↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛請負人・鉄平完結編 ―最後の相手は女神様!? 異能バトル世界の恋愛ミッションに挑めー  作者: 炭酸水ひろみつ(旧 強炭酸)
三章 決戦の夏合宿

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/42

第38話 待望の水着回、後半戦!?

 ここは海水浴場。


 前回に引き続き、水着回である。


 潮風が肌を撫で、波の音と海の家の呼び込みが混ざって聞こえてくる。

 焼けた砂の匂い。日焼け止めの甘い匂い。遠くで弾ける子どもたちの笑い声。


 つまり、夏。


 つまり、青春。


 つまり、読者サービス回である。


 そんな中、凛がなぜか胸を張った。


「海と言えば! ビーチバレー!!」


「コート予約してきたわよ」


「行動が早い」


 未来が呆れ半分で言う。


「ふふん。こういうイベントは初動が命なのよ」


「イベントって言った?」


「言ってないわ」


 言った。


 チーム分けはくじ引きでランダム。


 チーム一。凛、未来、迅先輩。

 チーム二。俺、白狼、勇。


「なんでこいつと同じチームなの」


 未来が迅先輩を見て、露骨に眉を寄せる。


「俺だって地味に傷つくんだぞ?」


「じゃあ派手に傷ついてください」


「追撃が重い」


 審判は翠鳥。


 なぜか笛を持っていた。

 かわいい。

 小柄な審判、非常にかわいい。


 絵馬先輩はパラソルの下で優雅にくつろいでいる。


 サングラス。

 白いシャツ。

 冷たいドリンク。


 完全に避暑地の女優だった。


「頑張ってね」


 この一言だけで、映画のワンカットになる。


「鉄平とは決着つけたいと思ってたのよね」


 凛がボールを手に、不敵に笑う。


「俺もバレーは腕のいい師匠に鍛えられてるからね」


「ふふん。どういたしまして!」


「なぜドヤる!?」


 バチバチの煽り合いから試合は始まった。


 サーブは下手打ちのみ。

 ラリー中心のゆるいルール――のはずだった。


「はっ! ……足が取られて意外とキツい!」


 砂に足を取られ、踏み込みが遅れる。

 体育館とは違う。跳ねた砂が足首に当たり、汗と潮風で肌がべたつく。

 

 凛は軽やかにボールを拾った。


「まだまだ修行が足りないわね」


 未来は普通に強かった。


 拾う。

 繋ぐ。

 迅先輩を無言で牽制する。


「未来、今の俺の動きどうだった?」


「邪魔」


「一文字!?」


 迅先輩は意外と上手い。

 チャラいのに運動神経がいい。

 腹立つタイプである。


 一方、こちら。


 白狼は静かに上手い。

 無言で拾う。

 無言で返す。

 無言で俺に「取れ」という目をする。


 勇は堅実。

 妙に作戦を立て始める。


「鉄平、次は凛の右側を狙おう」


「ビーチバレーで戦術組み始めた」


「勝つためだから」


「姉弟だなあ!」


 結果。


 凛チームの勝利。


「くっ……!」


 俺は砂浜に膝をついた。


「負けた……!」


 白狼がスケッチブックを掲げる。


『凛、強い』


 勇も汗を拭きながら頷く。


「普通にチーム連携がうまかったね」


「さすがバレー部、カッコ良かったぜ」


 迅先輩が素直に褒める。


「ありがとう」


 凛はさらっと返す。


 未来も、少し息を切らしながら凛に声をかけた。


「さっき、私のこぼしたボール、ケアしてくれてありがと」


「チーム戦だもの」


 凛は自然に笑う。


 さすがコミュニケーション強者だ。

 どこに行っても自然に輪の中心にいる。


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。


 嫉妬?

 いや、なんで俺が。


 凛は凛だ。

 女神様とは違う。


 違う……はずなのに。


「鉄平?」


「いや、なんでもない」


 俺は慌てて笑った。


 ♢


 ビーチバレーが終わったあと、凛と俺でみんなの飲み物を買いに行くことになった。


 海の家の前は人が多い。

 焼きそばのソースの匂い、かき氷の甘いシロップの匂い、海風に混じる汗の匂い。


「未来はスポドリ、勇は麦茶、白狼は炭酸でいいかな」


「よく覚えてるわね」


「まあ、癖で」


「おせっかいね」


「褒めてる?」


「褒めてる」


 その言い方が、妙に優しかった。


 その時だった。


「ねえ、ちょっといい?」


 ゴツめのお兄さんが声をかけてきた。


 肩幅が広い。

 腕も太い。

 サングラスの奥の視線が、妙に熱い。


 俺は反射的に凛の前へ出た。


「彼女、付き合ってる人いるんで。やめてもらっていいですか?」


 もちろん嘘だ。

 だけど、こういう場では照れてはいけない。

 堂々と嘘をつく。


 お兄さんは、きょとんとした。


「そうじゃない。用があるのは君だ」


「……俺?」


「俺たちと遊ばないか。君は実に良い身体をしている」


 なん……だと?


