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恋愛請負人・鉄平完結編 ―最後の相手は女神様!? 異能バトル世界の恋愛ミッションに挑めー  作者: 強炭酸
二章 美術部での出会いと迫る魔の手

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第12話 絵馬登場。白狼の絵にまつわる過去!?

 俺と白狼、そして未来は、美術部の前に来ていた。


 放課後の校舎は、昼間の騒がしさが嘘みたいに静かだった。

 廊下の窓から差し込む夕陽が、床を細長く染めている。


 その一番奥。

 美術室の扉の前で、白狼が少しだけ足を止めた。


 スケッチブックを抱える指に、わずかに力が入っている。


 緊張しているのかもしれない。


 無理もない。

 言葉の代わりに描いてきたものを、初めて誰かに見せるのだ。


 俺は軽く息を吐き、扉に手をかけた。


「失礼しまーす」


 扉を開けた瞬間、独特の匂いが鼻をくすぐった。


 絵の具。

 溶剤。

 紙。

 木製のイーゼルと、乾いたキャンバスの匂い。


 それらが混ざり合った、創作の匂いだった。


 教室とは違う。

 訓練所とも違う。


 ここには、戦いのための冷たい空気ではなく、何かを形にするための静かな熱がある。


「いらっしゃい」


 奥からこちらを振り向いたのは、美術部部長の新渡(あらと)絵馬(えま)だった。


 この学校では、ちょっとした有名人だ。


 画商の娘。

 色が音に聞こえる共感覚の持ち主。

 美術部がほとんど彼女一人で成り立っているのも、学校への寄付があるからだとか、そうでないとか。


 噂だけなら、いくらでも聞いたことがある。


 淡い紅色の髪を、夜会巻きにまとめている。

 制服の上から羽織った白衣には、乾ききった絵の具の跡がいくつも残っていた。


 身長は一六六センチくらいだろうか。

 そこまで高いわけじゃない。


 なのに、姿勢がいい。

 腰の位置が高く、立ち姿に無駄がないせいか、実際よりすらりとして見える。


 赤縁の大きめの眼鏡越しに、こちらをじっと見つめる視線。


 観察されている。


 そう感じるくらい、絵馬先輩の目は真っ直ぐだった。


 そして。


(……出てる)


 彼女の頭上には、好感度ステータス。


 しかも、攻略対象の表示つき。


 間違いない。


 新渡(あらと)絵馬(えま)

 最後のヒロイン候補だ。


 視界の端には、まだサブイベントミッションが残っていた。


【サブイベントミッション進行中】


【最後のヒロイン候補、絵馬(えま)に会え】


「白狼」


 俺は小さく声をかけ、白狼のスケッチブックを指で示した。


「見てもらいなよ」


 白狼は、ほんの一瞬だけ迷った。


 それから静かに頷き、スケッチブックを絵馬先輩へ差し出す。


 絵馬先輩はそれを受け取ると、ページをめくった。


 その瞬間。


 彼女の表情が、変わった。


「……これは」


 沈黙。


 美術室に、時計の針の音だけが響く。


 白狼はじっとしていた。

 俺も、なぜか息を止めていた。


 絵馬先輩の指が、紙の上をゆっくりとなぞる。

 線を追うように。

 その奥にある何かを、確かめるように。


「基本技法は、まだまだ」


 一瞬、空気が止まった。


 白狼の肩が、ほんの少しだけ落ちる。


 だが、絵馬先輩は続けた。


「でも――面白い」


 その声には、はっきりと熱があった。


「線が荒い。構図も甘い。けれど、何を見て、何を伝えたいのかは分かる」


 絵馬先輩は顔を上げる。


 赤縁の眼鏡の奥で、瞳が静かに輝いていた。


「あなた、絵で喋ってるのね」


 白狼の目が、わずかに見開かれる。


 その言葉は、たぶん白狼にとって、ただ褒められるよりも深く刺さった。


 喋れない。

 だから描いてきた。


 誰かに伝わるかどうかも分からないまま、それでも線を重ねてきた。


 それを、初対面の絵馬先輩は一目で見抜いた。


「よろしくね、白狼くん」


 絵馬先輩が、穏やかに微笑む。


 その瞬間。


 視界の端で、サブイベントミッションが淡く光った。


【サブイベントミッション達成】


【最後のヒロイン候補、絵馬(えま)に会え】


【達成条件:新渡絵馬との接触】

【追加条件:白狼の絵を見せる 達成】


【結果:成功】


 続けて、絵馬先輩の頭上に浮かぶ好感度メーターが動く。


 目に見えて、数字が上がった。


(……っ!)


