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恋愛請負人・鉄平完結編 ―最後の相手は女神様!? 異能バトル世界の恋愛ミッションに挑めー  作者: 強炭酸
二章 美術部での出会いと迫る魔の手

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第13話 ワーロックとの因縁。助けに来た伝説の退魔師!?

 部活が終わったあと。


 俺たちは、美術室から少し離れた空き教室に移動した。


 窓の外は、もう夕焼けの色を失いかけている。

 薄暗くなった校庭から、運動部の掛け声が遠く聞こえていた。


 未来は窓際の机に軽く腰を預け、腕を組む。


 白狼は隣の席に座り、スケッチブックを膝の上に置いていた。


 俺は、その向かいに座る。


「まず、ワーロックのことから話すわ」


 未来の声は低かった。


「魔神を崇拝する連中。悪魔や呪物を使って、儀式を起こす闇の組織よ」


「魔神崇拝組織……」


 あらためて聞くと、単語の圧がすごい。


 オカルト研究会が持ってきた呪いの箱どころじゃない。

 もっと深いところに根を張っている、明確な悪意のある組織。


「……悪魔って、そもそも何なんだ?」


 俺は、思わず聞いていた。


 悪魔。

 魔神。

 呪物。

 単語だけなら、ゲームや漫画で何度も聞いたことがある。


 けれど、この世界では違う。

 それは実在していて、人を傷つける力を持っている。


 未来は少しだけ目を細めた。


「分かりやすく言うなら、反社やヤクザみたいなものよ」


「……急に現実的になったな」


「そのくらいの認識でいいわ。関わってはいけない存在。ちょっとした借りでも、あとから色んな言い訳をつけて奪いに来る」


 淡々とした声だった。


 でも、その内容は笑えない。


「願いを叶えてやった。力を貸してやった。助けてやった。そうやって貸しを作って、人間の魂や身体、血筋、才能、運命まで取り立てようとする」


「取り立て……」


「本職のマフィアですら、悪魔とは関わるなって取り決めをしているくらいよ」


「マフィアも?」


 もう基準が分からない。

 反社にすら避けられる悪魔って、どれだけ評判が悪いんだ。


 白狼が、そっとスケッチブックを掲げる。


『悪魔』

『口コミ☆1』


「レビューサイトみたいに言うな」


「ええ。人間同士の犯罪組織の方が、まだルールがある。悪魔は契約の文面より、相手の欲と隙を見てくる」


 未来は、そこで一度言葉を切った。


「そもそも、貸しと信用、それから“お金”という概念そのものが、魔神によって人間社会に持ち込まれた――なんて都市伝説もあるわ」


「お金まで?」


「眉唾よ。退魔師界隈で昔からある与太話みたいなもの。でも、悪魔の性質を説明するには分かりやすい」


 未来は淡々と続けた。


「価値を数値化して、貸し借りを記録して、未来の労働や命まで担保に取る。そういう発想が、悪魔的だって話」


「……急に財布を見る目が変わりそうなんだけど」


 俺は反射的にポケットの財布へ手をやった。


 中身は千円札が一枚と、小銭が少し。

 魔神由来だとしても、俺の財布にはあまり魔神の威厳がない。


 白狼がスケッチブックに書く。


『鉄平』

『財政難』


「やめろ。俺に刺さる」


「本気にしすぎないで。ただ、悪魔はそういう“借し”や“契約”に入り込んでくる存在だと思っておけばいいわ」


 急に、世界の見え方が変わる。


 財布の中にある小銭。

 スマホの電子決済。

 銀行口座。


 そういう当たり前のものにまで、薄く黒い影が差した気がした。


「だから、悪魔の“親切”は絶対に受け取っちゃいけない」


 未来が言った。


「奴らは助けるために手を差し伸べるんじゃない。あとで奪うために、先に触れてくるの」


 その言葉に、空き教室の温度が一段下がった気がした。


「そしてワーロックは、そういう連中を神みたいに崇めている」


 未来は、静かに続けた。


「退魔師連合とは、昔から因縁がある。特に、うちの父さんは何度も狙われていた」


「未来の父さん?」


「元退魔師。かなり有名だったらしいわ」


 未来は、少しだけ視線を落とした。


「父さんは、ただ怪異を倒すだけの人じゃなかった。人と、人ならざるものの間に橋を架けようとしていた人だった」


 その言い方には、誇りがあった。


 でも、同時に、少しだけ寂しさも混じっていた。


「そういう力を持つ人間は、ワーロックにとって邪魔だった。だから、何度も暗殺を仕掛けられた」


「暗殺……」


 口に出した瞬間、背筋が冷えた。


 俺たちは今、学校の空き教室にいる。

 机があって、椅子があって、黒板がある。


 なのに、未来の話だけが、急に別世界のものみたいに重かった。


「でも、父さんは正面からなら簡単には殺せなかった」


 未来は淡々と続ける。


「だから連中は、子どもを狙ってきた」


 白狼の指が、スケッチブックの端を軽く押さえた。


 その反応を見て、俺は気づく。


 これは、白狼にも関係のある話だ。


「小学生の時よ」


 未来が言う。


「私と白狼は、昔から家が近かった。今の白狼は呪言師だけど、その力に目覚めたのは中学に入って声変わりしてから。それまでは、普通に喋る子だった」


 白狼が、少し気まずそうに視線を逸らす。


 今の白狼しか知らない俺には、少し想像しにくかった。