「|I am no gay!!《俺はゲイじゃない!!》」


 思わず英語で返してしまった。


 なぜ英語なのかは分からない。

 脳が混乱した結果、義務教育が飛び出した。


 お兄さんは親指を立てる。


「|Let’s join us to gay!?《お前もゲイにならないか⁉︎》」


「うるせえよ! しかも認めてんじゃねえ!」

 

 その瞬間。


 むぎゅっ。


 凛が、俺の腕に抱きついてきた。


 柔らかい感触が、容赦なく押し当てられる。


 俺の脳内に警報が鳴った。


 緊急事態。

 鉄平の処理能力が限界に近づいています。

 直ちに安全な場所へ退避してください。


「この人が、彼氏です」


 言った。


 言い切った。


 凛の頬は赤い。

 たぶん勢いで言った。

 そして今、自分でも「やってしまった」と思っている顔をしている。


 でも腕は離さない。


「……凛?」


「い、今は合わせなさい」


 小声が震えている。


 いや、俺も震えてる。

 主に心臓が。


 そこへ横から。


 むぎゅー。


 絵馬先輩が反対側の腕に絡みついてきた。


「お待たせ、ダーリン」


 サングラスを少しずらし、完璧な微笑みで見上げてくる。


 演技力が高すぎる。


 あと距離が近い。


「絵馬先輩!?」


「こういう時は乗った方が面白いでしょう?」


「面白さで来たんですか!?」


 さらに後ろから。


 むぎゅ。


「遅いぞ、舎弟」


 未来が後ろから軽く抱きついてきた。


「舎弟!?」


「こういう時は数で押すのよ」


 体育会系の発想だった。


 恋愛イベントを物量戦にしないでほしい。


「未来、距離! 距離が近い!」


「助けてあげてるんだから文句言わない」


「助け方が圧!」


 そして、なぜか勢いに乗った精霊組まで実体化する。


「鉄平ーー!!」


 スカイア、ルミナス、クロエがわちゃっとなだれ込んできた。


 未来がやけくそ気味に全員出したらしい。


 俺は処理落ちした。


 右腕、凛。

 左腕、絵馬先輩。

 背中、未来。

 周囲、精霊三体。


 視界が白い。

 潮風が遠い。

 両腕と背中と周囲が情報量で死んでいる。

 多分俺は宇宙猫みたいな顔してる。


 ゴツめのお兄さんは、しばらく俺を見ていた。


 そして、心底うんざりした顔で言った。


「なんだよ、ハーレム主人公くんかよ。やってらんねえ!!」


 捨て台詞を残して走り去っていった。


 待ってくれ。


 違う。

 違うんだ。


 俺はその場で海に向かって五体投地した。


「違うんです。これは浮気とかじゃないんです」


 誰に対する謝罪なのかは分からない。


 いや、分かっている気もする。


 女神様。

 これは違います。

 本当に違います。

 俺は何もしてません。

 いや、何もしてないと言い切るには状況証拠が強すぎますが、少なくとも俺発信ではありません。


 不可抗力です。

 信じてください。


 白狼が一連の流れを面白がって、パシャパシャ撮って、グループチャットにアップロードしていた。


『鉄平、まじおもろ』


「撮るな相棒!!」


 白狼は肩を震わせて笑っていた。


 声はない。

 でも腹筋が死んでいるのは分かる


 平和だった。


 少なくとも、その時までは。


 ♢


 その後、マリンアクティビティでボートに乗ることになった。


 波に揺られるボート。

 海面の照り返し。

 潮の匂いが濃くなり、風が耳元で鳴る。


 ふとした瞬間だった。


 足元が揺れた。


「あ」


 体勢を崩す。

 手を伸ばしたけれど、掴むものがない。


 次の瞬間、俺は海に落ちていた。


 冷たい。


 音が遠くなる。

 水が耳を塞ぎ、視界が泡で白く濁る。


 あれ?

 俺、泳げなかったっけ?


 いや、もともと得意ではなかった。

 それに、体脂肪率一桁。

 筋肉質で、水に浮きにくい体質。


 パニックで息が乱れる。

 足がつかない。

 海水が口に入り、喉が焼けるように苦い。


 水面が遠い。


 光が揺れている。


 俺の意識は、水と一緒に沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。