 胸の奥に、確かな手応えが芽吹く。


 いける。


 この出会いは、白狼にとって間違いなく意味がある。


「いける……!」


 思わず、小さく呟いた。


 白狼がこちらを見る。


 俺は小さく頷いた。


 大丈夫だ。

 このルートは、ちゃんと前に進んでいる。


 俺も、そのまま美術部に入ることにした。


 将来、美容師かスタイリストを目指すなら、ヘアデザインやコーディネートを描くための基礎も欲しい。


 それに、白狼を一人で放り込むつもりもない。


「未来も入部するの?」


 俺は隣に立つ未来を見る。


 てっきり、白狼の付き添いだけかと思っていた。


 未来は少しだけ視線を流してから、短く言った。


「……こっち来て」


 その声は低かった。


 さっきまでの部室の空気とは違う。

 少しだけ、訓練所で見た時の顔に戻っている。


 俺と白狼は顔を見合わせ、未来の後に続いた。


 部室を出て、廊下の端へ移動する。


 夕陽が差し込む廊下は静かだった。

 遠くの教室から、椅子を引く音がかすかに聞こえる。


 未来は周囲に人がいないことを確認してから、声を潜めた。


「任務よ」


 その一言で、背筋が伸びる。


「絵馬先輩が“魔神崇拝組織(ワーロック)”に狙われている」


「ワーロック……?」


 聞き慣れない言葉だった。


 だが、響きだけで分かる。

 ろくでもないものだ。


「魔神を崇拝する連中。悪魔や呪物を使って、儀式を起こす組織よ」


 未来の声は、淡々としている。

 けれど、その目は笑っていなかった。


「絵馬先輩は護衛対象として即時対応。私もサポートに入る」


 白狼の手が、わずかに止まった。


 スケッチブックの端を握る指に、力が入る。


 その横顔は、さっきまでとは別人みたいに硬い。


 絵を認めてくれた人。

 自分の線を“喋っている”と言ってくれた人。


 その絵馬先輩が、狙われている。


 白狼の中で、何かが静かに切り替わったのが分かった。


『……わかった』


 短い返事。


 でも、それだけで十分だった。


 その瞬間。


 俺の視界に、新たなウィンドウが浮かび上がる。


【ストーリーミッション更新】


【ワーロックの魔の手から絵馬(えま)を救え】


【達成条件】

 ・新渡絵馬を護衛する

 ・ワーロックの狙いを調査する

 ・絵馬に迫る脅威を排除する


 喉が鳴った。


 美術部。

 絵馬先輩。

 白狼の絵。


 ようやく穏やかな部活イベントが始まると思った。


 なのに、表示されたのは新しいストーリーミッション。


 やっぱり、このルートはただの恋愛イベントでは進まない。


 誰かと関係を築くたびに、必ず危機が絡んでくる。


 でも。


 俺はもう、そのことに少しだけ慣れ始めていた。


「……分かった」


 俺はウィンドウから目を離し、未来を見る。


「俺も協力する。白狼のためにも、絵馬先輩のためにも」


 未来は、じっと俺を見た。


 それから、ほんの少しだけ口元を緩める。


「いい返事」


 そう言って、顎をしゃくった。


「部活のあと、少し話そうか。退魔師連合と魔神崇拝組織(ワーロック)の因縁について」


 白狼が静かに頷く。


 俺も頷いた。


 次の物語は、美術室から始まる。


 そう思っていた。


 けれど、どうやらその奥には、もっと深い闇が口を開けていたらしい。


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