 普通に喋る白狼。


 スケッチブックもマスクもなくて。

 自分の言葉で笑って、驚いて、たぶん今より少し気弱で。


 未来は、そんな白狼を思い出すように、少しだけ目を細めた。


「あの頃の白狼は、よく私の後ろをついてきてた」


 白狼がすぐにスケッチブックを掲げる。


『記憶改竄』

『未来の方が引っ張り回してた』


「細かいことはいいの」


 未来が即答する。


 たぶん、白狼の方が正しい。


「ある日、小学校からの帰り道で、白狼が絵を見せてきたの」


 未来の視線が、白狼のスケッチブックへ落ちる。


「黒い画用紙に、森と鳥居と参道が描かれていた。重たい空気の絵だった。普通の先生や同級生なら、怖いって言うような絵」


 白狼の表情が、少しだけ固くなる。


 きっと、覚えているのだろう。


「でも、私は良いと思った」


 未来は、はっきりと言った。


「怪異とか、普通なら怖がるものを、私たちは小さい頃から見慣れていたから。白狼の絵の“怖さ”より先に、そこにある空気や熱の方が見えた」


 白狼は何も書かない。


 ただ、スケッチブックを抱える指に、少しだけ力が入っていた。


「その時だった」


 未来の声が、わずかに低くなる。


「小型のドローンが飛んできた。今なら分かる。ワーロックが送り込んだ暗殺用の機械兵器だった」


「機械兵器?」


「術式で勝てないから、機械を持ち出したのよ。しかも、子ども相手にね」


 未来の声には、静かな怒りがあった。


「ドローンが銃撃してきた。私たちは、とっさに動けなかった」


 想像する。


 小学生の未来と白狼。

 帰り道。

 ランドセル。

 手には、絵を描いた画用紙。


 そこへ、悪魔崇拝組織の兵器が襲ってくる。


 冗談みたいな絵面なのに、未来の声は一切笑っていなかった。


「助けてくれたのは、父さんと母さんだった」


 未来は窓の外を見た。


「母さんが術式で空間を揺らして、ドローンを落とした。父さんが私たちを抱えて、危険圏から引き離した」


 淡々とした説明。


 けれど、その短い言葉だけで、二人がとんでもない実力者だったことは分かった。


「その時、父さんが白狼の絵を見たの」


 未来の声が、少しだけ柔らかくなる。


「父さんは、絵の専門家じゃなかった。でも、こう言ったの」


 未来は、白狼を見る。


「その絵、上手いじゃないか。俺は詳しくないけど、いつかちゃんと評価してくれる人が現れるかもしれないな、って」


 白狼の赤い瞳が、わずかに揺れた。


 その言葉を、今でも覚えている顔だった。


「白狼は、その時すごく嬉しそうだった」


 未来は小さく息を吐く。


「ただ褒められたんじゃない。“分かってもらえた”って顔をしてた」


 俺は白狼を見る。


 スケッチブックを抱えたまま、視線を落としている。


 ああ、そうか。


 絵馬先輩が言った、


『あなた、絵で喋ってるのね』


 あの言葉は、白狼にとって、ただの入部歓迎じゃなかった。


 小学生の頃からずっと待っていた言葉だったのかもしれない。


「その後、中学に入ってすぐ、白狼は呪言に目覚めた」


 未来が続ける。


「声変わりの時期に、声に強制力が宿った。だから、今みたいに声を封じる生活になった」


 白狼は、スケッチブックに短く書いた。


『事故防止』

『仕方ない』


 淡々としている。


 でも、その裏にどれだけの諦めがあったのか、俺には分からない。


 喋れていた子が、ある日から声を使えなくなる。


 普通の会話も、返事も、冗談も、全部危険になる。


 それは、俺が思っているよりずっと重いことのはずだ。


「それでも、白狼は絵を描き続けた」


 未来は言った。


「声で伝えられないものを、絵で伝えようとしていた。誰かに分かってもらえる日を、どこかで信じながら」


 白狼は、何も書かない。


 けれど、その沈黙は否定じゃなかった。


「だから」


 未来は、まっすぐ俺を見た。


「絵馬先輩に出会ったことには、きっと意味がある」


 俺は、美術室での絵馬先輩の言葉を思い出す。


 基本技法は、まだまだ。

 でも、面白い。

 あなた、絵で喋ってるのね。


 あれは、白狼の心の奥に届いた。


 そして今、絵馬先輩はワーロックに狙われている。


 白狼にとって大事な人になりかけているその人が、罠に追い込まれようとしている。


「……助けよう」


 俺は言った。


 自然と、そう口にしていた。


「白狼のためにも。絵馬先輩のためにも」


 その瞬間、視界の中央に半透明のウィンドウが浮かび上がる。


【ストーリーミッション更新】


【ワーロックの魔の手から絵馬(えま)を救え】


 未来は少しだけ口元を緩めた。


「そう言うと思った」


 白狼が、ゆっくりとスケッチブックを掲げる。


『ありがとう』

『相棒』


 胸の奥が熱くなる。


 俺は白狼に向かって、軽く拳を突き出した。


 白狼も、同じように拳を合わせてくる。


 こつん、と小さな音。


 それだけで、十分だった。


 次の物語は、美術室から始まる。


 そう思っていた。


 けれど、その奥にはワーロックの闇が広がっている。


 なら、やることは一つだ。


 白狼の絵を認めてくれた人を、絶対に助ける。

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