え込み、
「攻略対象外でもワンチャン……」
「ねーよ」
即答。
「……じゃあ、どうせ推すならおねえがいいな」
堺未来。
勇の姉。
白狼の幼なじみ。
超強くてかっこいいらしい。
なるほど。
その子が、白狼の本命候補か。
ミッション表示まで出た以上、ただの名前だけ登場したキャラではない。
白狼ルートを進めるなら、俺もいつか必ず会う必要がある。
俺は視界の端に残るウィンドウを見ながら、小さく息を吐いた。
【サブイベントミッション】
【ヒロイン:堺未来を確認せよ】
……了解。
白狼の幼なじみにして本命候補。
まずは、その顔を拝ませてもらおうじゃないか。
そんな会話をしている間に、試合が動いた。
「選手交代!」
凛がコートに入る。
ざわめく空気。
サーブ。
彼女に任された。
助走。
床を叩くボールの乾いた音。
一瞬の静寂。
――そして。
ネット際を、鋭角に射抜くサービスエース。
「……え」
翠鳥が目を丸くする。
「すっご……」
俺も立ち上がり、腹の底から叫んだ。
「ナイッサーーー!! いいよ、凛! カンペキ!!」
白狼の分も、声を張り上げる。
次の瞬間――。
「ピィィィィーーーーーー!!」
甲高い指笛が体育館に響いた。
白狼だ。
(……なるほど。指笛もありなのか)
凛は、その応援を受けて、もう一度構える。
高い打点。
跳躍。
ボールの下側を叩く。
――無回転。
ジャンプフローターサーブ。
相手コートで、ボールが不規則に落ちる。
連続エース。
調整試合らしく、すぐ交代にはなったが――存在感は、圧倒的だった。
凛が、こちらを向く。
小さく微笑み、
指でピストルをつくる。
……なぜか、俺の心臓が跳ねた。
(いや、違う。俺は友人枠だ)
視界の端で、好感度が上がる。
指笛の効果、らしい。
白狼を見る。
スケッチブックだけじゃない。
鼻歌だけでもない。
指笛で応援だってできる。
こいつは、ちゃんと自分の気持ちを外に出そうとしている。
だったら、もっと広げられるはずだ。
白狼が、もっと“話せる”場所。
白狼が、もっと自分を出せる場所。
今度、白狼と部活選びをしよう。
俺は、そう決めていた。
今夜、夢で女神様と会う。
『最後の試練は長期戦になるわ』
『いつもは終わってから反省会だけど、夢を使った定期連絡にしましょう』
胸が高鳴る。
早く女神様に会いたい。
話したいことが、たくさんあるんだ。




